ビブラートの不思議

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初心者のヴァイオリンの生徒さんにとって、ビブラートは憧れの技術です。
ほとんどのヴァイオリニストがビブラートを「かけて」演奏しています。
かける?良く考えるとちょっと変な表現です。
「音程を細かく上下させて、震えるように音を響かせる奏法・唱法。」
という事になるようですが、そもそも「音程」は正、確には「インターバル」つまり、二つの音の間の幅(距離)を表す言葉。厳密には「ピッチ」であり日本語なら「音高」の事です。レッスンで「音程が悪い!」と怒られていた私にとっては、聞きなじみのある「音程」ですが(笑)
要するに、ビブラートのない「ノンビブラート」は、音の高さを変えずに同じ高さの音を伸ばすことで、ビブラートは音の高さを連続的に変える…という事になります。が!
その高さの変化が、「曲線」で「連続」して変化しないとビブラートには聞こえません。
さらに、その変化の「大きさ=深さ」と「速さ=細かさ」の組み合わせがあります。
・浅く、速い
・浅く、遅い
・深く、速い
・深く、遅い
この4種類の組み合わせがあります。
一つの音の中で、これらが変化することも十分にあります。
たとえば、ノンビブラートで始まり、浅く遅いビブラートから、深く速いビブラートに変化させることもできます。

好みの問題ですが、私はヒステリックに聞こえるビブラートが嫌いです。
具体的に言うと、常に速く深いビブラートの音は、聞いていて疲れてしまいます。
速く同じ深さでビブラートを「かけ続ける」ことは、確かに難しいことです。
できることは、すごい!とも思いますが、果たして美しいと感じるものでしょうか?
そもそもノンビブラートの音、これが原点だと思うのです。
ノンビブラートで音色のバリエーションがあってこそ、ビブラートの美しさが引き立つと思います。
ヴァイオリンのビブラートは、最終的には指の関節が柔軟で、かつ弾力的に動かせないと美しいビブラートにはならないように思います。
弦に触れているのは指先の皮膚とその下にある薄い肉と、さらにその奥にある「骨」です。
その指先に係る力は、弦を指板に押し付ける方向の力と、ビブラートで、弦とほぼ平行方向の力です。この二方向の力のバランスで音色とビブラートの滑らかさが変わります。
ビブラートのための力は、指だけを動かす力では生まれません。手のひらと指の「付け根」の柔らかさと弾力を保ちながら、手のひらを動かすことで、弦を抑える指先の角度が変わります。
手のひらを弦と平行に動かせたとしても、指は弦に対して斜めの角度ですから、結果的に指が「伸びたり縮んだり」する運動になります。
一方で、手のひらを「手首の位置を動かさず」に、倒す→起こす→倒す→起こすの運動を繰り返すと、指も弦に対して、倒れる→起きる→倒れる→起きるの運動になり、これもビブラートになります。
一般的に「腕のビブラート」「手首のビブラート」と区別されますが、
手首のビブラートを勘違いし、手首を動かす初心者を見かけます。手首を「支点」にしないと意味がありません。

色々書きましたが、ビブラートをかけることで、共振する音が増え、楽器の残響が長く、大きくなりますが、それが必ずしも常時必要なものではないと思います。人間が聞いていて、心地よく感じるビブラートは人によって違います。
ノンビブラートの音を「素材の味」
ビブラートの加わった音を「味付けした素材」
と置き換えると、素材が悪ければどんなに味をつけても、美味しくないのと同じです。
右手のボウイングと正しい弦の抑え方があってこそ、ビブラートの効果(味付け)が生きてくると思っています。

メリーミュージック 野村謙介


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