今回のテーマは、音楽に限った話でもありませんが、自分の聞こえている音の大きさについて。
音の大きさを測る機械で「音圧」を測ると「デシベル」という単位で大きさを表すことができます。
地下鉄の車内の音。飛行機が上空を飛ぶ音。ハードロックのライブ会場の音。
誰が聞いても「大きい音」がある一方で、静かな場所にいると小さな音も、結構気になる大きさに感じます。人間は、静かな場所にいると聴覚の感度が上がります。大きな音を聞き続けると、少しでも小さく感じようと「アッテネーター」(減衰機)に似た働きを脳が行い、結果的に「一時的な難聴」になります。
弦楽器を連続して演奏した直後に、小さい音で「キーン」という耳鳴りが聞こえることがあります。しばらくすると消えます。これが「脳のアッテネーター」です。
その物理的な音圧とは別に、感覚的な音量があります。
先ほど書いたように、静かな場所で聞こえる音は大きく聞こえます。
夜、隣人のテレビの音や楽器を弾く音が「大きく聞こえる」のは、周りが静かで聞こえてくる音が「大きく感じる」からなのです。加えて「もう静かにするべき時間だ!」という怒りの感情も加わって、さらに大きく感じたりします。
音圧の問題とは別の「音の大きさ」です。
さて、音楽の世界に話を戻すと、自分の弾いている音の大きさが、他人の聞いている音の大きさと違う話は、以前のブログでも書きました。
耳元に音源があるヴァイオリン、ヴィオラという楽器は、特に自分の出している音量を客観的に判断しにくい楽器です。
たとえば、ピアノと一緒に演奏していて「自分ではちょうどいい大きさ」と思っても、離れた場所で聴いている人、ピアニストや、客席のお客様には、ヴァイオリンが小さすぎることが良くあります。
ヴァイオリンに限らず、演奏者が自分の音を、違う場所では聞けませんから誰かのアドヴァイスが必要不可欠になります。これも以前書きましたね。
とは言え、自分の音を大きくしたいと思っても、これ以上出せない!と思うことがあります。
ヴァイオリンの音を「大きくする」方法は?弦を弓の毛で強く擦り、速く動かします。音量として考えれば、これ以外の方法は「ビブラート」による残響の増加しかありません。ほんの少しですが、ビブラートによって、音圧が上がります。
音量とは別に「音色」を変えることで、よりはっきりとした、明るい音にすることで「目立たせる」方法もあります。駒に近い場所を弾くこと。弦を押さえる左手指先の、いちばん固い部分(肉の薄い部分)で指板に対し直角に強く押さえること。
この二つは、ピチカートをしてみるとより、はっきりします。
駒の近くをはじくと、固い音がします。指板の近くをはじくと柔らかい音がします。
指先の固い部分で、しっかり弦を押さえると開放弦に近い、長い余韻が残ります。柔らかく押さえてはじくと余韻がすぐに消えます。
音色を明るくすることはできますが、音量を上げることとは別です。
柔らかい音色で、今よりも大きな音を出したい!
・弦を張り替える方法
一般にナイロン弦を当たり前のように使う人が多いのですが、私はガット弦を使っています。音量が足りない!というのであれば、スチール弦を張れば?(笑)ナイロン弦よりはるかに派手な音が爆音で鳴ります。ナイロン弦であれ、ガット弦であれ良い音の出る「寿命=賞味期限」があります。私の経験では、ガット弦の寿命はナイロン弦のどれよりも「長い」ことは明らかです。ちなみに、最もスタンダードなナイロン弦である「ドミナント」の寿命は、約2週間だと思います。使い方によって差はあります。普通に毎日弾き続け、手入れもしたとしても、およそ2週間で突然、余韻の音量が瞬間的に小さくなります。
この現象はガット弦にはほとんど現れません。むしろ、ガット弦の場合の寿命は、明るさが消えこもった音になります。余韻も短くなります。
・弓の毛を張り替えてもらう
弓の毛の表面の「キューティクル=凸凹」に松脂の粉の粘度(べたべた)が付いて大きな凸凹になり、弦と摩擦を起こして音が出ます。
弓の毛のキューティクルは次第に削れて「滑らか」になります。松脂を塗ったときには音が出るが、すぐに「滑る感じがする」のは弓の毛の寿命です。さらに、弓の毛は「有機物」ですから、時間とともに劣化します。特に毛の伸縮性が減って=伸びがなくなって、固くなります。これも弓の毛の寿命です。
・楽器が鳴りやすいピッチを探す
これは、「共振現象」を上手に使う方法です。
俗にいう「音程の悪い」ヴァイオリン演奏は、共振する弦の響きがほとんどありません。
ヴァイオリンの一つの弦を弾いている時に、その弦ではない弦が共振しています。特にはっきり差がわかるのが、ヴァイオリンで言うと、G線の「ラ」「レ」D線の「ソ」「ラ」、A線の「レ」を強く長く演奏しているときに、ほかの弦の開放弦の音が「勝手に」共振しています。音量としてはわずかですが、これも音量の一部です。正確なピッチ、特にほかの開放弦が「共振する」ピッチで演奏することを心がけるのは良いことです。(ピアノの音と喧嘩することもあります)
・松脂を変える
弓の毛が新鮮であれば、松脂によっても音量は変わります。粘度の高い=粘りの強い松脂と、少ない松脂があります。松脂は本来は「液体」です。松の幹に傷をつけると流れ出る「樹液」が松脂です。それを「個体」にして、さらに、それを弓の毛の凸凹で「細かく削り」粉末状にします。粉末になった個体の松脂は、湿度と温度で「粘度の高い液体」に変化します。つまり「べたべた」な状態になります。夏の暑い季節と冬の寒い季節で、松脂を変える演奏家もおられます。私は軟弱な人間なので、年中ほぼ同じ室温の中でヴァイオリンを弾きますから変えません(笑)室温が0度になったり、45度になる部屋で練習する方は松脂以前にエアコンをお求めください。
・立ち位置と楽器の方向を考える
最終手段。というより最善の方法です。
先述の通り、ピアノやほかの楽器と一緒に演奏したり、お客様のいる「ホール」で演奏することを前提にしています。
演奏者の立つ位置によって、空間に広がる空気の振動=音の広がり方は全く違います。当たり前のことです。ホールは大体が「四角い空間」です。ドーム状になっているホールはごく稀です。教会のドーム、トンネルの中(誰が弾くか!)では丸い天井からの音の反射が「一定に近い」状態になります。だからきれいな残響が残ります。一方、四角いホールでは?当たり前ですが、音の反射が、聞く場所によって全く違います。音源(演奏者)が動けば、響きも変わります。どこに立って演奏すれば、多くのお客様に心地よく聞いてもらえるか?事前に研究してから、立ち位置を決めるべきです。ただ、自分では聞けませんから、誰かの助けが必要です。
ヴァイオリンの構え方(楽器の方向)で音の「方向性=指向性」が変わります。
どんなバイオリンでも必ず「指向性」があります。多くの音は「表板」の垂直方向上に広がります。一方で、「裏板」の音は、逆方向=左腕と床に向いて進みます。その音の指向性によって、ホール全体への音の伝わり方が変わります。
例えで言うと、ピアノと一緒に演奏する場合です。
ピアニストの座る「斜め後方」に立って、ヴァイオリンが「客席方向」に向く構え方をしたとします。
この場合、ヴァイオリンの音は、明らかにピアノの音とは分離して空間に伝わります。ピアノの蓋を全開にした場合、ピアノの音は屋根=蓋全面に反射して広く前方に広がります。一方で、蓋を半開=短い柱にした場合、ピアノの音は、狭い空間で屋根=蓋にぶつかり、瞬間的に前方(狭い範囲)に進みます。こちらのほうが、客席に「速く」音が伝わることになります。
私は、ピアノの蓋を全開にして「柱」の部分に立って、楽器が客席を向く構えで演奏します。
ピアノの「へこんだ部分」になると、ピアノの弦の響きが、すべて自分の斜め後ろから「かぶさって」来ます。この位置だと自分の音がより小さく聞こえ、不安になったり、ポジション移動の「小さい音」が聞こえなくなります。
客席で聴くと、ピアノの音とヴァイオリンの音が、ほぼ同時に、同じ方向から聞こえてくる。のがこの位置だと思っています。
音の大きさ。色々書きました。最後までお読みいただきありがとうございました。自分の音を確かめてくれる信頼できる人を探しましょう!
ヴァイオリニスト 野村謙介
距離の二乗倍で音量は大きくなるので顎あて楽器の人は大変だあ。
教えて欲しいのですが左耳は自分の音が爆音で聴こえるでしょ?他者の音は右で聴くって感覚になるのですか?
先日周りの流れに乗れない(聴いていない?聴けていない?聴こうとしていない?)人が横にいて困ったんだよね。
エハラ君の横ってことは、かなり重要な役割のお席ですよね笑
オーケストラや弦楽アンサンブルの場合、周りの音がバイオリンより小さく聞こえるのが普通です。聞こえないのではなく、一つは聞き取る技術のトレーニングができていない場合があります。聴音できない人です。さらに関心がない場合。自分のパートだけで完結している人です。この両方が重なると致命的です。少なく主エハラ君の横で弾くのは無理かと想います。