演奏者の「脳」

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 映像はシューベルト作曲「セレナーデ」をヴァイオリンとピアノで演奏したものです。歌曲を「言葉抜き」で演奏するわけですが、原曲の歌詞の内容を知ってから演奏することも大切な準備です。

 今回のテーマは、演奏者に必要な「考える力」についてです。
学校のテストの成績や学歴が高いと「頭かが良い」という事がありますが、多くの場合「記憶する能力が高い」ことを指しているように感じます。何かを覚えることは、脳の働きによる結果です。逆になにかを忘れることも同じく、脳の働きです。
「記録力」以外に、推理したり想像したりする脳の働きがあります。
計算とは違い、正解のない「問い」に対して、より良い「答え」を導き出す能力でもあります。

 演奏する音楽を覚える方法も様々です。「聴いて覚える」「楽譜を見て覚える」その両方を組み合わせる方法など、人によっても違います。自然に覚えてしまうこともあります。無理やりに覚えようと努力することもあります。結果として「思い出せる」ことが目標になります。覚えるという事は「思い出せる」ことです。

 推理したり想像する場合、ある時突然にひらめくこともあるかも知れません。が、多くは「頭をひねる」つまり「考える時間」が必要になります。これは、音楽に限らず「物を創る・造る」場合に必要不可欠なことです。人間は自らの経験をもとにして、なにか新しい「物」「事」「方法」を探します。つまり「記憶」に頼る部分が大きいことにもなります。
子供と比べて大人の記憶力が劣ったり、物忘れが多くなる原因の一つが「新しいことを覚える機会の減少」があります。生きるために必要なことを一通り覚えてしまたら、意図して何かを覚えようとしない限り、ほとんど「慣れ」だけで行動します。

 演奏したこのある音楽でも、毎回「新しい想像」をする人と、しない人がいるように思います。漫然と「音を出す」だけの技術を使い演奏する場合には「脳」は使わなくても演奏できます(笑)逆上がりができたり、自転車に補助輪なしで乗れるようになれば、何十年経ってからでもできることがその証です。無意識に記憶している演奏技術を使えば、何も考えなくても「音H出させる」のです。

 演奏中の「一瞬」に何を考えているでしょう?
次に演奏する音の「音名」「高さ」「長さ=音符や休符の種類」「音の大きさ」「ポジション」「弦」「指使い」「弾き始める弓の場所」「弓のダウンアップ」と、弦楽器の場合を書きましたが、それぞれの楽器で考える「準備」があります。
 次の音だけで演奏が滞りなくス数課と言えば?例えば短い音符が連続するパッセージでは、1拍分や1小節分を読み取り考えます。
ゆっくり歩くなら足元を見ながら勧めますが、車で高速道路を走る時には、相当前方にも目をやっているはずです。
 演奏しながら聴く自分と他の人の「音」に反応することも、脳の働きです。
耳鼻科などで行い検査「聴力検査」とは違います。音に反応して、ごく短時間で反応する「速さ」と「正確さ」と「同時に反応する能力」が求められます。
「考えなくても反応できる」ようになるまでにかかる期間・時間は人によって違います。同じ年齢の子供でも、その個人差は非常に大きなものです。
反応が速く、修正する方法があっていると「耳が良い」と言われます。
特に自分の出している音への反応は先述の「次の音」を考える作業と同時に行われます。つまり「次の音」と「今、出ている音」を常に考える脳の働きです。

 私自身、視力Gあ低下し楽譜を見ながら演奏することが出来なくなってから、多くの事に気が付きました。
以前は「初見で演奏する」ことが出来ました。初めて演奏する曲の楽譜を「見ながら」演奏し、考えたことを楽譜に書き込みながら練習しました。その延長として「楽譜を見なくても演奏できる」つまり暗譜の状態になります。
 楽譜を見ながら演奏することが当たり前だったわけですが、それが出来なくなってみると、生徒さんが「視覚に頼りすぎている」気がします。
「楽譜」「左手の指」「弓と弦の接点=駒の上」などを、見ながら演奏している生徒さんが、ある一瞬「なにに集中していたか?」聴いてみると、
「なんとなく楽譜を見ていた」「なんとなく左手を見ていた」という答えがもっとも多いのが実態です。むしろ「何も考えていない」状態に近いのです。

「感じること」と「考えること」は別のものです。五感で感じるものは「外的刺激」によるものです。一方で、考えることは外的な刺激がなくても想像できる「イメージ」です。言うまでもなく、イメージは実態がないものです。見えない・触れないものですが、明らかに存在するものです。楽譜と言う2次元的なものから何かを感じるためには、記号を「音」にする技術が必要です。想像力と集中力、さらに同時に考える能力を見tにつけるために、演奏者は「運動」以前に「思考」をすることが絶対に必要です。
中学校の「教科」で言えば、「国語・数学・理科・社会」にまたがる「理解力」が必要だと思っています。
・文章を作る技術
・速度や長さ、時間を珪砂する能力
・音が出る仕組みや音の他kさに関する知識
・歴史や地域を考える力
もちろん、美術や体育、語学の能力・知識も仏ようになることもあります。
いずれにしても「思考」することが音楽を作る上で、最も大切であることを忘れてはいけないと思います。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

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