「黒い楽譜」

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ギョッとするテーマですが。
ヴァイオリンの楽譜は、ピアノと違いト音記号だけの「1段譜」です。
和音も少なく、どちらかという「スカスカ」なイメージですね。
オーケストラのパート譜は?というと、これが「黒い」場所が多いんです。
もっと言えば、ヴァイオリン独奏用の楽譜と比較して、圧倒的に旋律らしい部分が少ないのが特徴です。
教本やヴァイオリン小品の楽譜は、ほとんどが主旋律=メロディーです。
一方でオーケストラのパート譜は、同じリズムで同じ音を何小節も繰り返す部分や、全音符が何小節もタイでつながっていたり。
オーケストラのパート譜は、木管楽器・金管楽器・打楽器・弦楽器が同時に演奏する「オーケストラ」の一人分の台本です。主役ばかりではないのは当たり前です。

オーケストラのパートの中でも、ヴァイオリンパートは、演奏する音の数が最も多い楽器です。ヴァイオリン全員が休符になる場所は、全体の中でもほんの一部です。
オーケストラの曲は、教本などで演奏する曲と比べて長いものがほとんどです。
交響曲の中の1楽章だけでも、数ページになります。
その楽譜を初心者が練習する時に、どこから手を付けたものやら…と頭を抱えるのは当たり前です。
そこで。長年、部活動オーケストラやアマチュアオーケストラの弦楽器を教えてきた経験から、練習方法をご紹介します。

まず「曲を覚える」こと
楽譜を見てすぐに音にできるのはプロだけです。
さらに言えば、楽譜を見ながら「楽譜以外」に注意を払えるのもプロだけです。
アマチュアは、楽譜を見ながら楽譜以外のこと、例えば「ほかの楽器の音」や「指揮者の動き」や「音楽の流れ」を意識することはできません。
少なくとも、自分が演奏しようとする曲を、完全に覚えなければ、楽譜を読んでも音楽にはなりません。テンポの変わり目、主旋律などを耳で覚えることは、演奏以前にできることですし、アマチュアはここから始めるべきです。

つぎに「聴きながら楽譜を見る」こと
まだ楽器を持つ段階ではありません。もしできることなら、スコアを見ながら覚えた音楽を聴くことがベストです。スコアがないのなら、パート譜を見ながら。
オーケストラは多くの楽器が、ある時は一斉に、ある時は一部の楽器だけで演奏しながら進みます。自分の演奏する楽譜「以外の音」を聴きながら自分の演奏する音を頭の中で演奏します。この練習で、自分のパートが目立つ場所なのか、ほかの楽器を支える「影」の役割なのかを楽譜の中で見分けていきます。

つぎに「聴きながら弾く」こと
昔はテープレコーダーでしたが、いまならスマホ?
テープレコーダーの良いところは、再生しながら足の指(笑)でも
巻き戻しのボタンを押せば「キュルキュル…」と少しだけ巻き戻しができましたが、デジタルだとこれができません。アマログの便利さ!
音源をイヤホンなどで聴きながら、一緒に弾いてみます。
当然、弾けない場所だらけでしょう。それで良いのです。
狙いは、「弾けない場所を見つける」ことと「ほかの音にあわせて弾くことになれる」ことです。練習の第一歩です。

最後も「覚えるまで自分のメロディーを繰り返す」こと
プロではないので、すべての音を完全に演奏することは、どんなに時間をかけても無理なことです。むしろ、それを目指すなら違う練習をするべきです。
オーケストラで演奏を楽しむために、極論すれば「弾けない場所は弾かずに最後まで弾けること」を目指すことです。
弾けない場所を減らすことが「練習」です。
何よりも「リズム」が第一です。当然「音の高さ」も重要ですが、アンサンブルの基本はまず「リズム」です。
人と一緒に演奏する、一番の難しさは「時間を合わせる」ことです。
音の高さも、自分の音と他人の音を両方聴きながら弾くことが不可欠です。
そのためにも、まずは「正確なリズム」を理解することに専念すべきです。

話は少しそれますが、音の高さを「Y軸」に、音の長さ=時間を「X軸」にして考えることをお勧めします。
これは、ヴァイオリンの練習をする時に、いつも考えると理解しやすくなります。
ヴィブラートをこのグラフに置いてみると、とても説明しやすくなります。
細かい=速いヴィブラートは、「細かい曲線」になります。
深い=大きいヴィブラートは「縦に大きな曲線」になります。
この組み合わせで、ピッチやアンサンブルの練習が視覚化できます。
ぜひ!お試しください。

最後になりますが「黒い場所はゆっくり練習する」こと
細かい音符、16分音符が連続するとどうしても「速く弾く」と思い込みます。
弓のダウンアップの速度まで「速く」してしまい、演奏できなくなったり、
音の高さを確かめずにひたすら「運動」の練習に終始してしまいます。
ゆっくり演奏して「リズムとメロディー」を確認してから
力を抜いて「音を短く」する練習をすればよいのです。
そして、実際に演奏する速さよりも、もう少しだけ速く弾けることを目標にします。
いずれも「楽譜を見ないで弾く」ことが必須です。

弾けない場所があってもオーケストラは楽しいものです。
自分が弾けなくても、きっと誰かが弾いてくれると楽しめるのが
「アマチュア」の特権でもあります。
楽しむために努力する。
努力することで楽しみが増える。
深刻にならず、音楽を楽しんでください!

ヴァイオリニスト 野村謙介



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