レコードから映像へ…

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昭和35年、西暦1960年に生まれた「おじちゃん」にとって、音楽を伝える「媒体」の変化は、生活の変化の中でもずば抜けています。
記憶にある「最初のテレビ」は白黒ブラウン管テレビ。
子供のころに聞いていたのはラジオと「ソノシート」
ペラペラで綺麗な色の半透明の「セロファン」で出来た、直径17センチほどの「レコード」です。それを「レコードプレーヤー」に乗せて、針をおろすと、パチパチピチピチノイズの中に、音が聞こえます。エイトマン、ブーフーウー、鉄人28号、キャプテンスカーレット、宇宙少年ソラン、スーパージェッター。みんな「ソノシート」でした。
あれ?音楽レコードがない(笑)

初めて我が家に「ステレオ」という近代的な機械が来たのは、記憶では小学校6年生。ビクターの「4チャンネルステレオ」を父がどこかから買ってきて、和室の客間に鎮座していました。同時に「30センチLP」も買っていました。直径30センチ。ロングプレイの略「LP」曲の途中でB面に裏返す曲もありました。
中学生、高校生になって次第に機械に興味を持ち「オーディオ」という言葉に出会います。オープンリンリールのテープデッキ、カセットデッキ、FMチューナー、アンプ、スピーカー、何から何まで「楽しい道具」でした。好きな曲を好きな音で聴くための「オーディオ」でした。

高校生か大学生のころ「ウォークマン」が発売され、2か月以上待たされて手にしました。カセットテープの音を家の外で、自由に聞くことが出来るようになった「革命的」なオーディオでした。
その後、「CD」が発売されました。発売当時、フィリップスのCDプレーヤー1機種だけ。ディスクも3種類ほど。価格も恐ろしい値段でした。
やがて「MD」が登場します。小さな四角の薄いメディア。簡単に曲の入れ替えが出来て、編集もできました。実はMDの音は、カセットテープよりだいぶ「悪い」ものだったんですが、気にする人はいませんでした。
同じころに「DAT」デジタルテープレコーダーが発売されました。
業務用には多く使われましたが、一般にはあまり普及しませんでした。音はCDや現在のPCMレコーダーと同等です。

ここから本題(いつもながら前置きが長い!)
ショパンコンクールをライブ動画で世界中(一部の国を除き)で誰もが自由にみられる時代になりました。すごいことです。無料で。好きな時間に、好き場所で、スマホでもテレビでもパソコンでも見られて、しかも何回でも見られる。
こんな時代を誰か予想できたでしょうか?
ソノシートの時代から、たかが60年(ながい?)で劇的な変化だと思います。
音楽は「聴く」時代から「見る」時代に変わりました。
しかも「いつでも、どこでも、何度でも」です。
CDの売り上げ枚数よりも、youtubeの再生回数とチャンネル登録者数が、人気のバロメーターになりました。レンタルCDも消え、やがてDVDやブルーレイディスクも姿を消すことでしょう。小さなカード一枚に何時間分もの映像と音楽を保存できる時代に「ディスク」は、消える運命です。

さて、音楽に絞った話です。
当然「生演奏を聴く」ことでしか味わえない「音」と「空気」があります。
それ以外の「媒体」はどうなるでしょう?
先ほどから書いているように、映像と一緒に「見て聞く」時代です。
演奏する人間の収入、作品を作る人の収入も変わっていきます。
「配信からの収入」が主になります。スポンサーは多くの視聴者からの「薄くたくさん得る収入」をコマーシャルを出すスポンサーが、配信会社(youtubeなど)に支払い、そこから演奏者や作曲者に代金が払われる仕組みになります。
つまり「映像の良しあし」が演奏家と作曲家の収入を決めることになる時代です。どんなに生で演奏が良くても、映像と音声が安っぽければ、配信されても再生されないのです。つまり「評価されない」ことになります。本来、演奏や作品の素晴らしさが評価されるべきですが、現実には見る人の「端末」で再生される音楽が評価される時代になります。

母校である桐朋の一大イベント、桐朋祭で演奏された映像がyoutubeにありました。正直、お粗末な音と映像で、思わずコメントを書いてしまいました。
お祭りでの演奏とは言え、クラシックの音楽を「学生会オケ」であれ、桐朋の名前を出し、できたばかりの「売り」であるホールで演奏している動画が、小学校の学芸会レベルの映像編集とお粗末な音声。業者が編集したものと思われますが、あまりにひどい。隠し撮りならいざ知らず、音大の演奏を自らアップして「公開」する以上、大学としての評価自体が下がるといえます。
ショパンコンクールの映像と音、完全にプロの放送局の「クラシック専門担当者」の手にかかっているのがわかります。見ていて引き込まれるのは、映像と音「も」素晴らしいからです。すごい時代です。

「インターネット?ふん!」あらあら。
コロナで演奏する機会が減った中で、ファンを増やした演奏者と、ファンを失った演奏者の「差」はなんでしょう。インターネットを活用し、自ら「良い音」「魅力のある映像」を配信した演奏家が生き残ります。角野さんは「かてぃん」として、今後もユーチューバーとしてファンを増やし続けるでしょう。反田さんはすでに、有料配信の会社を設立しています。二人とも「先を見る目」を持ちながら演奏するピアニストです。
「できない」「知らない」と言い訳をしても、だれも助けてくれません。
自分で学び、発信するスキルを身に着けることが、これからの音楽家に、絶対必要な要件になります。
私たち「昭和生まれ」の人間は?
学びましょう!老い先短くても!(笑)
それが、歴史であり時代の流れなのですから。

昭和生まれのヴァイオリニスト 野村謙介


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