楽譜を見ないで演奏することを「暗譜」と言います。
楽譜に書かれているのは何?
拍子・調性記号・シャープなどの臨時記号・音符・休符・強弱記号・繰り返し記号・速度の記号・表現の指示・スラーやスタッカート・弓のダウンアップ・指番号などなど。
それらを、初めは一つずつ確認しながら弾く練習からスタートします。
この時点で、全盲の方は「点字楽譜」を使用されます。
クラシックと呼ばれる以外の音楽では楽譜を使わないで演奏するスタイルも実際に多くあります。楽譜を見ないでも、すべてを誰かに教わったり真似をして演奏できるようになることも事実です。
楽譜を読むことが苦手な人は世の中にたくさんいます。むしろ、読めない人の方が普通だと思います。なぜなら、日本では義務教育で楽譜を音にするための技術は教えていないのですから当然です。学校以外の場所で、ピアノやヴァイオリンを習うことで初めて楽譜を音にする人の方が多いのです。楽譜を音にするための知識、技術は、言葉を読む・書くのとほぼ同じです。世界の言語の中でも最も難しい日本語を読み書きできる人が、楽譜を音にすることは、実際にはとても簡単たことです。
むしろ、楽譜を用いないで、覚えて演奏する方が何倍も大変です。曲が長くなれば、その作業は楽譜を読んで演奏するよりも遥かに膨大な時間を要します。
2週間後の発表会を前にして「暗譜で弾くことが不安で出られない」生徒さんが今日もレッスンに来ました。私の答えは「もちろん、楽譜を見ていいよ」でした。生徒さんが子供であれ大人であれ、この不安は同じです。
もっと言えばプロでも同じです。
「自動的に手が動くけれど、それがあっているのか不安になる」と小学6年生の女の子が言いました。的を射た表現です。人間は「記憶する」ことを無意識にする場合と、意識的に記憶することの区別ができます。
ただ、後者の場合は半ば「無理やり」記憶するのですから、思い出せるか不安になるのも当然です。
テストの勉強で、英語の単語や歴史の年号を「丸暗記」したことはおそらく多くの人に「あるある」な話です。テストなら正解か不正解で、点数が決まりますが、結婚式のスピーチで原稿を読みながら話すか、記憶して話すか…。あなたなら、どうしますか?
思い出せなくなる不安。見ながら話したり弾いたりすれば安心。
原稿や楽譜を「使えない現場」もあります。
演劇の舞台、映画の中で役者さんがみんな台本を手にして読みながら芝居をしていたら?なんだか気分悪いですよね(笑)
楽譜を覚えるのではなく、音楽を覚える。
かっこよく聞こえます(爆)
最終的に音楽を覚えるまで、考えながら反復する。
反復する時間の中で、記憶だけで演奏できるようになるまで反復する。
思い出せない場所は、その前後を含めて音楽を記憶していないから思い出せない。思い出せない「箇所」を練習しても、音楽は記憶できません。
それでは運動を記憶するだけです。演奏は、「音楽を演奏する」のであって、「音を出す」単なる運動ではないからです。
暗譜で弾く不安はゼロにはできません。
でも、楽譜を見ること・読むことに集中すれば、音を聞くことへの集中力は絶対に減ります。集中するものが音なのか、楽譜なのか。
音に集中して自分の記憶した音楽を自然に動く運動にすることがアマチュアには必要だと思います。
プロは楽譜を見ながら音に集中する技術を身に着けています。
アマチュアとの一番の違いはそれです。楽譜がなければ弾けないというアマチュアの場合、楽譜があっても満足できる演奏には至らない。と言うのは私の持論です。
楽譜に書いていないことを演奏するのが「生身の演奏家」です。
楽譜を見ながら演奏できない視力の私は、これからも「暗譜するまで」頑張ります。アマチュアの皆さんも頑張ってください。
メリーミュージック 野村謙介