演奏者から考えるコンサートチケットの金額

このエントリーをはてなブックマークに追加

 動画は、私たち夫婦が毎年楽しみにしている「ベルリンフィル12人のチェリスト」によるコンサートの映像です。ここ数年、コロナの影響で開催されず、寂しい限りです。
 サントリーホールでのコンサートに、過去何回か聴きに行っていますが、A席で10,000円ほど。この金額が「高いのか?安いのか?」
 結論から言うと、私たちはこの演奏会の「対価」としての金額は「納得できる」と思っています。安いのか?と問われれば、経済的なゆとりのない私たちにとって「贅沢な金額」であることは事実です。それでも納得できるのは、なぜでしょうか。そして、自分自身が演奏会を開く際の「料金」について感じることを書いてみます。

 前提として、演奏を食職業=生活の糧とする場合と、ほかに生活できる収入や財力がある場合で、状況はまったく違います。
 それは演奏のうまい・へたの問題ではありません。むしろ、聴く側=料金を払う側にとっては、興味のないことです。演奏者がお金持ちでも貧乏でも、関係ないのです。一言で言ってしまえば、聴く側にとってみれば、1円でも安い方がうれしいのは当たり前の事なのです。
いくらなら?コンサートに行きたいと思うでしょう。
聴く人の「お財布事情」と「価値観=隙からい」で決まります。
誰でも聴くことの出来る金額は「無料」以外、いくらでも同じだと言えます。
それが500円でも納得のいかない演奏会もあれば、30,000円払っても満足感の得られる演奏会もあるはずです。人によって違いますよね。


 演奏する側から考えます。
演奏会を開くために、必要な「経費」があります。
・ホールの使用料金、付帯設備(ピアノや照明など)の料金は、自分の家が会場でない限り支払わなければなりません。
・広告宣伝費。これも、自分でインターネットで宣伝して、自分でチラシを作り自分で配らない限り、費用がかかります。当日のプログラムも同様です。
・ 当日のスタッフ人件費。家族だけですべての作業、受付、アナウンス、誘導などができるなら別ですが、普通は必要になります。ピアノの調律費用も不可欠です。
・その他に、録音したり撮影すれば当然費用がかさみます。
これらの必要経費を押さえれば抑えるほど、規模が小さくなり、演奏者自身の負担が増えていきます。逆に、経費にいくらかけても痛くもかゆくもない「お金持ち」なら、2,000人収容できる大ホールを借りて、ラジオや雑誌にガンガン!広告を出し、無料チケットをばらまき、来場者が20人でも構わないのかもしれません。人はそれを「金持ちの道楽」と呼びますが(笑)

 職業演奏家が演奏会で収益、つまり「黒字」を出したいと思うのは、当然のことです。赤字で演奏会を開く余裕のある演奏家は別ですが。
 多くの場合、音楽事務所がコンサートを企画し開催します。
事務所は利益を出さなければ運営できません。赤字になることがわかっている演奏会は開きません。若手で無名の演奏家のコンサートを企画する場合、当然のこととして演奏家に、チケットのノルマを求めます。簡単に言えば「演奏者がお金を集める」ことが、開催の条件になります。1枚、3,000円のチケットを100枚売ろうと思ったら、どれだけ大変なことか、想像できるでしょうか?音楽仲間がたくさんいたとしても、それぞれに演奏会を開くための負担を抱えていますから、生活にゆとりがなくて当たり前です。親戚が100人いる人は、あまり見かけません。音楽事務所は、その収益を事務所の経費と利益にします。さらに、大きな利益を得るために、事務所が「先行投資」して著名な演奏家を招くための「資金」にもします。つまりは「事務所の利益」に消えるのが、チケット代金だと言えます。

 自主公演という形で開くコンサートの場合。当然のことですが、会場費、広告宣伝費を増やすことは、赤字になるリスクを高めます。かといって、高いチケット代金を設定すると、チケットを買ってくれる人が減るリスクが高まります。
 「いくらに設定したら?」
極論すれば、会場費、広告宣伝費、当日の人件費がすべて「ゼロ」なら、チケット売り上げがすべて「利益」になります。先述した通り、聴く側にすれば、どこに、支払ったお金が消えていようが問題になりません。演奏に満足できれば良いのです。
 料金を上げれば「高すぎる」と言われる。安ければ「持ち出し」になる。
一体、演奏かはどうすれば?良いのでしょうか。

 コンサートにかかる経費の一部でも、自治体や国が負担してくれる「文化」が日本に芽生えるまで、あと100年は、かかるでしょう。もっとかかかるかも知れません。なぜ?そうなるのでしょうか。
 演奏家たちが、聴いてくださる方たちに実状を伝えないことに、原因があると思います。事務所に所属する演奏家が、声に出せないのは仕方ありません。言えば「くび」になるのですから。ただ、現役を退いた演奏家や、指導者、さらにはフリーランスの演奏家たちが、みんなで聴衆に現状を理解してもらう「努力」をしなければ、演奏家が「儲けている」ように思われても当然ではないでしょうか?
 なにも演奏会で「経費一覧」を公開しなくても(笑)、プログラムやチラシに、率直な思いを書いたり、トークで伝えることは悪いことだとは思いません。
どうして?この金額になるのか。チケットの収益は、いったいどこに使われるのか?それを、一般の方々に伝えなければ、私たち演奏家のしていることは、ただの「道楽」か「金儲け」としてしか理解されないと思うのです。
 演奏家も聴く人も、音楽を必要としていることを共感できる「文化」を育てることは、黙っていてはできません。
 多くの皆さんの、ご理解とご協力を頂きたいと思っています。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です