チェロとヴィオラ・ヴァイオリンのヴィブラートを比較する

このエントリーをはてなブックマークに追加

 映像は、チャイコフスキー作曲の「ノクターン」
チェロで演奏されることの多いこの曲を次回のデュオリサイタルで「ヴァイオリンとピアノ」で演奏してみます。そこで、参考までにヴァイオリンでの演奏を探してみました。

え  

 演奏の好みは別の問題として、今回はヴィブラートの違い…特に、チェロとヴァイオリン・ヴィオラの違いについて考察してみます。
 私自身、ヴァイオリンのヴィブラートよりもチェロのヴィブラートが好きです(笑)「言い切るか!」と思われそうですが、高校時代の親友がチェリストだったこともあり、自分のヴィブラートに不満のあった(今もある笑)私が、観察の対象にしていたのが「チェロのヴィブラート」なのです。
 特徴として「動きの可動範囲が大きく速い」「波=音の高低が滑らか」であることがヴァイオリンとの違いです。演奏技術によって差はあります。ただ、多くのチェリストのヴィブラートを聴いても、やはりこの「違い」は明らかです。
 ヴィオラでチェロの「真似」をしようと足掻いてみたことがあります。
サン=サーンスの白鳥やシューベルトのアルペジオーネソナタ、他にも多数。
ただ…どう頑張ってもなにか不自然に感じます。それは「音域」の違いと「筐体=ボディーサイズ」の違いだけではなく、ヴィブラートそのものに違いがることに気が付きました。

 「逆手」と「順手」と言う言葉をご存知でしょうか?
鉄棒や「ぶら下がり健康機」を手でつかむ時の「向き」のことです。
順手は手の甲が自分の方を向き、逆手は掌=てのひらが自分の方を向きます。
二つの握り方によって、使われる筋肉が変わります。特に「懸垂」で筋肉を鍛える場合には、に切り方によって鍛えられる筋肉が違います。
 マッチョを目指さない私にとって(笑)、懸垂は出来なくても良いのですが、ヴァイオリンやヴィオラを演奏する「左手」は実は逆手になっています。
一方、チェロやコントラバスの場合、左手は「順手と逆手の中間」つまり、腕を体に沿わせて「だらん」と下げた状態の時の、手の向きになります。掌が「身体の内側」に向き、手の甲が「外側」に向きます。この状態で普段、私たちは歩行しています。日常生活の中でも、掌を下に向けて作業することは、ごく自然にできます。何かにつまずいて、前のめりになった時に「手をつく」のは「順手」です。尻もちを付いて手を付く時にも、掌を下にします。つまり、私たちの祖先に近い「猿」が両手を使って「歩く」こともあるように、掌は下に向いた状態「順手」が自然な状態なのです。進化した私たちは「両手を内側に向ける」ことも、自然な「手の向き」になりました。

 逆手「以上」に掌をひねりながら演奏する楽器は、ヴァイオリンとヴィオラしかありません。管楽器…フルートの場合でも左手が「逆手」ですが、あくまでも掌が自分の方に向く角度までで演奏できます。クラリネット、オーボエ、ファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン、テューバ、打楽器、ピアノ、ギター、ハープ…どの楽器も掌の向きは「順手」もしくは、順手に近い向きで楽器を構え演奏します。逆手であるがゆえに、ヴァイオリン・ヴィオラは、楽器の「肩」部分に左手が当たって、ハイポジションでの演奏がさらに困難になります。当然この掌の角度でヴィブラートは極めて「不自然」な動きになります。
 その点、チェロとコントラバスは、ハイポジションになっても、左手の親指を指板の上に出すことで、掌と手の甲の「向き」は変えずに弦を押さえられます。
「理にかなった弦の押さえ方」です。ヴァイオリンを最初に演奏し始めた「誰か」がいるはずなのですが、恐らく「チェロの原型」や「胡弓」「二胡」「馬頭琴」のように、弦が「縦方向」に張られているのが弦楽器の「ご先祖」だと思います。それを「首に当てて=弦を水平方向に張る向きで演奏する」という「業虚?荒わざ」を試して、「だめだこりゃ」にならず「うん!これだ!」って感じたんでしょうか?(笑)
高い音を出したくて「小さくした」のか?それとも、持ち運びを考えて「小さく」したのか?どっちにしても、チェロの構え方のままで演奏すればよかったのに…。ぶつぶつ…。

 ヴァイオリン、ヴィオラのヴィブラートは、手首と肘関節の運動でかけます。
一方でチェロ、コントラバスのヴィブラートはもっと自然に「左腕全体」を利用してかけられます。どの弦楽器も「指で弦を押さえる」事に違いはありません。
ギターのようにフレットのないヴァイオリンやチェロの場合、押さえ方を少し変えるだけで、音の高さが変わってヴィブラートがかけられます。左手「指関節の柔軟性=可動範囲の大きさ」でヴィブラートの幅が決まります。
 ヴィブラートは「自然に聴こえるための技法」だと思っています。
ただ速く動かすだけを意識したヴィブラートは、聴いていて不自然に感じます。
「痙攣ヴィブラート」「縮緬=ちりめんヴィブラート」と呼ばれる「細かいヴィブラート」」を好むヴァイオリニストもおられますが、私にはヒステリックに感じてしまいます。
 遅すぎず、深すぎないヴィブラートを理想にしています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です