練習と本番

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 生徒さんの発表会を明後日に控え「余興」で1曲だけ演奏する私たちです。
趣味で楽器の演奏を楽しむ人たちが、ステージでお客様の前で演奏する緊張感は、私を含め多くの演奏家も経験したことです。失敗した記憶もあります。音楽の学校での実技試験の記憶も少しはありますが、緊張する演奏経験を重ねるうちに、鳴れなのか?麻痺なのか?次第にその記憶が薄らいでいるようにも思えます。だからこそ、生徒さんたちの緊張感から学ぶことも多いのです。
 練習から一回の本番に至るまでの「道程」を考えてみます。

 演奏する曲が「初めての曲」の場合は、まずその音楽を知ることから始まります。楽譜に書いてあることを音にする。誰かの演奏を聴く。作曲した人や時代などを知る。練習する以前に、音楽を知ることです。
 次に自分が楽器で演奏する段階。ここからは、以前に演奏したことがある曲を演奏する場合でも同じです。
 自分の演奏している「音」と「音楽」を常に観察する集中力が不可欠です。
落とし穴があります。「繰り返せば演奏できるようになる」という「蟻地獄」のような落とし穴です。練習であっても、本番であっても「演奏」であることは同じです。自分の演奏を冷静に観察し続けることは、一度だけの本番のために絶対に必要な練習だと思っています。

 本番での演奏は、演奏している時間と空間での出来事です。完全に同じ演奏を再現することは、神様でなければできません。どんな演奏であっても、その音楽を聴くことのできる人は、その場にいた人だけです。録音された音楽は、真実ではありません。言ってみれば写真と同じです。
 演奏の瞬間に感じるものは、聴いた人の記憶に残ります。当然、演奏している人の記憶にも残ります。練習している時に、自分の演奏に感情を持っているでしょうか?ただ「うまく弾きたい」「間違えないで弾きたい」と思ってはいないでしょうか?たとえ、それが開放弦の練習であったとしても、どんな音色・音量なのか?聴いているはずです。スケールを練習しても、曲を練習しても「演奏を記憶し振り返る」ことの繰り返しを抄訳するのは「手抜き」です。
 思ったように演奏できないパッセージがあります。
私の場合、「思っていない」ことが原因です。つまり、どう?演奏したいのかという、具体的なことが一音一音に足りない場合です。思っていないくせに「思ったように」と感じているだけです。どんなに難しい、あるいは難しそうなパッセージでも「一音だけ」演奏することはできるのです。その一音を、どう?演奏すると次の音が、どう?演奏できるのか?という「連結」ができれば二つの音を連続して演奏できます。それを繰り返せば、「絶対に」演奏できるはずなのです。

 練習に時間は必要です。本番で演奏する時間を、自分も聴いてくださる人も楽しむための時間です。もちろん、ただ時間が経てばクオリティの高い演奏が出来るようになるわけではありません。先述したように、自分の演奏を振り返りながら「試行錯誤」を繰り返すことです。違う言い方をするなら「実験」を繰り返すことです。音楽に限らず、この実験は常に行われています。身の回りでも、何気なくやっているはずです。
 自分のやり方だけに固執するのは、あまり良いことではありません。事務作業にしても掃除にしても、自分が何気なくおこなっていることが、実はとても非効率で、時間と体力を無駄にしていることもあります。
 できないと思ったことに直面したときに、それを解決する方法を「実験」するはずなのです。「マニュアル」がないと、新しいことができないと思っている人もいます。子供は、まず「やってみる」のです。だから、スマホでもなんでも大人よりずっと早く使いこなせるのです。もちろん、失敗して壊すリスクもあります。化学の実験なら「爆発」するかも知れませんね。
 音楽の実験でケガをした人はいないはずです(笑)
実験をせずにただ何となく、繰り返してもケガはしません。ただ上達した人もいないと思うのです。新しい発見をすることがなければ、進歩はないのです。
 練習は単なる時間の浪費ではなく、「発見のための時間」だと思っています。

 最後に、本番で演奏する時間から、少しずつ遡る「逆算」をしてみます。
演奏直前、最初の音を出す直前です。あなたは何を考えますか?今日の晩御飯?それとも昨日の出来事?(笑)多くの生徒さんが、この瞬間に何も考えられなくなるか、逆に考えすぎます。どちらもあまり良いことではないように思います。
 練習で最初の音の弾き方を決めておくことです。ずいぶん戻ってしまいますが(笑)最初の音をどうやって演奏するのか?決まっていれば、まずそれを考えれば良いだけです。
 もう少し遡って、自分の演奏する前の「10分」
演奏に必要な「もの」と「こと」を確認します。これだけ時間があれば、絶対に大丈夫です。慌てない、焦らない、ゆっくり動く。
 さらに遡って、家から会場に移動する時。途中で走らないことと、立ち上がる時に必ず後ろを確かめて忘れ物がないか見ること。これ、聴音の黒柳先生から伝授された「奥義」です(笑)効果絶大です。
 家から出る前に。もしも、余裕があるなら一度だけ、演奏してゆっくり片づけて、すべての持ち物を確認する「余裕」が理想です。その時にうまく演奏できなくても「今日は弾いた」という安心感が得られます。本番前にうろたえることもなくなります。
 本番数日前。ケガをしないこと。病気にならないこと。楽器を壊さないこと。疲れないように練習のペースを落とすこと。この時期に一番うまく演奏できるように、その前の数日は「へたくそ」で良いのです。人間にはバイオリズムがあります。常に最高の状態に保つことは不可能です。本番の前に自分を高め、本番で最高の「頂点」にいる計画をイメージすることです。
 あまり「ルーティン化」しないことも大切です。「おまじない」を増やせば増やすほど、不安材料になります。お守りを10個、持ち歩く人っていないですよね?(笑)それと同じです。
 練習で本番通りのことをしていれば、本番も練習も同じです。
演奏は時間の芸術。その場で演奏している自分が「主人公」です。
演奏を楽しみましょう!
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

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