練習の組み立て

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 映像はパラティス作曲と言われている「シシリエンヌ」をデュオリサイタル11代々木上原ムジカーザで演奏したときの映像です。
 チェロで演奏されることが多いこの曲ですが、数ある「シシリエンヌ=シチリアーナ」のタイトル曲の中でも、私の好きな曲です。
 さて、今回のテーマ「練習の組み立て」は、楽器を演奏する人たち共通の「練習」についてを、練習嫌いだった私(涙)が考えるお話です

 練習と言うと、なんとなく「学校の宿題」をいやいややっているような…これ、私だけですか?「やらなきゃいけない」と言う義務感にさいなまれながら、見たいテレビを我慢して宿題をやった記憶と重なるのですが…。
 私のような練習嫌いではなくても、「練習好き」な人のことを「すごい!」って思いませんか?あ、思わない?(汗)確かに練習が好きな人って、きっとおられるんでしょうね。尊敬します。
 では、練習をしなくてもヴァイオリンは上達するのでしょうか?←いかにも練習嫌いの人間の発想
結論を言えば、練習しなければ上達はしません。経験に基づいています(涙)

 そもそも練習は何のためにするのか?と言うテーマです。
「自分が思ったように演奏できるようになるため」だと思います。
練習をしなければ、思ったようにひけないのですが、「思ったように」と言うのが肝心です。多くの初心者の場合、先生や親に言われた「課題の楽譜」を「ひく」ことが練習だと思っています。少なくとも私はそうでした(中学2年生ごろまで)
「ひいていれば練習」ではないのですが、家で「監視」している親は、とりあえずヴァイオリンの音が知れいれば、練習していると思ってくれました(笑)
「毎日30分」とか「最低1時間」とかって、練習時間の事を話す人がいますが、多くの場合「時間=練習」だと勘違いします。もちろん、これから述べる「練習」には時間が必要ですが、ただ音を出すだけの時間は、厳密には練習ではありません。

 練習の意味も仕方も、まだ知らない生徒さんに対して、「課題」を出すことが指導者の難しさです。レッスンで上手にひけたら「はなまる」を付けてあげるのは喜ばれます。
「止まらないで最後までひけるように頑張ってきてね!」や「ゆっくりで良いから間違わないようにがんばってきてね!」や「音がかすれないように気を付けて弾けるようにがんばってね!」などなど、具体的な「目標」を出すのが一般的です。悪い例で言うと「次、これをひいてきてね」ですね。これ、最悪だと思いませんか?もちろん、音大生に言うなら問題ありませんが、先述の条件「練習を知らない」生徒さんにしてみれば、なにをどう?ひくの?どうやってひくの?ってわかるはずがありません。悲しいことに、こんな指示をだすヴァイオリンの「せんせい」が街の音楽教室にたくさんいることを、生徒さんからお聞きします。

 指導者の役割は、生徒さん(お弟子さん)に対して自分の音楽を教えることではない…と言う話は前回のブログで書きました。自分の生徒が「自分の好きな演奏」を見つけるための、プロセスとテクニックをアドヴァイスすることが役目だと思っています。その二つでさえ、人によって違うのです。自分の通ってきた道=練習してきた方法が、すべての人に当てはまるとは限りません。そこにも選択肢があるのです。ただ、練習のプロセスや練習のテクニックにも「選択肢」を増やし過ぎれば、生徒は混乱します。だからこそ、生徒の状態を観察することが大切だと思っています。

 これから書くのは、私なりの練習方法です。これが絶対に正しいとも、ほかに方法がないとも考えていません。
①自分の出来ていない「課題」を見つける。
・先生に指摘されて気付く課題や、うまくひけない「音」
②その課題を乗り越えるために「原因」を見つける。
・原因は複数考えられます。
・思ってもいないこと…無意識に(勝手に)動く腕や指が原因かも。
・自分から見えない「死角」も要チェック。
③原因を取り除くためのテクニックを考える。
・医療で言えば「治療方法」を考えるのと同じ。
・すぐには直らない(治らない)のも医療と同じ。
・繰り返して弾く前に、自分の音と身体を観察すること。
・常に冷静に「考えながらひける速さ」で繰り返す。
・音と身体を観察しながら、考えなくてもひけるまで繰り返す。
 

 上記の練習方法は、初心者を含めどんなレベルの人にも共通していると思います。ここから先は、「自分の思うような」という段階の練習方法です。
①「音の高さ」「リズム」「汚い音を出さない」3つの点に絞って演奏する。
・音量や音色、ビブラートやテンポを揺らすなどを意図的に排除する。
・「音楽と演奏の骨格」を把握するためのプロセスです。
②曲全体(1楽章単位)の印象と「曲のスケッチ」を考える。
・自分で演奏せずに、楽譜を見ながらプロの演奏をいくつも聴いてみる。
②多用されるリズムと音型の「特徴」を考える。
③1小節目の最初の音から二つ目の音への「音楽」を考える。
④最初から音量や音色を決めずに、一音ずつ「行きつ戻りつ」しながら考える。
⑤いくつかの音を「かたまり=ブロック」として考える。
⑥句読点「、」と「、」を探しながら、接続詞の可能性も考える。
⑦ある程度進んだら、ヴァイオリン以外のパートから和声を考える。
⑧弓の場所、速度、圧力を考える。
⑨使用する弦と指を考える。
⑩ブロックごとのテンポ、音色、音量の違いを考える。
☆一度にたくさん=長時間練習しない!(覚えきれません)

 最後に、日々、毎回の練習を「積み上げる」テーマです。
私の場合、視力が下がり楽譜や文字を読みながら練習(演奏)できなくなったので、少しずつ覚えながら練習していく方法しかなくなりました。
以前は楽譜に書きこんだ情報も読みながら練習していましたが、今考えてみると本当にそれが良かったのか?正しい練習方法だったのか?と疑問に感じることがあります。「怪我の功名」なのか「棚から牡丹餅」なのか(笑)いずれにしても、少しずつ覚えながら練習すると、時間はかかりますが覚えていないこと=理解できていないことを、毎回確認できるので楽譜を見ながら練習するよりも、結果的に短期間で頭と体に「刷り込まれている」ように感じています。
 練習は「積み重ね」でしかありません。しかも、時によっては前回の練習でできた!と思っていたものが出来ない…積み重なっていないことが多々!しょっちゅう!あるのが当たり前です。 
 私たちの脳と肉体は「機械」や「もの」ではありません。むしろ目に見えない「イメージ」の積み重ねだと思っています。なぜ?指が速く正確に動かせるのか?という人間の素朴な疑問に対して、現代の科学と医学はまだ「答え」を持っていないのです。今言えることは、私たちは「考えたことを行動できる」と言うことです。無意識であっても、それは自分の脳から「動け」と言う命令が出ているのです。考えることで演奏が出来ます。ただし、考えただけでは演奏できません。身体の「動き」も考えて演奏することで、初めて思ったように演奏できるのです。「たましい」とか「せいしん」ではなく、物理的で科学的な「練習」が大切だと思っています。「きあいだ!」「こんじょーだ!」も無意味です。
 考えることが苦手!と威張るより(笑)、好きなことをしている時にも、自分は無意識に考えていることを知るべきです。
 感情も感覚も、私たちの肉体の持つ「能力」で引き起こされている現象です。
自分の能力を引き出すことが「練習」だと思っています。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介



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