動画は世界的なフルーティスト「エマニュエル・パユ」が語る素敵なお話です。今回のテーマは、他人からは見えない「演奏中に考えていること」です。
ヴァイオリンを練習する生徒さんたち、特に大人の生徒さんが陥りやすい「本番になるとうまく演奏できない」というネガティブな思い込みがあります。
また、本番に限らず練習中に、なにを考えながら演奏すれば上達できるのか?という問題があります。
人それぞれ、演奏中に考えていることは違います。同じ人、例えば私の場合は同じ曲を弾いている時でも、恐らく違うことを考えています。ですから「正解」を出すことは不可能ですが、多くの生徒さんに聞いていくうちに、あるパターンを見つけました。
初めて練習する曲の場合、当然ですが楽譜を音にすることに集中します。楽譜を使わないで練習する人の場合は、音を探すことに集中します。この段階で、音色に集中している生徒さんは、ほとんどいません。仕方のないことですし、順序で言えば間違っていません。
その次の段階で何を考えているでしょう?多くの生徒さんが「間違えないこと」を考えます。うまく演奏できない部分を繰り返し練習するのが一般的です。
その時にも「間違えない」とか「失敗しない」ことを考えています。
ここからが問題なのです。
ひとつには、うまく弾けない原因を「考える」事を忘れがちです。
さらに、同弾きたいのか?を試すことが必要です。陥りやすいのが「繰り返していればいつか弾けるようになる」という思い込みです。確かに、繰り返す練習は必要ですが「どう弾きたい?」を探さずに繰り返しているうちに、ただ運動だけで間違えないようにする練習をしてる場合がほとんどです。
練習で思ったように演奏できるようにすることは、言い換えれば自分が今、どう弾いていてそれをどうしたいのか?という根本がなければ、うまく弾けない原因も見つけられないのです。初めから「こう弾きたい」というレベルではない!と思う人も多いのですが、思ったように演奏できない原因を探すために、現状を分析することに集中すれば、自然に自分の弾きたい「速さ」や「音色」や「音量」を考えることになります。
体調がすぐれない時、お医者さんに自分の病状を伝えますよね。
身体のどの辺りが、どう痛いとか。その症状から医師が原因を推測するために、さらに検査をします。そして出された「病因」を解決するための治療や処方をするのが「順序」です。病状がわからないと、治療には結び付きません。
ヴァイオリンを演奏しながら、なにを考えていますか?何に集中していることが多いですか?無意識にただヴァイオリンを演奏し続けていないでしょうか?
本番で、過緊張にならないために自分を信じることができ、考えなくても自然に自分の弾きたい演奏ができる「理想」を持つのであれば、練習中には考えることが必要だと思います。次第に、考えなくても「思った通り」の演奏が自動的に出来るようになるプロセスが必要です。勉強をまったくしないで「私は東大にいきます」と思って受験しても受かりませんよね?偶然を待つのは間違いです。失敗するのも、うまくいくのも「偶然」で片づけるのは簡単ですが、努力する段階で「偶然」を期待するのは間違いです。
私は練習中に、自分が思った通りの演奏をしている「イメージ」を作ることに努力しています。そのために、一音ずつの「理想」と「現実」を常にチェックします。本当はどんな風に演奏したいのか。今、どんな音で演奏していたか?どうすれば…弓の場所、圧力、速度、ビブラートなどをコントロールすれば出来るのか?を考えます。考えて「これかな?」と推測した演奏方法で繰り返します。違えば修正して、また繰り返します。そのイメージを頭に作ります。右手の動き、弓の動き、左手の動き、音の高さ、音色、音量を「ひとつのイメージ」にまとめる練習を繰り返します。一度に複数の事に集中することは不可能です。
「ひとつのイメージ」になれば、それを思い描き、再現することに集中することは可能です。
音の高さだけに固執しない。弓の使い方掛けにも固執しない。
自分の「理想」をイメージするための長い道のりですが、結局のところ「思ったように演奏できた」と言えるのは「思っていなければできない」という事なのです。音の高さだけを、間違えないで演奏できてもダメですよね?いくら、良い音でも音の高さが外れていたら、これもダメですよね?それらを「合体」させたイメージを作るために、常に音に集中して練習することをお勧めします。
自分の演奏する「音」にすべての答えがあるのですから。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介