録音される楽器の音へのこだわり

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 映像はヴァイオリニスト、レイ・チェンのVLOGです。
今回のテーマである「録音」について考える時に一つの参考になる動画です。
「クラシック音楽は生の音が最高」であることは事実だと思います。むしろクラシック音楽はそもそもが生身の人間が演奏している音を楽しむことを前提にして作られた音楽でもあります。
 現代、音楽を聴く人の楽しみ方はクラシックに限らず、50年前と比べて次元が変わったと言えるほどに大きく変わりました。
①レコードを買って音楽を聴く。
②FMラジオを録音して楽しむ。
③会場で生の演奏を楽しむ。
やがてレコードはCDに代わりテープレコーダーはMDに変わりました。
そして、配信と言う音楽の取り入れ方とパソコンや携帯を使って音楽を聴くことが当たり前になりました。
 ポップスもクラシックも「生演奏」が難しくなったのは新型コロナの影響も大きく、ますます音楽を個人で楽しむことが主流になりました。

 今も昔も「演奏を録音する」そして「録音された演奏を再生して楽しむ」場合に録音の技術・方法が関わります。演奏の技術や音楽性をどのように記録し、再生するのか=再生されるのかについて、案外関心のない人が多いのも事実です。
 「私はオーディオマニアではないから知らない」と思われるかもしれませんが現実に録音・再生は演奏者も聴く人も無関心ではいられないことなのです。
 巷で言われる「アナログオーディオの復活」もその一つですがクラシック音楽のレコーディングと再生には「機械」が使われるのは誰でも知っていることです。デジタルでもアナログでも結局「音を記録し再生する」事には変わりまりません。

 コンサート会場で聴く生の演奏=音を、自宅で再現することは可能なのでしょうか?
 結論から言えば現実的には不可能です。私たちの耳に入ってくる音の「聴こえ方」が違うのです。ホールの場合、耳の周りの空間はホール全体の空気です。つまりホール全体に空気の振動である音が広がり、自分の耳に到達した音を聴くのが「生演奏の音」です。
 かたや録音した音を聴く場合には「録音の方法=録音された音」がどんな音なのか?によって聴く方法も変わります。
・演奏者の間近=楽器のすぐ近くで聴こえる音で録音する方法
・会場の客席で聴いているような音で録音する方法
大別すればこのどちらかなのです。
前者の場合には細かい=小さい音まで録音できることと、録音時にも録音後にも個別の楽器の音量を変えることもできます。コンチェルトの録音でソリストの近くにマイクを立てれば実際に客席で聴く音量バランスとは違うバランス…ソリストの音を大きく録音することが可能になります。実際にホールで聴くソリストの音よりも大きく聴こえることになります。
 後者の場合、客席で聴いているような広がりを模擬的に作りだすことで生演奏を聴いているような「疑似体験」ができますが音量のバランスなどは変えられません。
 実際に観客がいる状態で録音する方法が「ライブ録音」です。ショパンコンクールのライブ中継などもその一つです。当然、観客の目障りになるようなマイクロフォンは好ましくありません。演奏者にしても不快に感じる場合もあります。
 多くのライブ録音では観客の目障りにならない場所にマイクを設置しますので、先ほどの説明で言えば後者の部類になります。ただ「超指向性」と言われるマイクを使うと狙った部分の音だけを収録することが可能になります。これも一つの「機械の進歩」です。

 どんなに録音技術や再生機器が進化しても人間の耳が聞き取れる音の範囲や感性は変わりません。聴く人が心地よいと思う音が「良い音」であり数値が表すデータではありません。聴く人が求める音を作り提供するのが私たち「演奏者」の役割です。録音する方法も聴く人のニーズに合わせる必要があります。大きなスピーカーで音楽を聴く人はほとんどいなくなりました。イヤホンやヘッドホンで音楽を聴き、現実にホールで聴こえる音よりも聴きやすく感じる音を求めています。とは言えクラシック音楽の「本当の音」を大切にするためにも作為的な音や現実離れしたバランスの録音にならないように心がけることも必要です。
「暖かい音」が見直されている現代だからこそ録音にも気を遣うべきだと思っています。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

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