フラットが5つ付くと何が起こる?

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 映像は6年ほど前に演奏したラフマニノフ作曲「パガニーニの主題によるラプソディ」です。
日本語の表記で書くと「変ニ長調」英語表記なら「D flat Najor」ドイツ語表記なら「Des dur」です(笑)

 ヴァイオリンの為に作曲されたヴァイオリン協奏曲は「D dur」ニ長調のものが多い理由はご存知の方も多いと思いますが、ヴァイオリンの開放弦が低い方から「G・D・A・E」ソレラミで、D durの「主音」がD=レ、「下属音」がG=ソ、「属音」がA=ラ、加えて言えばE線の開放弦である「E=ミ」の音は、「属和音=A・Cis・E」の第5音でもあり、結果としてすべての開放弦の音がD durの「核となる音」になります。このことで、ヴァイオリンの持つ「倍音」が最も響きやすく、かつ演奏しやすいのがシャープが二つの音「ファ・ド」に付く調性「ニ長調=D dur」で、ヴァイオリンの持つ最大限の「ポテンシャル」を発揮できることになります。チャイコフスキーのヴァイオリンコンチェルト、ブラームスのヴァイオリンコンチェルト、ベートヴェンのヴァイオリンコンチェルトはすべて「ニ長調」で書かれています。
 では、それ以外の「調性」だとヴァイオリンの音色は「悪くなる」のでしょうか?結論は「いいえ」です。それを説明します。

 冒頭のラプソディは「シ・ミ・ラ・レ・ソ」にフラットが付く調性なので、開放弦の音は「音階固有の音ではなくなる」つまり、臨時記号が出てこない限り、開放弦の音は使われずに演奏される曲になります。音楽全体が「柔らかい音」になる…あるいは「すべての音が均一な響きになる」とも言えます。
 シャープ系の調性の場合、たとえば先述のニ長調の場合で考えると、音階固有の音は「レ=D・ミ=E・ファ♯=Fis・ソ=G・ラ=A・シ=H・ド♯=Cis・レ=D」になりますので、7種類の音の中で4つは「開放弦にある音」で残りの3つが「開放弦にない音」になります。当然、この2種類で大きな違いがあります。
作曲家はそれを逆に利用して音楽の「色付け」を考えます。
 有名な曲でフラットいっぱい!の曲をもう一曲。

 先日のブログでピアノがうまい!とピアノ演奏をご紹介した名ヴァイオリニスト「フリッツ=クライスラー」が演奏するドヴォルザーク作曲の「ユーモレスク」フラット6つ!の調性「変ト長調=Ges dur」がオリジナルの曲です。ヴァイオリン教本などでは、半音高く移調して「ト長調=G dur」シャープ1つの調性で弾きやすくしてあるものが見かけられますが、ご本家はこちらです(笑)演奏を聴いていただくと、すべての音が「均一」という意味が伝わるかと思います。かと思えば「それ、やりすぎちゃん(笑)」と思えるものもおまけに。

 このお方も先日の「ピアノがうますぎ!」に登場していただいた、ヤッシャ=ハイフェッツ大先生が「編曲」し「ヴァイオリンを演奏」されている、サン=サーンス作曲の動物の謝肉祭より「白鳥」ですが…オリジナルは「ト長調=G dur」なのに、わざわざ!半音下げた「変ト長調=Ges dur=フラット6つ」に移調して、ピアノの楽譜も「やりすぎ~」な感が否めません(笑)移調するだけでは気が済まなかったのか…。ヴァイオリンらしさを出したかったのか…。

 最後にもう一曲。こちらは以前にも紹介したジャズピアニスト小曽根真さんのアレンジされた「ふるさと」を採譜=楽譜に起こして、ヴィオラとピアノで演奏したものです。これも「フラット5つ」の、Des dur=変ニ長調で演奏されていたのでそのままの調性で演奏しています。歌の場合、歌いやすい高さに移調することが一般的です。恐らく歌われていた神野美鈴さんが一番歌いやすい調性だったのでそうね。

 今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

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