音を創る

このエントリーをはてなブックマークに追加

 映像は、アザラシヴィリ作曲の「ノクターン」をヴィオラとピアノで演奏したものです。この曲、生徒さんがレッスン時に次の発表会で演奏してみたい曲は?という問いかけに応えてくれて初めて知りました。ヴァイオリンで演奏している動画は数多くありましたが、ヴィオラで演奏してみよう!といつもの(笑)パターン。
 浩子さんとピアノとヴィオラのアレンジを相談しながら仕上げた演奏です。何度か演奏させてもらいましたが、素敵なメロディーと奇をてらわない和声が大好きです。

 さて、今回のテーマ「音を創る」ですが、音楽を創る=作曲とは意味が違います。演奏者が自分で演奏する「音」をどうやって創造するのかと言うテーマです。
 作曲家によってつくられた楽譜を音楽にする時、ひとつひとつの音に演奏者の「想像力=創造力」が問われています。単に書かれた音符を楽器で演奏することではなく、どんな音色でどんな音量で演奏するのかを「考える=感じる」ことが演奏者の楽しみでもあり作曲家への敬意でもあると思います。
 動画は録音された音ですから、作成する過程でまた音作りが必要です。コンサート会場で響く音は、聴いている人の周囲に広がる「空間」から伝わるものです。スピーカーやヘッドフォンから聞こえる音とは根本的に違います。演奏する現場では、何よりもその会場の「空間」を意識します。音が吸収される会場=残響の少ない会場もあります。豊かな残響の会場もあります。それぞれの場所で聴いてくださる人が、心地よく
聴こえる音を創ります。
 演奏者の耳元で鳴っているヴァイオリンやヴィオラの音が、会場の空気に伝わって広がり、客席に届くまでに変化します。
 音量も音色も演奏者の感じている音とは別の「音」として徴収に伝わります。

 音色は、ひとつの音に含まれる「倍音」の量と、音の出る「仕組み」によって決まります。音叉の音は倍音を一切含んでいない「正弦波」です。ヴァイオリン、ヴィオラの音は弦をこすって出る「矩形破」です。ヴァイオリンの音は多くの倍音を含んでいます。その倍音の含まれ方によって「硬い」「柔らかい」「暖かい」など人間の感じ方が変わります。数値の問題より「感じ方」が問題なのです。
 一般に、駒の近くを演奏すると「硬い」音が出ます。原因は低温の成分が減少することで暖かみの少ない音に感じるからです。
 一方で、指板の近くを演奏すると「弱い」印象になります。フランスの音楽を演奏するときなどに、意図的にこの音色を使うことがありますが、高音・低音ともにほとんど倍音が含まれなくなり、か細い印象の音になります。
 倍音の量は音の高さ=ピッチでも変わります。ヴァイオリンの調弦は、無伴奏の時や弦楽器・管楽器のアンサンブルの時には「完全5度」を純正調の響き=振動数が2:3の音程で調弦します。
 ただ、ピアノと演奏する場合には平均律で調律されたピアノと、純正調で調弦したヴァイオリンのG線「解放弦」は、明らかに違う高さの音になってしまいます。どこまで?ピアノの調律に寄り添った調弦をするのかは、演奏する曲によって考えるべきです。
 そのように調弦した解放弦のピッチと、同じ高さで他の弦を演奏した時、当然解放弦が「共振」するのですが、実は他の弦も共振しています。むしろ、演奏した音の振動が、空気と楽器のコマを通して、他の弦を「振動させる=音を出す」ことにもなります。一本の弦を演奏しながら、他の弦を左手で軽く押さえて「ミュート」すると、明らかに音色が変わるのを実感できます。
 他の弦が一番、大きく振動するピッチで演奏したとします。
では、その音に「ビブラート」をすると?共振する→共振しない→共振する→共振しないを、ビブラートの速さで繰り返すことになります。すると新しい「音色」が誕生します。音色と言うよりも「音の高さ」が連続的に変化することで、倍音の多さも連続的に変化するのを、人間がひとつの音と「錯覚」することがこの現象です。
 テレビの映像は、一秒間に30コマの「静止画=写真」が連続して映し出されていることはご存知ですよね?あれは、人間の目の錯覚を利用したものです。一方で、実際に動いている「物」を見ているときには?人間の目と脳の処理速度は、最新のスーパーコンピューターより速いと言われています。つまり一秒間に30枚どころか、数千、数万の画像を処理していることになります。
 ビブラートの速さは、一秒間に数回程度の「波=ピッチの連続的な上下変化」です。聞き取れないはずはないのですが、ヴァイオリンは楽器そのものに「残響=余韻」があります。共振している弦の余韻も含めると、ビブラートをかけて演奏しているときに、複数の音が「和音」の状態になって響いているのは事実です。遅いビブラートでは和音にはなりません。「ビブラートの速さ<ヴァイオリン本体の余韻の長さ」で音は和音になります。

 弓の速度、弓の圧力でも音色、音量は変わります。
一定の速度と圧力で全弓を使って均一な音を出す練習は、ヴァイオリンの基本の「き」ですが、圧力を変えながら同時に速度も変えることで「均一な音」を出す練習は、さらに多くの練習時間を要します。これは、楽譜の「弓付け」に関わります。短い音で多くの弓を使いたい時、大きくしないで演奏する技術です。
 クレッシェンドやディミニュエンドでも同様に、圧力と速度の組み合わせは必要です。
 右手の人差し指と親指と小指が「てこの原理」で働くことで、弓の毛と弦の「摩擦=作用点」の力が変化します。小指を丸くして弓の木に乗せる演奏方法を久保田良作先生は厳しく指導されました。古典的な「持ち方」とも言えますが、理にかなった技術だと思っています。小指を伸ばした状態では、美妙な力のコントロールは困難です。

 長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。弦楽器奏者が音を出すときに、多くの関連する動きや知識を考えることが必要であることは、ご理解いただけたと思います。その上で「音楽」を創るのがヴァイオリニスト・ヴィオリストです。これからも頑張りましょう!

 ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です