演奏者が変わるとヴァイオリンの音が変わる謎

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 映像は、ピアソラ作曲の「タンゴの歴史」からカフェとナイトクラブです。今回のテーマは、ヴァイオリンを演奏する人にとって大きな謎の一つです。購入したいヴァイオリンを選ぶとき、楽器店に行っていくつものヴァイオリンを演奏して比べますよね?
 一人の人間が違う楽器を演奏した時に感じる「違い」とは別に、ひとつのヴァイオリンを違う人が演奏した時に、楽器の音は変わるのでしょうか?結論から言うと、変わります。

 当然、楽器そのものの構造や材質が変わるわけではありません。演奏者の弾き方によって、楽器のなにが?どう変わるのでしょうか?単にじょうずな人が演奏すると良い音がする…と言うことではありません。楽器固有の「素の音」があります。人間の声で考えるなら人によって、地声が違うのと同じです。
 楽器を演奏するときに、演奏者が望む=好きな音で演奏しようとします。音の大きさ、音色の感じ方は人それぞれに違います。
同じ音を何人かの人が同時に聴いて、同じ印象を持つことはありません。ある人は高音が強いと感じ、ある人は高音が足りないと感じます。数値化しても他の楽器と比較しない限り、固有の楽器の音を表わすことは不可能なのです。
 自分の好みの音量・音色を目指してヴァイオリンを演奏すると、次第にどう演奏すると、どんな音量・音色が出せるのかを演奏者が見つけられます。その弾き方になれると、自分の好みの音で楽器が鳴ります。演奏者は「音が変わった」と感じます。それは自分の演奏の仕方が変わったのです。これが「演奏者の変化」です。

 一方で、楽器自体は何も変わらないでしょうか?短時間=数時間で木材の固さが変化することは物理的にあり得ません。弦は時間と共に変化します。温度・湿度、さらに「芯」に当たる素材の伸び方、弦表面の変化もあります。
 楽器を自分の好きな音量・音色で、長時間=数日~数年演奏し続けると、楽器の中で、特有の部分が常に大きく振動します。大きくと言っても目に見えるほどの大きさではありませんが、音自体が空気の振動ですから、その音の高さと大きさによって、楽器本体の「木」も振動します。そして、演奏の仕方によって、その振動の場所が変わります。解放弦を演奏しながら、左手で裏板をそっと触ってみると、ある部分だけが大きく振動しているのを感じます。違う高さを弾くと、違う部分が振動していることに気づきます。
 金属の場合は、「金属疲労」と言う言葉があるように、常に一定の力が加わるとやがてその部分が破断します。木材の場合は、強い力が加われば「削れる」か「割れる」ことがありますが、金属に比べて木材は柔軟性に富んでいます。固い木が乾燥すると、乾いた音になります。それがヴァイオリンの「体=共鳴箱」です。
 振動し続ける部分が、振動しやすくなるのは当然です。
つまり、演奏者の好みの音量・音色が、ヴァイオリンの「木」を振動しやすく変化させていることになります。これが「楽器の変化」です。

 ヴァイオリンに限らず、演奏方法で楽器の音量も音色も変わるはずです。その変化を起こす技術が演奏者に必要です。
ヴァイオリンで言えば、弓の張り方ひとつで音色が変わります。
弓の毛を当てる弦の場所が、数ミリ変わるだけで音色が変わります。圧力がほんの少し変わっても音色が変わります。弦の押さえ方でも音色が変わります。ピッチがほんの少し変わっただけで、音色が変わります。いつも決まったピッチで、それぞれの音の高さを演奏していると、ヴァイオリンが共振しやすくなります。
 他にも音を変える要素はたくさんありますが、つまりは演奏者の「耳」が基準であるということです。
 残念ながら、人間の耳は体調によって聞こえ方、感じ方が違います。場所が変われば聞こえ方も変わります。その不確定な「耳」に頼るしかありません。だからこそ、「技術」を安定させる必要があります。「視覚」に頼らずに「聴覚」と「触覚」に神経を集中させることで、自分の楽器の音を、自分好みの音に替えることが可能になります。頑張ろう!
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

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