ヴァイオリン演奏と力

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 動画は、ヴァイオリンの演奏とは一見、無関係のように感じますが、楽器を演奏することは「運動」を伴う事なので、とても参考になる動画です。
動画の中で「意識」と「無意識」という言葉が良く出てきます。

 ヴァイオリンを演奏する時に、私たちが必要とする運動を意識したり、無意識だったりします。指の動き手首の動き、肘の動き、肩の動き、首の動き、胸の筋肉の動き、背中の肩甲骨や筋肉の動き、前後のバランスを保つ腹筋と背筋、腰の周りの力、股関節に入れる力、膝の関節の曲げ伸ばし、足の裏の感覚。
これらは「無意識」の中でも何かしらの「仕事」をしています。

 自分の出したい音色や音量、ポジション移動やビブラートを練習する時、自分の身体なのに、「思ったように動かせないこと」があります。
音楽的な「力」を考えると、アクセントやスフォルツァード、フォルテピアノなどのように「瞬間的な力」を感じる場面と、クレッシェンドティミニュエンドのように「徐々に」力が増えたり減ったりする場面があります。
発音の瞬間のアタック、急激に弓をとめる運動、ダウンからアップ・アップからダウンに代わる瞬間の運動など、音楽で力を度外視できません。
演奏家の多くが「運動音痴」です。幼い時から手や腕にケガをすることを避けて、球技に縁のない人が多いのも現実です。武道にはもっと無縁です。
ヴァイオリニストの五嶋龍さんは、幼いころから空手を習い黒帯だそうですが、彼の演奏姿勢にはその「気」を感じることがあります。

 ヴァイオリンを演奏する時、どうしても「指」と「手首」と「腕」に気持ちが集中してしまいます。当たり前ですが、指は手のひらに、手のひらは手首に…とすべての部位が「連携」しています。足の裏から頭のてっぺんまで、どこも「離れていない」のです。ヴァイオリンと弓という「道具」を自分の身体のどこかで支えたり、動かしたり、力を加えたりします。言い換えれば、楽器と弓だけが「体から離せる」存在です。楽器や弓は人間の力がなければ、動くことも音を出すこともできません。
 自分の身体の「延長線上」に楽器と弓があります。

 ヴァイオリンを演奏するために必要な「力」は、常に「ヴァイオリンの内側」に向かってかかる力です。
 弦を押さえる左手の指の力は「ネックの中心」に向かう力です。その力の反対方向の力=支える力を、左手の親指・鎖骨・顎の骨と表皮で作ります。この「上方向」への力は、左腕を持ち上げるところから始まっています。
 左手を、ファーストポジションの位置に持っていくとき、
手前から手を伸ばしがちですが、腕を支えるのが「肩の筋肉」だけになりがちです。自然に腕を伸ばした状態で、肩を動かさずに左腕を「振り子」のように前方に持っていくことで、腕全体を背中と胸の筋肉が支えてくれます。
 ヴァイオリンを無理に持ち上げようとする力も有害です。
鎖骨に楽器を乗せる。首の皮と顎の骨を、楽器の上から「下ろす」ことで楽器は保持できるはずです。
 左肩の位置を決定するために、胸の筋肉と背中の筋肉が、どちらにも無理のない位置を探すことが大切です。前に出しすぎれば、背中の筋肉が必要以上に固くなります。肩が後ろすぎると、胸筋が伸び切り背中にも無駄な力が生まれます。ちょうどいい位置に「肩を落とす」ことです。

 右腕を上げる時にも、首の筋肉に力を入れずに、右手のこぶしが「おへそ」の前に来る辺りで止めます。右肘を「前・上方向」に動かせば、演奏する時の右ひじの位置を理解することができます。肘の高さ=体からの距離は、演奏する弦によって変わるものです。弓の元で、右ひじを上げることで「元弓のつぶれた音」を出さなくてよくなります。アップで元に近づくにつれ「窮屈な音」が出ている人は、ぜひ右ひじを「斜め後ろ・上方向」に引き上げてみてください。この時に首の筋肉に力をいれないことです。肩の関節を頭の方向に引き寄せてしまうと、肩が上がって自由がきかなくなります。「肩を下げたまま、腕を上げる」感覚を覚えることです。

 弦を弓に押し付ける「力」は、弓の重さと右手の「親指と人差し指」の逆方向への力で生まれます。親指を「上」へ、人差し指を「下」へ。この力を指だけで作る場合と、「前腕の回転=反時計回り方向へのひねり」で作る場合があります。指の力は瞬間的な運動に適しています。腕の回転運動は「大きな力の持続」に適しています。このふたつの運動で、弓の毛を弦に押し付ける力を生みます。

 腹筋と太もも、膝の関節について書きます。
女性の場合、ロングドレスで脚の開きや、膝の曲がりは見えません。男性の場合どうしても「足元を見られる」ことになります。見た目はどうでも良いのです。
パールマン大先生以外のヴァイオリニストは、足の裏ですべての「重さ」を受け止めます。女性の「ヒール」に関しては、未経験なので書けません。ごめんなさい。男性でも、少しヒールの高い靴の場合、重心が前よりになることを感じます。足の裏、全体に重さを分散し、強く「地面に押し付ける」イメージで立つことをお勧めします。膝の関節を伸ばしきると、脚は「硬い1本の棒」になってしまいます。上半身の上下・左右の運動を吸収できるのは「膝」なのです。。
太ももに力を入れ、腰を安定させて且つ「回転運動」が出来る柔軟さを持つことで、上半身の「回転方向の力」を吸収することができます。
「回転なんてしてない」と思うのですが、右腕を大きく、速く運動させる場合に、体を「ひねる」力が生まれます。前後・左右の運動が組み合わされると「回転運動」が生まれることになるからです。太ももと腰で、上半身を支えるイメージです。

 自分の身体の筋肉を「無意識」に「合理的に」使って演奏するために、一番楽な姿勢から、どうすれば「大きな力の速い運動」ができるのか?を意識して練習することが大切ですね。筋肉が疲れる演奏方法は、どこか間違っている場合がほとんどです。「思い込み」を捨てるために、常に初心に戻り、初めてヴァイオリンを構え、初めて弓を持ち、初めて音を出す「イメージ」で練習することも必要です。初心者のレッスンをしていると、いつも自分ができていないこと、忘れていることを教えられます。「初心忘るべからず」ですね。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介


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