やわらかいもの な~に?

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 今回のテーマ、なぞなぞか!(笑)
あなたは「やわらかいもの」と言われてどんなものを連想しますか?
羽毛布団?わたがし?マシュマロ?お豆腐?
では、やわらかくて、おおきいものは?
空に浮かぶ雲?ふかふかのベッド?エアーマット?そよ風?
現実の「硬さ」を数値で表す方法が何種類もあります。
1.「ショア硬さ」はダイヤモンドのついた小さなハンマーを測定物に落として、そのはね上がり高さで硬さを測定します。はね上がりの高いものほど硬いことになります。
2.「ロックウェル硬さ」
ロックウェルC硬さは、頂角120°のダイヤモンド円錐(圧子)を測定物に一定荷重で押し込み、その押し込み深さで硬さを測定します。深さの浅いものほど硬いことになります。
3.「ブリネル硬さ」
ブリネル硬さは鋼球を測定物に一定加重で押し込み、その時に出来るくぼみの大きさで硬さを測定します。くぼみが小さいほど硬いことになります。
4.「ビッカース硬さ」
ビッカース硬さは対面角136°のダイヤモンド四角錐(圧子)を測定物に一定荷重で押し込み、ブリネルと同様に出来たくぼみの大きさで硬さを測定します。これもくぼみが小さいほど硬いことになります。
う~ん。物理の授業だわ(笑)
 楽器を演奏するひとにとって、実際に「硬い・柔らかい」ものがあります。
・指の表面=皮膚の柔らかさ
・皮膚の下の「脂肪・筋肉」の柔らかさ
・さらに奥にある「骨」の硬さ
・弓のスティックの硬さ
・弓の毛の柔らかさ
・弦の表面の硬さ
・弦全体の張力の柔らかさ
・指板の硬さ
など多くの「もの」にそれぞれに硬さ・柔らかさがあります。
・柔らかいもの同士が「触れ合う」場合には?お互いが、へこみますね。
・柔らかいものが硬いものに押しあてられると?柔らかいものが、へこみます。
・硬いもの同士が押し合わされると?少しでも柔らかい方が、へこみます。
これをヴァイオリン演奏に当てはめると…
1.右手側
指(柔):弓のスティック(硬)
弓の毛(柔):弦(硬)
弦(柔):駒(硬)
2.左手側
指(柔):弦(硬)
首・顎(柔):顎当て(硬)
鎖骨(硬):楽器・肩当て(硬)
さて、問題は人間の「触覚」です。
右手指も左手指・首・肩などに触れる部分で感じる「強さ」です。
強い力で振れていても、鳴れてしまうと感覚が麻痺します。
弱い力で「触れた」触覚と、強い力で「押し付けられた」触覚の違いです。
無意識に強く握ったり、強く挟み込んでしまうことに注意が必要です。

 「硬い」「柔らかい」と言う表現は必ずしも「現実に触れるもの」以外にも使われています。映像はオイストラフの演奏するサン=サーンスの序奏とロンド・カプリチオーソです。音色の柔らかさを感じる演奏だと思います。

 音色や演奏の硬さは計測できません。単位も基準もありません。主観的なものです。それなのに何故か?この表現は頻繁に使われます。では、「音楽」の硬さと柔らかさについて考察します。
1.硬く感じる演奏
・音の立ち上がり=発音に、強いアタックが続く演奏
・高音が強く響き低音の少ない音色が続く
・ビブラートが常に速く深い
2.柔らかく感じる演奏
・アタックのコントロール=強弱がある
・低音の響きが強く、高音の倍音が適度に含まれた音
・音楽に溶けあうビブラートの速さと深さ
これらの違いをコントロールする技術は、何よりも「聴覚」と「触覚」がすべてです。もちろん、弦の種類、楽器と弓の特性によって音色は大きく変わります。
それらを「ハードウエア」と考え、技術・感覚を「ソフトウエア」と考えることもできます。言うまでもなく、使いこなすのは人間です。ハードウエアの個性を判断し理解するのも演奏する人間です。数値・種類で表すことができるのは「材質」や「弦の太さ・硬さ」など数点だけです。演奏する楽器と弓の「特色」の好みがなければ、どんな楽器で演奏しても良いことになります。「イタリアの楽器は良い」とか「古い楽器は良い」とか「鑑定書のある楽器は良い」、さらには「値段の高い楽器は良い」すべてに言えることは…
「そうとは限らない」つまり自分の好きな音が出る楽器か?を判断できないひとにとって「良い楽器」は存在しえないのです。その「耳」を鍛えることが軽んじられている気がしてなりません。とても悲しく、恐ろしい気がしています。

 最後に関節や筋肉の「柔軟性」と、音の柔らかさについて。
他人の身体の「硬さ・柔らかさ」は演奏を見ているだけでは判断できない部分がほとんどです。体操選手やフィギアスケート選手のように「身体の柔らかさ」をアピールする競技もあります。ヴァイオリン演奏で、見るからに「ぐにゃぐにゃ動く」演奏者を見かけますが、それは「柔らかい」とは違います。むしろ体幹が支えられていないから「ぐにゃぐにゃ」なケースが多く、必要な柔軟性とは異質のものです。身体には「硬い骨」もあり「強く太い筋肉」も必要なのです。その硬さを軸にして周囲に「柔らかい筋肉・関節」があるのです。
 右手指には「握らずに=ぐー!せずに」「しっかりやさしく包み込む」力が必要です。左手指にも同じ同じことが言えます。
 脱力したときの強さ…矛盾しているように聞こえますが、力を抜いた時の適度な「硬さ=弾力性」の事です。赤ちゃんの指は、触るとふにゃふにゃ(笑)です。その赤ちゃんは本能的に「つかまって自分の体重を支えられる指」を持っています。つまり「強い」のに「柔らかい」のです。理想の力でもあります。
 必要な力を「見切る」ための練習が必要なのです。
弱すぎれば安定しません。だからと言って強すぎれば硬直します。
「ちょうどよい力加減=硬さ」がそれぞれの部位にあります。
それを見つけることと、常に観察することが練習の要=かなめになります。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

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