家族と音楽

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 何度も夢に出演してくれる私の両親と兄です。
父を見送り、父を追う母を見送ってからずいぶん時が経ちました。
子供の頃、喧嘩にもならない年の差で思春期には「大嫌い」だった兄と、今はまるで仲良し兄弟笑)
 動画は、渋谷牧人さんの作られた「はるの子守唄」を私のヴィオラと浩子のピアノで演奏したものです。映像は、父の思い出のために以前作ったスライドショーです。

 生徒さんを教え、自分たちで演奏し、思うようにいかない生活をしながら思う事。「なぜ音楽に関わって生きているのか」という命題です。
 どんな生徒さんにも、生んでくれた親、育ててくれた親がいます。
すべての人が同じように両親と、仲睦まじく暮らしてきたとは限りません。
複雑な事情を抱えて生きてきている人たちもたくさんいます。
はたから見ただけで「幸せそう」と決めつけるのは間違いです。
人には言えない、その人の心にしまわれた「歴史」もあるのです。
両親と言う言葉を、敢えて使わせてもらうのは、私が幸せなことに、両親の間に生まれ両親に育てられた子供だからです。それがどんなに幸運だったのか、今更思うのです。

 音楽を学ぶことができ、自分で選んだ道を歩いて来られたのは、両親の愛情があったからです。困ったときに、笑って応援してくれた父がいました。父のわがままを「まったくもう」と言いながら受け入れていた母がいました。
 音楽を演奏できるのは「自分の力」と思い込んでいる人がいます。確かに本人の努力がなければ、演奏は上達しません。

すべての人が母から生まれ、今日まで生きてきました。どんな人間であっても、母親が命がけで生んでくれた「子供」なのです。
 私が音楽を演奏することを、両親は何よりも喜んでくれていたと思っています。小さいころから、そうでした。だからきっと、私は音楽に今も関わって生きているのだと思います。
 私が学校で働くことを父は望んでいませんでした。おそらく私への「期待」を裏切られたと感じたのだと思います。二つの原因があったようです。
私がヴァイオリンと言う楽器から離れて行く寂しさ。
私が演奏家になることを夢見ていたこと。
確かに教員時代、私はヴァイオリンを演奏することへの情熱を失っていました。
数年で退職するつもりだったのが、「住宅ローン」と言う足かせを自らつけてしまって、辞めるにやめられない状況で20年という時間を過ごしました。
 退職時に起きた「事件」の中に家族との断絶がありました。
両親を説き伏せる気力もなく、ただ死なないために生きていました。
 私がヴァイオリンを手にして、再び演奏を始めて浩子との最初のリサイタルに両親は揃って聴きに来てくれました。満面の笑顔で演奏後に「お小遣い」をくれた父を忘れられません。その後も、私たちのコンサートには必ず二人そろって来てくれました。両親が施設で生活するようになってからも、施設内でコンサートを開かせてもらいました。

父が亡くなり、母の認知症が進行した頃、恐らくリサイタルに来られるのが最後になると感じました。施設長自ら運転し、藤沢から代々木上原まで母を載せてきてくれました。帰りは生徒さんのご家族に施設まで私たちと一緒に、母を送っていただきました。
 母が亡くなる直前、施設に二人で伺いロビーに車いすで連れてきてもらった母に、私たちの演奏をスマホを母の耳につけて聴かせました。顔色が変わり、目に生気が戻ったように感じたのは私の思い込みかもしれません。

 人が生まれてから死ぬまでの時間の中で、人に喜んでもらえることがどれだけできるでしょうか?
 私の場合、一番多く喜んでくれたのは家族だと思います。一番怒ってくれたのも家族でした。その家族から教えられたのが「音楽」だったのかもしれません。
母は若い頃に通っていた同志社の時に覚えた讃美歌を、足踏み式オルガンで演奏できる「演奏技術」を持っていました。父は演歌が大嫌いで、藤山一郎からパバロッティに「押し」を変える「聞く専門」の人でした。兄は私との「不可侵条約」なのか、幼い頃から一切音楽に興味を持たず、スポーツ万能な戦うサラリーマンです。そんな家族の中で、私がこうして音楽に関わっていることは、結局両親の「願い」だったのかも知れません。私自身、そのことに感謝しています。
 お子さんをレッスンに通わせている「親」たちに伝えたいのです。
親が願うことです。親が子供に夢を見ることです。子供の能力を信じることです。自分の能力とは関係ありません。子供が好きな道を進むときも、親の夢は持ち続けてほしいのです。子供の人生に、一番関わるのが「家族」だからです。
 最後に、私の現在の家族である浩子「姫」とぷりん「姫」、浩子のご家族、兄の家族に、心からの感謝を伝えたいと思います。ありがとう!

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介
 

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