ビブラートとボウイングの個性

このエントリーをはてなブックマークに追加

 映像は、アンアキコ=マイヤーズの演奏する、エンニオ=モリコーネ作曲「シネマパラダイスより愛のテーマ」です。
 ドイツ人の父と日本人の母を持つアンアキコ=マイヤーズ。
多くのCDがありますが、私は「ボウイングの美しさ」と「ビブラートの柔らかさと深さ」に大きな魅力を感じています。
 演奏家にとって「個性」は演奏技術の高さと同等以上に大切なものだと思っています。ヴァイオリニストの個性は、どんな要素が考えられるのでしょうか>
 音楽の解釈という点で言えば、どんな楽器の演奏者にも共通の「個性」があります。テンポや音の大きさに対する好みでもあります。
 さらに詳細な点で考えると、楽器による違いがありますが、これは演奏者の個性とは言えないと思います。ちなみに彼女は、グヮルネリ=デルジェスの楽器を終身貸与されているそうです。彼女以前には、パールマンやメニューインも使っていた楽器だそうです。楽器の個性を引き出し、演奏者の好みの音色と音量で演奏する技術がなければ、どんな楽器を演奏しても変わりませんから、演奏者の個性だと言えないこともないですね。ただ、どんな楽器を演奏できるか?は演奏者の個性とは無関係です。

 まず第一に「ボウイング=弓の使い方」の個性があります。
楽器の弦を馬のしっぽの毛で擦るだけの「運動」ではありません。弓の使い方にこそ、演奏者の個性があります。つまり「うまい・へた」ではなく、まさしくヴァイオリニストの「声」を決定づけるのが、弓の使い方です。
音量と音色を変化させる技術を、単純に考えると
「弓を弦に押し付ける圧力」
「弓と弦の速度」
「弓を当てる弦の位置」
「弓の毛の量=倒し方」
「弓に対する圧力の方向と力の分配」
「演奏する弓の場所」
になります。たくさんありますね(笑)
まず右手の5本の指それぞれに役割を持たせることが必要です。
親指の位置、柔らかさと強さ、さらに力の角度も重要です。
人差し指の位置と場所によって、親指との「反作用」が大きく変わります。
さらに圧力の方向を、弦に対して直角にする力と駒方向に引き寄せる力の割合がとても大切です。一般に弓の「圧力」は弦に対して直角方向の力だけと思われがちですが、実際には弓の毛と弦の摩擦を利用して「駒方向への力」も必要です。
 弓を倒した状態で単純に弦に直角方向だけの力を加えれば、すぐにスティックと弦が当たってしまい雑音が出ます。しかし、倒した状態で、駒方向に引き寄せる力に分配することで、より強い摩擦を弦と弓の毛に生じさせることが可能になります。
 アンアキコ=マイヤーズが演奏中の弓を見ると、かなり倒れた状態で演奏しているのがわかります。それでも、太く柔らかいフォルテが出せるのは、彼女の「力の配分」が非常に巧妙だからだと思います。
 人差し指以外の中指・薬指・小指が、弓の細かい振動やバウンドを吸収できなければ、弦と弓の毛、スティックの「勝手な動き」をコントロールできません。
 手首、前腕、肘関節、上腕、肩関節、背中と首の筋肉が「連動」しなければ、ただ大きい、ただ小さいだけの音しか出せず、さらに「弦に弓の毛が吸い付いた音」は出せません。上記の要素をすべてコントロールするテクニックがあって、初めて「自分の好きな演奏=個性」が引き出されます。

 次に、ビブラートの個性です。
一般にヴァイオリニストのビブラートは、「あっている音=正しいピッチから低い方に向かって、滑らかに連続的に変化させる」という概念があります。
 以前のブログでも書きましたが、やたらと「細かいー速い」ビブラートで演奏するヴァイオリニストが多く、私は正直好きではありません。確かに「派手・目立つ」のは「高速ビブラート」ですが(笑)
 では遅ければ良いのか?と言うとそれも違います。アマチュアヴァイオリニストのビブラートは「うわんうわん」「よいよいよいよい」と言う表現ができる遅さで、さらに不安定です。「下がって止まる⇔上がって止まる」の繰り返し=階段状の変化もビブラートとしては「未完成」です。
 変化の量=ビブラートの深さも個性です。
演奏する場所=音によって変わりますが、いつも同じ深さのビブラートしかかけられないヴァイオリニストを多く見受けます。また、深く速いビブラートを連続するためには何よりも、手首と指の関節が「柔軟」で「可動範囲が大きい」ことが求められます。下の動画はアンアキコ=マイヤーズの演奏する、メンデルスゾーンのヴァイオリンコンチェルトです。ビブラートの多彩さと柔らかさ、さらに手釘と指の動きが如何に滑らかかよくわかります。

 ヴァイオリニストの個性は、単にうまい?へた?と言う比較では表せません。
むしろ聴く人の「好み」が分かれるのが個性です。
 アマチュアヴァイオリニストでも、プロのヴァイオリニストでもいえることは、自分の演奏にこだわりを持つことと、常に自分の演奏の課題を修正する「努力」を続けることだと思います。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です