音楽の幅と演奏能力

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 上の動画は「ステファン・グラッペリ」さんの素敵なJAZZヴァイオリン演奏です。聴いていて、体に降り注ぐようなヴァイオリンの軽やかで、甘い音色が大好きです。
 今回のテーマである「音楽の幅」は、音楽のジャンルだけではなく、演奏する楽器の編成、演奏方法などの「種類」でもあります。
 ヴァイオリンを使って演奏する音楽にも、様々な音楽があります。
クラシック音楽と呼ばれる音楽でも「オーケストラ」「弦楽アンサンブル」「ピアノとの二重奏」「無伴奏」他にも色々な演奏形態があります。
音楽の種類にしても、バロック時代の音楽でのヴァイオリン、ベートーヴェンやブラームスの時代の音楽、現代作曲家の作品でもヴァイオリンは使用されます。
 オリジナル作品がオーケストラのための音楽でも、ピアノとヴァイオリンで演奏できるように「アレンジ」された音楽もあります。
動画のようなヴァイオリン演奏も、その一つです。
私は音楽の学校で「クラシック音楽のヴァイオリン演奏」を学びました。
だからと言って、クラシックと呼ばれる音楽の「すべて」を学んだわけでも演奏できるわけでもありません。学校で学べるのはほんの数年間。その間に学べる音楽の幅は、ごく限られた範囲の音楽です。

 時代と共に音楽の幅は広がります。音楽の「基礎」にあたる和声や形式は変わっていない面もあります。一番大きく変化しているのが、人間の手によらない「機会による音楽演奏」です。もはや「楽器」と「電子機器」の差が混然としてしまいました。コンピューターにデータを入力すれば、どんな音色の音も、どんな高さの音も、どんんなに短い音でも、間違えずに何度でも演奏するのが「電子楽器」です。それを「楽器ではない」と言い切るのであれば、ピアノと言う楽器でさえ、ピアノが出来る以前の人たちからすれば「それは楽器ではない」と言われるのと同じことです。エレクトーンという楽器はヤマハの作る「電子楽器」です。突き詰めればコンピューターも楽器なのです。

 ヴァイオリンを人間が演奏する楽器と限定してみます。
ヴァイオリンの音は人間が演奏する音だと定義してみます。
ヴァイオリンで演奏できる音楽に、向き・不向きがあると思います。
音楽の要素の中で「旋律」だけを演奏する場合、ほとんどの曲はヴァイオリンで演奏できます。演奏できても、ヴァイオリンの持つ特性を活かせない曲。

動画での演奏内容について、コメントするつもりはありません。
生徒さんが「次にやってみたい曲」として教えてくれた動画です。
その生徒さんが小学校の運動会で踊った曲らしく、「知っている曲をヴァイオリンで弾いている動画を見つけたから」という理由です。
 もし、クラシック音楽だけを教える先生であれば当然「却下」するケースです。「もっと他の曲を練習しなさい」と言うのでしょうね。
 趣味でヴァイオリンを演奏する人にとって、あるいはクラシック音楽になじみのない人にとって、この曲がヴァイオリンの為に作曲された音楽ではないと、気付くでしょうか?最初の動画、グラッペリの演奏はクラシック音楽ではありませんが、演奏技術も内容も素敵だと私は思います。
 実際問題、この「群青」なる曲をヴァイオリンで演奏して本人が楽しいと感じるのであれば、、思うように演奏できるようにレッスンしてあげるのが私の仕事です。クラシックではないから、ヴァイオリンのための曲ではないからという理由で「ダメ」というのは理由としてあまりに説得力に欠けると思います。

この動画は、メリーオーケストラ定期演奏会に、教員時代に顧問をしていた軽音楽同好会のメンバー「JIRO」くんがギターでゲスト出演しくれた時の演奏です。
ドラムセットとエレキギターの「サウンド」と弦楽器の音色。会場で聴くと感動モノでした。

こちらは「ガブリエルのオーボエ」という映画のテーマ曲です。
当然、オーボエで演奏するために作曲された音楽です。
それをヴィオラで演奏したのが上の動画です。下の動画はメリーオーケストラ定期演奏会にオーボエ奏者「沖響子」さんをお招きしての演奏。
メリーオーケストラの演奏技術には目をつぶってください(笑)
作曲科の「意図」した音楽とは違うかもしれませんが、初めて聴いた人にとって違和感のない演奏なのか、なんとなく変な感じがする演奏なのか?演奏技術もさることながら、旋律の「向き・不向き」はあるのかも知れません。

 最後に、演奏者がコンサートで、自分の好きな音楽「だけ」演奏する場合、お客様がそのコンサートで満足できるのか?ということも考慮するべきです。
予め当日の演奏曲をすべて、あるいは大部分公開して開催するのであれば、そのコンサートに来る人は「その曲」を楽しみに来る人でしょう。それが出来るのは「すでに誰かが演奏した音楽」だからです。もし、新作の音楽で初演だとしたら?プログラムを公開しても誰も知らない音楽ですよね?
 プログラムを公開していなくても、お客様が「どんな曲を聴けるのかな?」と期待しながら会場に向かうのも楽しいと思うのです。期待を裏切られることもあるかも知れません。でも、初めて見る映画のストーリーを知っていたら、面白さは半減しますよね(笑)
 一人でも多くのお客様が、一曲でも楽しんでもらえるプログラム=音楽の幅で、私はコンサートを企画しています。クラシック音楽が好きな人もいれば、ジャズが好きな人もいます。映画音楽が好きな人もいます。それらを、リサイタルならヴァイオリンとピアノ、もしくはヴィオラとピアノで演奏します。オーケストラでも同じです。
 「お子様ランチ」のようなプログラムかもしれません。ただ、美味しいお子様ランチは、懐石料理と同じだと思います。少しずつ、好きなものを聴ける=食べられるのも楽しいと思えるからです。
音楽に幅がある以上、演奏する私たちもその幅を知ることが必要だと思っています。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

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