学校教育でオーケストラを指揮・指導する

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中・高校部活オーケストラ

 映像は20年以上前のものですが、横浜みなとみらいでの中学生・高校生が演奏するカヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲。
 ハープの演奏者だけは「外注」(笑)パイプオルガンの演奏も高校生です。
 今回のテーマは、学校教育にある「特別活動」いわゆる部活動でのオーケストラを指導する際の「コツ」と「留意点」です。

 公立・私立を問わず「特別活動」の目的や主旨は国と地方自治体によって規定されています。好き勝手にできるものではありませんし、ましてや顧問や校長の意向で活動に制限を加えたり、逆に「無法地帯化」することも許されません。さらに、家庭=保護者の理解と同意も必要不可欠です。
 当然のことですが主役は「生徒」です。子供たちの健全な育成が目的です。中学は義務教育であり、高校は違います。さらに、思春期の子供たちです。その多感な時期の生徒に「オーケストラ」という特殊な環境を作るのは「大人」の仕事です。自然に生まれるものではないのです。

「オーケストラの指導は難しくてできません」と言う教員が殆どでした。そういいながら、吹奏楽の指導や合唱の指導は気軽に引き受ける教員が数限りなく(笑)いました。
 音楽への関心もなく、楽器演奏の経験が「ゼロ」でも顧問を引き受けなければいけない立場なのが「教諭」という職業です。「校務分掌」つまりは「業務」として顧問をすることも教諭の仕事なのです。

 オーケストラに限らず合唱や器楽演奏の部活動を指導・指揮するのであれば、最低限の知識と技術は身に着けるべきです。それが校務分掌であるなら、給与に含まれる業務なのですから。

 前提として、もし指導者自身が義務教育レベルの音楽知識・楽器演奏技術しかない=楽譜が読めない・リコーダーしか演奏できないのであれば、まずは生徒の安全管理だけしかできないと思ってください。「知った振り」で生徒に間違った指導をするのは「百害あって一利なし」です。練習内容・時間・運営・指揮。これらは「音楽」の基本です。「命にかかわらないから」という安直な考えで、音楽系の部活動指導は絶対にすべきではないのです。ラグビー部の顧問を命じられて、ルールも知らずに生徒に指導しますか?ワンダーフォーゲル部の顧問が、山の怖さを知らずに生徒を引率しますか?それと同じことです。

 本題です。
1.楽器の構造と扱いを学ぶ
2.楽器ごとの練習方法を学ぶ
3.合奏に必要な技術を学ぶ
4.指揮法の基本を学ぶ
5.楽譜の基礎知識を学ぶ
6.生徒のモチベーションを維持する方法を学ぶ
ざっと挙げれば上記のような「学習」「研究」が必要です。
 オーケストラには数多くの種類の楽器が含まれます。それらすべての楽器を「完璧に」演奏できる人間は恐らく地球上に一人もいません(笑)さらに言えば、指導者自身が「何の楽器も演奏できない」人であっても、知識を身に着け経験を積めば、オーケストラの指導は十分に出きるのです。「楽器ができない」からと言って、なにも学ばなければ指導は不可能です。

 上記の1~6の項目を同時進行で行います。
もちろん、段階があります。短時間に身につくものではありませんし、オーケストラ自体も「1」から大きくなっていくのです。
 私の経験を簡単に書いてみます。


1.私立新設校で男子校にただ一人の音楽教諭として採用されました。
2.開校準備の段階で「音楽部顧問」を任命され活動内容は一任されたので「オーケストラをつくる」ことにしました。
3.初年度購入備品を事務局に提出する段階で、通常授業以外の楽器=オーケストラの楽器購入について、3年計画で計上することになりました。(あまりに高額だったので)
4.初年度はコントラバス1・ティンパニ2・チューバ1・ヴィオラ1・チェロ1.ファゴット1・ピッコロ1・ドラムセットを購入しました。これらの楽器をまず優先して購入することで2年目に「吹奏楽にしろ」と言われることを回避できることと、生徒が購入しにくい楽器から揃えることが目的です。
5.開校時、部員は中学生5名高校生6名、合計11名でした。中にヴァイオリンを習ったことのある中学生1名、中学時代に吹奏楽部でフルート・サックス経験者が各1名。それ以外は「楽器初めて」の男子でした。
6.それぞれの生徒の希望を優先し楽器を貸し与えました。楽器が余る状態でしたが次年度も楽器の購入を計上しました。
7.開校から3年目に全学年(中1~高3)男子生徒が揃った時、オーケストラには60名ほどの男子部員がいました。3管編成オーケストラに必要な楽器はほぼ、買い揃えていました。
8.案の定、法人の理事長から呼び出しを受けました。横浜の高級料亭で「吹奏楽部に何故しないのか?」と迫られましたが、私には吹奏楽指導は出来ませんと伝え(クビか?と思いました)認めてもらいました。
9.学校の管理職と取り巻き教員からの嫌がらせ=音楽部排除計画に真っ向から戦う日々となります。外部からの指導者=コーチの採用は認められず、中学生の合宿も認められず、入学式・卒業式での演奏も認められないという不合理な方針と闘いました。
10.生徒の「やる気」を引き出すための工夫と、部員を確保するための「新入部員勧誘」、さらに定期演奏会の入場者数増加が毎年の頭痛の種となります。
11.全校生徒数、1200名の学校で、150名の部員を束ねながら、中・高授業と校務分掌を同時に行いながら常に「オーケストラ」を中心にした勤務でした。
12.学校から部活動への予算は「生徒会費」からの毎年1~2万円。楽器のメンテナンス費用のために「部費」を月に500円集めることにも学校はなかなか認めませんでした。
13.生徒の楽器は生徒に購入してもらうことを保護者会で理解を求めました。難しい生徒には学校の楽器を貸与しました。
14.全部員が揃う「合奏」は週に1日だけ。その他の日は「自由に練習」できる体制を続けました。
15.「対外的な結果を出せ」と言う嫌がらせ要求に応えるため、テープ審査のコンクールに参加し文句を言わせない結果を残しました。
16.高等学校文化連盟などに加盟することで対外的な活動を学校に認めさせました。
17.部員には「年功序列」を体感させるため、1学年下の部員を「先輩」が指導する体制を作りました。
18.一方で「やる気」があれば「下剋上」ができるよう「トップ」を希望する部員には、全員の前で指定された部分を演奏する「勝負」で席順を決めさせました。
19.選曲や当初の席順はすべて、指揮者が独断で行いました。
20.生徒が生徒を指揮する曲は演奏会の「1曲」だけで、開校5年目から毎年演奏し続けた「コーラスラインメドレー」だけに限定しました。生徒がオーケストラを指導することは不可能です。「指揮」は出来ても「指導」はできません。それを勘違いしないことが重要です。

 長々と「実話」を書きましたが(笑)、すべての学校で環境が違います。当然、生徒の個性もあり「地域の文化」も違います。
 そんな中でもオーケストラの活動は出来るはずです。大編成でなくても、10人いれば立派なアンサンブルです。その10人が卒業するまでに15人になり、やがて50人になるのです。それが顧問の仕事です。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

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