耳に優しい音色と音楽

 映像は、フォーレのベルシューズ「子守歌」です。
ヴァイオリンの音色が「こもった」感じの音なのは、演奏用のミュート=弱音器を駒の上に付けて演奏しているせいです。練習用に使う「消音器=サイレンサー」とは意味合い・目的が違います。ちなみに金属製の消音器を付けると、音圧=音の大きさがテレビの音量程度まで小さくなります。一方で演奏用のミュートは、「音色を変える」ための道具です。

 さて、同じ音楽=楽譜でも、演奏の仕方で聴く人の印象が変わることは言うまでもありませんね。同じ材料と調味料を使って、違う人が同じ料理を作っても、同じ味にならないことと良く似ています。料理で言えば、材料の切り方、火加減、手順、味付けが違います。ヴァイオリンの演奏で言えば、何がどう?違うのでしょうか?

 もちろん、楽器と弓で音色が大きく変わるのは当然です。
ヴァイオリニストは自分の好きな音色の楽器を使って演奏できます。
ピアニストはそうはいきませんね。会場のピアノで演奏することがほとんどです。また、高額なヴァイオリンの場合、演奏者が借りて演奏する場合が良くあります。自分の好きな楽器かどうかの選択ではありません。
 自分の好きな音色を出すためのテクニックとは?

 前回のブログで書いた「弓の毛の張り具合」もその一つです。そのほかに
・弓の速度

・弓の角度
・弓の圧力
・弓を乗せる位置=駒からの距離
・ビブラートの深さ
・ビブラートの速さ
・ビブラートをかけ始める時間
・弦を押さえる力と指の場所
・ピッチ=楽器の倍音
・グリッサンドやポルタメント
・余韻の残し方=音の終わりの弓の処理
他にも考えられますが、これらを複数組み合わせることで、音色が大きく変えられます。
聴いている人が「優しい音(音楽)」と感じる場合と、「激しい音・強い音」と感じる場合があります。言葉で表すのはとても難しいことですが、少し「対比」を書いてみます。
・太い音⇔細い音
・固い音⇔柔らかい音
・明るい音⇔暗い音
・鋭い音⇔丸い音
・つるつるした光沢のある音⇔ざらざらした音
・力強い音⇔繊細な音
・重たい音⇔軽い音
・輪郭のはっきりした音⇔ベールのかかったような音
いくらでも思いつきますが、上記の左右は「どちらもアリ!」だと思います。
綺麗⇔汚いと言うような比較ではありません。
敢えて書かなかったのが「音の大きさ」に関するものです。
だんだん強くなるとか、だんだん消えていくなどの表現は「音の大きさ」で「音色」とは違います。
 また同様に音の長さについても書きませんでしたが、実は音の長さは「音の強さ」の概念に含まれます。「音の三要素」は「音の強さ」「音の高さ」「音色」です。いまは「音色」の話です。

 演奏者の好みで曲の解釈が変わります。
同じ楽譜でも、違って聞こえるのが当たり前です。「良い・悪い」「正しい・間違っている」の問題ではありません。フォーレの子守歌ひとつでも、人によってまったく違うのが当然です。大好きなヴァイオリニスト、五嶋みどりさんのえんそうです。


 世界的なヴァイオリニストの演奏と比較する「図々しさ」は私にはありません。
ただ、人によって音楽の解釈が違うと言う話です。お許しください。
 ヴァイオリニストの音色へのこだわりは、楽器選び、弓選び、弦選び、松脂選びなどの「ハード」と演奏方法「ソフト」の両面があります。
聴く人には「一度だけの演奏」です。演奏者が、自分の好きな音色に迷いがあったり、最悪「こだわりがない」場合、演奏のうまい・へた以前に「無責任な演奏」を人に聞かせていることになると思います。
 自分の好きな音を探し求めて、試行錯誤を繰り返すのが弦楽器奏者です。
一生かけて、楽しんでいきたいと思います。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

間違いだらけ「弓の毛の張り具合」

 映像は、ファリャ作曲のスペイン舞曲をクライスラーがアレンジした作品です。だいぶ前の演奏で…若い(笑)
 今回の話題は「弓の毛」をどのくらい?張って演奏するのが良いのか?です。
多くの動画がYoutubeに上がっていますが、なにか間違っている気がしましたので、長年「弓」について考えながら演奏してきた演奏者として、考えをまとめてみます。

 高校時代まで使っていた弓は、フィンケル氏の作成した弓1本だけでした。
次第に「弓を変えたら音が変わるって本当かな?」と思うようになり、ヴァイオリン職人で私の楽器を斡旋紹介してくれた名工「田中ひろし」さんに相談しました。「自分で勉強してこい。」と一言。東京中のヴァイオリン専門店を回って、「これだ!」と感じた弓を数日間だけ貸してもらっては、表参道?南青山?の田中氏の工房に持っていきました。「おまえ、この弓のどこがいいんだ?返してこい!」の繰り返しを約1年間続けた頃、田中氏から「この弓でひいてみろ」と言われて渡された弓。それが今も私が使っている「ペカット」でした。その弓を師匠である久保田良作先生にお見せしました。「すごいね!今度の演奏会で使わせてもらっていいかな?」と実際に東京文化会館小ホールでの先生の演奏会で使用されました。その後返して頂いた際に「この弓、売ってもらえないかな?」さすがにそればかりは!とお許しいただいたのを忘れられません。
 そんな弓を使って演奏している私の「弓の毛」の張り方です。

 「弓の毛を強く張れば張るほどいい音が出る」と間違っている人がたくさんいます。また同じように「張れば張るほど、大きい音=フォルテが出せる」と間違っている人も多いのが現実です。なぜそれが間違いなのか?説明します。

 そもそも、弓の木は元来「まっすぐ」に削られたフェルナンブッコの木を、職人が熱を加えながら反りを付けて作ったものです。弓の木には弾力=しなりがあります。弓の元から先までの「しなり=強さのバランス」と「重さのバランス」が弓の命です。さらにしなりは「縦方向と横方向」のしなりがあります。
弓の毛に対して直角方向が「縦」で、弓の毛と平行方向が「横」のしなりです。
弓の一番先を左手で持って、右手でこの「縦と横」の弾力を感じる=調べることができなければ、弓の良し悪しは判断できません。しなりが弱い弓を「腰が抜けた弓」と表現します。一方で固すぎる弓は、柔らかい音色を演奏できません。
 弓の毛を張ったままで何日も放置すると、弓の腰が抜けて「ぐにゃぐにゃ」になります。この状態は先述の「左手で弓先を持って調べる」とすぐにわかります。縦にも横にも、ほんの少しの力でふらふらと曲がります。反りもほとんどなくなって、まっすぐの「棒」になってしまいます。
この状態で演奏しようとすると?当たり前ですが、弓の毛とスティック=弓の棒の部分がすぐに当たってしまいます。弓の毛を張れば張るほど、スティックは安定感を無くして、フォルテもピアノも演奏できなくなります。
 言い換えれば、張らなければ弾きにくい弓は、腰が抜けている弓です。
弓の弾力は、すべての弓で違います。弓の毛の本数が同じでも、弓の毛もやはり弾力が違います。演奏する前にその弓の「ベスト」な張り具合を見極める技術が絶対不可欠です。弓の弾力が最も大きく使えるのは「弓の毛を緩めた時=毛を張っていない時」です。弓の毛を「少しずつ張っていく」と、スティックの両端を弓の毛が、弓の元=毛箱に向かって引っ張る力が生まれ、少しずつ弓の反りが「逆方向=まっすぐにさせられる」ことになります。つまり、本来「弓の反りが少しだけ変わる」程度の張りの強さで、弓の毛はまっすぐにピンと張れているはずなのです。
 腰の抜けた弓だと、弓の毛がピンとなる前に、スティックがまっすぐになってしまいます。これでフォルテが弾けるはずもありません。
 この「ぎりぎりの弱さ」で、まず弓の中央部分と、先、元で演奏してみます。
弓のスティックを、演奏者から見て向こう側に倒しすぎれば、弓の毛が半分くらいしか弦に当たらず、当然毛のテンション=張力が半分になるので、すぐにスティックが弦に当たります。当たり前です。だからと言って弓の毛を張るのは間違いです。
 そもそも論ですが、弓の真ん中は弓の毛のテンションが弱くて当たり前です。むしろ弱いからこそ、元・先のテンションが強い部分との「違い」が出せるのです。
 弓の毛を「弦」に置き換えればすぐに理解できます。
弦の「端っこ」に当たる「上駒=ナット」近くと「駒」近くは、弦のテンション=張力が、強く=弦が固く感じますよね?つり橋の真ん中が揺れるのと同じ原理です。弦の固さ=橋の強さは本来端っこも真ん中も同じでも、駒=橋脚近くは固い=揺れないのに対して、真ん中は柔らかい=揺れることになります。弓の毛でもまったく同じです。

ちなみに「カーボン弓」は「曲がらない」と勘違いしている人もいますが、それも間違いです。曲がるように=フェルナンブッコ弓と同じように作る技術があるのです。ケースに使われるカーボンと「製造工程」が全く違うのです。
 弓の毛を張らないで、フォルテで演奏すると、初心者の場合は弓の毛とスティックと弦がすぐに「接触」してしまいます。その接触をぎりぎりで避ける「圧力」をコントロールできるのが上級者やプロの演奏技術です。

 弓の毛の張り具合は、演奏者によって好みが分かれます。
弓の中央部分でも、とにかく圧力をかけて演奏したいというヴァイオリニストはやたらと毛を強く張ります。一方で、弓の中央部分の柔らかさを使いたいヴァイオリニストは、ぎりぎりの弱さで張ります。
 少なくとも、弓へのダメージを考えるなら、私は張りすぎは避けるべきだと思います。私はペカットを使うのは、本番前の数日間と本番当日だけにしています。それまでは、違う元気な弓(私の場合フィンケル)で練習します。
 弓のスティックは、演奏していると次第に柔らかくなっていくのを感じるはずです。言い換えれば、木が疲れてきているのです。毛を強く張って長時間練習すれば、それだけスティックは疲労します。
 「弓は消耗品」という、とんでもない嘘を言う人が、たまにいます。
確かに疲労しやすい・壊れやすい「楽器」です。だからこそ労わって、大切に使わなければ、名弓と呼ばれる弓は世界からなくなってしまいます。すでに多くのペカット、トルテの弓が、折られたり、使い物にならなくされたりしています。
 弓はヴァイオリンの付属品でもありません。楽器です。
弓の扱いを知らないアマチュアが多すぎます。先日も、ある学校の部活オーケストラに入った私の生徒が、先輩に「弓の毛はいっぱいまではらないとダメなんだよ」と言われ、困って「私の先生に弓の毛は張らないほうがいいってならいました」と正直に答えたそうです。あろうことか、そう上級生は「そう?じゃ、貸して」と生徒の弓の毛を目いっぱいに張って「はい。これで大丈夫」と返されました。
実話です。これが現実なのです。恐ろしいと思います。
 私の生徒には、絶対に人に楽器も弓も触らせたり弾かせたりしないこと!
なぜなら、楽器を落としたり、ぶつけて壊しても「貸した人=持ち主の責任」なんだよと、教えました。どうしても先輩に言われたら「このヴァイオリンは私の先生に借りているものなので、貸せません」と嘘で良いから断るんだよと教えました。嘘をつかせたくはありませんが、そうするしか方法がありません。

 弓の毛の張り具合を決めるのも、演奏技術の一つです。ただ単に「適当に張りましょう」と本気で思っている人には、ぜひ弓のスクリューを90度緩めて演奏して見て欲しいと思っています。それでもまだ強すぎれば、さらに90度。
きっと音色の違いに気付けるはずです。そして、弓の反りをいつまでも保つことは、ヴァイオリン演奏者の「責任」だという事を忘れないで欲しいのです。
弓は買い替えればよい…という人は、ぜひピチカートだけで演奏してください。
弓は演奏者の「声」を出すものです。声楽家がのどを大切にするように、ヴァイオリニストは弓をもっと大切にするべきです。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

掌で紙風船を包み込む

 今日のレッスンで「両手の親指が疲れて痛い」と言うお話を大人の生徒さんから伺いました。必要以上に指に力が入りすぎているのが原因だと思われます。
弓を持つ右手、弦を押さえる左手共に、親指がその他の4本の指と「反作用=逆方向への力」が必要です。ただ、弓にしてもネック=棹にしても、固い木で出来ていますから、必要以上の力が入ってしまいがちです。
 右手も左手も、①柔らかさと、②持続的な力と③瞬発的な力が必要です。

①掌と指の柔らかさ
日常生活の中で、何かを強く握ることは思い起こせます。
たとえば、ペットボトルの蓋を開ける時や、固い瓶詰めの蓋を開けようとするとき、タオルやぞうきんを強く絞る時などです。
 一方、意識的に弱く優しく、何かを壊さないように「包み込むように」持つことのっ方が少ない気がします。
シャボン玉を手でつかむことは、なかなかできません。柔らかすぎます。
軟式テニスのボールだと、強く握っても割れないイメージがあります。
ちょうど良いイメージの「柔らかさ=弱さ」のものは…と考えたら、
紙風船が思い浮かびました。手のひらで包み込めるくらいの小さな小さな紙風船。それを、そっと手で包み込む「イメージ」を両手の指に感じながら演奏してみると、生徒さんの音色が驚くほど、クリアでソフトになりました。

②持続的な力
指の力は「曲げる力」と「伸ばす力」の両方があります。
通常の生活では、前者の力ばかりを使います。指を開く力と握る力の「バランス」を考えてゆっくり動かすトレーニングが効果的です。
 必要なのは握力ではなく、「保持する力」です。これが②の力です。

③瞬発的な力
これも「内側への動き」「外側への動き」があります。
運動の前後に「脱力」する練習が必要です。言葉で能わすと「ぴくっ」と動くイメージです。その小さくて速い運動を、右手左手の1本ずつの指で練習します。
難しいのは、力を入れた後の、脱力までの時間を短くすることです。
指の動きを」軽く」することは、脱力した状態をベースにすることが必要不可欠です。

 柔らかいビブラート、八幡会ボウイング、素早く正確な左手指とポジションの移動、右手人差し指と親指の力のバランス、右手小指と親指での圧力の減衰。
それらすべては、抵抗のない状態で動かせることが大切です。
体幹=胴体で動きを支え、風になびく草木のように、しなやかで弾力のある動きのイメージで演奏したいと思っています。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

音を創る

 映像は、アザラシヴィリ作曲の「ノクターン」をヴィオラとピアノで演奏したものです。この曲、生徒さんがレッスン時に次の発表会で演奏してみたい曲は?という問いかけに応えてくれて初めて知りました。ヴァイオリンで演奏している動画は数多くありましたが、ヴィオラで演奏してみよう!といつもの(笑)パターン。
 浩子さんとピアノとヴィオラのアレンジを相談しながら仕上げた演奏です。何度か演奏させてもらいましたが、素敵なメロディーと奇をてらわない和声が大好きです。

 さて、今回のテーマ「音を創る」ですが、音楽を創る=作曲とは意味が違います。演奏者が自分で演奏する「音」をどうやって創造するのかと言うテーマです。
 作曲家によってつくられた楽譜を音楽にする時、ひとつひとつの音に演奏者の「想像力=創造力」が問われています。単に書かれた音符を楽器で演奏することではなく、どんな音色でどんな音量で演奏するのかを「考える=感じる」ことが演奏者の楽しみでもあり作曲家への敬意でもあると思います。
 動画は録音された音ですから、作成する過程でまた音作りが必要です。コンサート会場で響く音は、聴いている人の周囲に広がる「空間」から伝わるものです。スピーカーやヘッドフォンから聞こえる音とは根本的に違います。演奏する現場では、何よりもその会場の「空間」を意識します。音が吸収される会場=残響の少ない会場もあります。豊かな残響の会場もあります。それぞれの場所で聴いてくださる人が、心地よく
聴こえる音を創ります。
 演奏者の耳元で鳴っているヴァイオリンやヴィオラの音が、会場の空気に伝わって広がり、客席に届くまでに変化します。
 音量も音色も演奏者の感じている音とは別の「音」として徴収に伝わります。

 音色は、ひとつの音に含まれる「倍音」の量と、音の出る「仕組み」によって決まります。音叉の音は倍音を一切含んでいない「正弦波」です。ヴァイオリン、ヴィオラの音は弦をこすって出る「矩形破」です。ヴァイオリンの音は多くの倍音を含んでいます。その倍音の含まれ方によって「硬い」「柔らかい」「暖かい」など人間の感じ方が変わります。数値の問題より「感じ方」が問題なのです。
 一般に、駒の近くを演奏すると「硬い」音が出ます。原因は低温の成分が減少することで暖かみの少ない音に感じるからです。
 一方で、指板の近くを演奏すると「弱い」印象になります。フランスの音楽を演奏するときなどに、意図的にこの音色を使うことがありますが、高音・低音ともにほとんど倍音が含まれなくなり、か細い印象の音になります。
 倍音の量は音の高さ=ピッチでも変わります。ヴァイオリンの調弦は、無伴奏の時や弦楽器・管楽器のアンサンブルの時には「完全5度」を純正調の響き=振動数が2:3の音程で調弦します。
 ただ、ピアノと演奏する場合には平均律で調律されたピアノと、純正調で調弦したヴァイオリンのG線「解放弦」は、明らかに違う高さの音になってしまいます。どこまで?ピアノの調律に寄り添った調弦をするのかは、演奏する曲によって考えるべきです。
 そのように調弦した解放弦のピッチと、同じ高さで他の弦を演奏した時、当然解放弦が「共振」するのですが、実は他の弦も共振しています。むしろ、演奏した音の振動が、空気と楽器のコマを通して、他の弦を「振動させる=音を出す」ことにもなります。一本の弦を演奏しながら、他の弦を左手で軽く押さえて「ミュート」すると、明らかに音色が変わるのを実感できます。
 他の弦が一番、大きく振動するピッチで演奏したとします。
では、その音に「ビブラート」をすると?共振する→共振しない→共振する→共振しないを、ビブラートの速さで繰り返すことになります。すると新しい「音色」が誕生します。音色と言うよりも「音の高さ」が連続的に変化することで、倍音の多さも連続的に変化するのを、人間がひとつの音と「錯覚」することがこの現象です。
 テレビの映像は、一秒間に30コマの「静止画=写真」が連続して映し出されていることはご存知ですよね?あれは、人間の目の錯覚を利用したものです。一方で、実際に動いている「物」を見ているときには?人間の目と脳の処理速度は、最新のスーパーコンピューターより速いと言われています。つまり一秒間に30枚どころか、数千、数万の画像を処理していることになります。
 ビブラートの速さは、一秒間に数回程度の「波=ピッチの連続的な上下変化」です。聞き取れないはずはないのですが、ヴァイオリンは楽器そのものに「残響=余韻」があります。共振している弦の余韻も含めると、ビブラートをかけて演奏しているときに、複数の音が「和音」の状態になって響いているのは事実です。遅いビブラートでは和音にはなりません。「ビブラートの速さ<ヴァイオリン本体の余韻の長さ」で音は和音になります。

 弓の速度、弓の圧力でも音色、音量は変わります。
一定の速度と圧力で全弓を使って均一な音を出す練習は、ヴァイオリンの基本の「き」ですが、圧力を変えながら同時に速度も変えることで「均一な音」を出す練習は、さらに多くの練習時間を要します。これは、楽譜の「弓付け」に関わります。短い音で多くの弓を使いたい時、大きくしないで演奏する技術です。
 クレッシェンドやディミニュエンドでも同様に、圧力と速度の組み合わせは必要です。
 右手の人差し指と親指と小指が「てこの原理」で働くことで、弓の毛と弦の「摩擦=作用点」の力が変化します。小指を丸くして弓の木に乗せる演奏方法を久保田良作先生は厳しく指導されました。古典的な「持ち方」とも言えますが、理にかなった技術だと思っています。小指を伸ばした状態では、美妙な力のコントロールは困難です。

 長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。弦楽器奏者が音を出すときに、多くの関連する動きや知識を考えることが必要であることは、ご理解いただけたと思います。その上で「音楽」を創るのがヴァイオリニスト・ヴィオリストです。これからも頑張りましょう!

 ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

ヴァイオリンの練習は足し算

 映像は自宅で撮影した「ぷりん劇場」より、さとうきび畑をヴィオラとピアノで演奏したものです。アレンジが変わると音楽のイメージがこんなに変わるんですね。ピアノのアレンジが変わっても旋律は変わりません。でも、演奏の仕方は変わります。これも音楽の楽しさです。

 さて、今回のテーマは以前にも触れた練習時の「足し算」です。
生徒さんが新しい曲に挑戦する時、陥りやすい落とし穴でもあり、言い換えれば上達の近道でもあります。
 様々な練習方法があると思いますが、多くのヴァイオリン初心者のかたが、新しい楽譜を演奏できるようにしようと練習する時に、初めからヴァイオリンで演奏しようとする人が多いのが現実です。え?どういう意味?
 楽譜を見て、すぐに「音楽」に出来る能力・技術をすでに持っている人も、ごくまれにいらっしゃいます。例えば、ピアノの演奏に慣れている生徒さんの場合です。ピアノがなくても楽譜を頭の中で音楽にする「ソルフェージュ能力=読譜能力」がある人ですが、ほとんどの人はそうではありません。
 ここでは、ピアノをひけない人を前提にして書いていきます。

 まず、楽譜に書いてある音楽がすでに「音源」としてある場合とない場合で違います。プロの演奏をユーチューブで見つけても、速すぎて聞き取れない場合も良くあります。自分が演奏できそうな速さで演奏している動画を見つけても、自分と同じ程度の「アマチュア」で参考に出来ない場合もあります。
 少なくとも、楽譜に書いてある「音の高さ」と「音の長さ=リズム」を正確に演奏している音源なのか?違うのか?がわからないのが当たり前です。ですから、初めは習っている先生に、動画やCDを紹介してもらうのがベストです。
楽譜のタイトルの音楽でも、全く違う楽譜で演奏しているケースの方が圧倒的に多いのです。まずは「音源探し」から足し算の始まりです。

 音源を見つけたら、その演奏を楽譜を追いかけながら「聴く」練習をします。
音楽と楽譜が一致するまで、何度も聴いている間に、音楽を覚えられるはずです。楽譜のある個所が、どんな音楽だったか思い出せるようになるまで音楽を聴くこと。これが演奏できるようになる「第1段階」です。この練習に楽器は必要ありません。むしろ、ヴァイオリンは使わないほうが良いのです。

 次に楽譜を音名「ドレミ」で歌えるようにします。出来ることなら、カタカナで書き込まずに、少しでも速く読めるように自分を追い込みながら、ひたすら音楽と音名を一致させる練習をします。覚えた音楽の「歌詞」のように、ドレミで歌えるようにすることが、ヴァイオリン演奏の「第2段階」です。まだヴァイオリンは、いりません。

 次に、その楽譜の一音ずつの「弦と指=押さえて弾く場所」を考えます。
ヴァイオリンの為の楽譜の場合、ダウン・アップの記号の他に、ところどころに指番号が書いてあるものもあります。多くの場合は、すべての音符には、書いてありません。それが初心者用であれ、演奏会でプロが使用する楽譜であれ同じです。つまり、どの弦のどこを、何の指で押さえるのか?を自分で理解しなければ演奏できません。この段階で、楽譜を演奏するための「知識」が足りなければ、指の番号、弦の種類が自分でわからないことになります。ピアノと違い、ヴァイオリンはどこが「ド」なのか目で見てもわからない楽器だからです。
 この段階で躓いて、ヴァイオリンの演奏に終止符を打ってしまう人が多いのが現実です。せめて、開放弦で出せる音が、楽譜でどこになるのか?を理解し、そこから左手の4本の指で順番に音が「高くなる」ことくらいは、最低限覚えないとヴァイオリンで楽譜を音にすることは不可能です。
 要するに①「音楽を覚える」②「音名を覚える」③「指使いを理解する」足し算が必要なのです。ここでヴァイオリンを使うと、とんでもなく汚い音でヴァイオリンを「音探しの道具」に使ってしまいます。これが危険な落とし穴です。汚い音=右手を意識しないで演奏する悪い習慣をつけてしまいます。まず、頭で理解することが先決です。

 ここまで理解出来たら、弓を使って実際に音を出します。
当然のことですが、左手の「指」と右手の「弓」は、別の運動です。
それを一致させる方法は?
 ピアノの右手・左手と、ヴァイオリンのそれは、根本から意味が違います。
ピアノの場合、両手共に音を出す役割ですが、ヴァイオリンの場合は音を出せるのは右手=弓、左手は音の高さを変えるだけの役割なのです。分離して片手ずつ練習できるのは、ピアノだけです。ヴァイオリンでは、左手で押さえた場所が、本当にあっているのか?ずれているのか?は右手を使わなければ確かめられません。弓を遣わずに「ピチカート」で練習する方法もあります。地味な練習ですが、ダウン・アップがわからない時や、弓がまっすぐ動かせないという場合には、この練習方法が大いに役立ちます。
 いずれにしても、右手と左手の「同期=リンク」のためには、自分が演奏する「音」を頭でイメージできなければ、それぞれ独立した運動になってしまいます。つまり「足し算」ではなく、交互に「左手」「右手」を意識して、いつまでたっても同期しない苦痛が続きます。
 整理すると、①「音楽を覚える」②「音名を覚える」③「指使いを理解する」④「弓を使って音を出す」という足し算です。

 この練習をする間に、いつの間にか「新しい事をしようとすると、前のことができなくなっている」事に気づきます。
 音名を覚えようとしたら、音楽を忘れたり。
 指番号を考えていたら、音名が出てこなかったり。
 弓を使って演奏しようとしたら、音楽も音名も指番号も忘れたり(涙)
それが普通です。それだけ足し算は難しいのです。
もちろん、言うまでもなく一番大切なのは①の音楽です。
音楽を忘れて演奏することは、意味のわからない言葉を話しているのと同じです。常に、①に立ち戻り、音楽を繰り返し聴くことが大切です。
 最終的に、頭の中で音楽・音名・指・弓が「ひとつのイメージ」になるまで、繰り返すのが練習です。ここまで行けば、途中で間違えても、絶対に先に進めます。逆に言えば、どれか一つでも「引き算」をしてしまうと、アクシデントに対応できないだけでなく、それ以上に上達する「足し算」ができなくなります。
音色や音量、ビブラートなどもっともっと、足し算することがあります。
それがヴァイオリンと言う楽器です。
 めげないで!頑張りましょう!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

ヴァイオリン演奏と力

 動画は、ヴァイオリンの演奏とは一見、無関係のように感じますが、楽器を演奏することは「運動」を伴う事なので、とても参考になる動画です。
動画の中で「意識」と「無意識」という言葉が良く出てきます。

 ヴァイオリンを演奏する時に、私たちが必要とする運動を意識したり、無意識だったりします。指の動き手首の動き、肘の動き、肩の動き、首の動き、胸の筋肉の動き、背中の肩甲骨や筋肉の動き、前後のバランスを保つ腹筋と背筋、腰の周りの力、股関節に入れる力、膝の関節の曲げ伸ばし、足の裏の感覚。
これらは「無意識」の中でも何かしらの「仕事」をしています。

 自分の出したい音色や音量、ポジション移動やビブラートを練習する時、自分の身体なのに、「思ったように動かせないこと」があります。
音楽的な「力」を考えると、アクセントやスフォルツァード、フォルテピアノなどのように「瞬間的な力」を感じる場面と、クレッシェンドティミニュエンドのように「徐々に」力が増えたり減ったりする場面があります。
発音の瞬間のアタック、急激に弓をとめる運動、ダウンからアップ・アップからダウンに代わる瞬間の運動など、音楽で力を度外視できません。
演奏家の多くが「運動音痴」です。幼い時から手や腕にケガをすることを避けて、球技に縁のない人が多いのも現実です。武道にはもっと無縁です。
ヴァイオリニストの五嶋龍さんは、幼いころから空手を習い黒帯だそうですが、彼の演奏姿勢にはその「気」を感じることがあります。

 ヴァイオリンを演奏する時、どうしても「指」と「手首」と「腕」に気持ちが集中してしまいます。当たり前ですが、指は手のひらに、手のひらは手首に…とすべての部位が「連携」しています。足の裏から頭のてっぺんまで、どこも「離れていない」のです。ヴァイオリンと弓という「道具」を自分の身体のどこかで支えたり、動かしたり、力を加えたりします。言い換えれば、楽器と弓だけが「体から離せる」存在です。楽器や弓は人間の力がなければ、動くことも音を出すこともできません。
 自分の身体の「延長線上」に楽器と弓があります。

 ヴァイオリンを演奏するために必要な「力」は、常に「ヴァイオリンの内側」に向かってかかる力です。
 弦を押さえる左手の指の力は「ネックの中心」に向かう力です。その力の反対方向の力=支える力を、左手の親指・鎖骨・顎の骨と表皮で作ります。この「上方向」への力は、左腕を持ち上げるところから始まっています。
 左手を、ファーストポジションの位置に持っていくとき、
手前から手を伸ばしがちですが、腕を支えるのが「肩の筋肉」だけになりがちです。自然に腕を伸ばした状態で、肩を動かさずに左腕を「振り子」のように前方に持っていくことで、腕全体を背中と胸の筋肉が支えてくれます。
 ヴァイオリンを無理に持ち上げようとする力も有害です。
鎖骨に楽器を乗せる。首の皮と顎の骨を、楽器の上から「下ろす」ことで楽器は保持できるはずです。
 左肩の位置を決定するために、胸の筋肉と背中の筋肉が、どちらにも無理のない位置を探すことが大切です。前に出しすぎれば、背中の筋肉が必要以上に固くなります。肩が後ろすぎると、胸筋が伸び切り背中にも無駄な力が生まれます。ちょうどいい位置に「肩を落とす」ことです。

 右腕を上げる時にも、首の筋肉に力を入れずに、右手のこぶしが「おへそ」の前に来る辺りで止めます。右肘を「前・上方向」に動かせば、演奏する時の右ひじの位置を理解することができます。肘の高さ=体からの距離は、演奏する弦によって変わるものです。弓の元で、右ひじを上げることで「元弓のつぶれた音」を出さなくてよくなります。アップで元に近づくにつれ「窮屈な音」が出ている人は、ぜひ右ひじを「斜め後ろ・上方向」に引き上げてみてください。この時に首の筋肉に力をいれないことです。肩の関節を頭の方向に引き寄せてしまうと、肩が上がって自由がきかなくなります。「肩を下げたまま、腕を上げる」感覚を覚えることです。

 弦を弓に押し付ける「力」は、弓の重さと右手の「親指と人差し指」の逆方向への力で生まれます。親指を「上」へ、人差し指を「下」へ。この力を指だけで作る場合と、「前腕の回転=反時計回り方向へのひねり」で作る場合があります。指の力は瞬間的な運動に適しています。腕の回転運動は「大きな力の持続」に適しています。このふたつの運動で、弓の毛を弦に押し付ける力を生みます。

 腹筋と太もも、膝の関節について書きます。
女性の場合、ロングドレスで脚の開きや、膝の曲がりは見えません。男性の場合どうしても「足元を見られる」ことになります。見た目はどうでも良いのです。
パールマン大先生以外のヴァイオリニストは、足の裏ですべての「重さ」を受け止めます。女性の「ヒール」に関しては、未経験なので書けません。ごめんなさい。男性でも、少しヒールの高い靴の場合、重心が前よりになることを感じます。足の裏、全体に重さを分散し、強く「地面に押し付ける」イメージで立つことをお勧めします。膝の関節を伸ばしきると、脚は「硬い1本の棒」になってしまいます。上半身の上下・左右の運動を吸収できるのは「膝」なのです。。
太ももに力を入れ、腰を安定させて且つ「回転運動」が出来る柔軟さを持つことで、上半身の「回転方向の力」を吸収することができます。
「回転なんてしてない」と思うのですが、右腕を大きく、速く運動させる場合に、体を「ひねる」力が生まれます。前後・左右の運動が組み合わされると「回転運動」が生まれることになるからです。太ももと腰で、上半身を支えるイメージです。

 自分の身体の筋肉を「無意識」に「合理的に」使って演奏するために、一番楽な姿勢から、どうすれば「大きな力の速い運動」ができるのか?を意識して練習することが大切ですね。筋肉が疲れる演奏方法は、どこか間違っている場合がほとんどです。「思い込み」を捨てるために、常に初心に戻り、初めてヴァイオリンを構え、初めて弓を持ち、初めて音を出す「イメージ」で練習することも必要です。初心者のレッスンをしていると、いつも自分ができていないこと、忘れていることを教えられます。「初心忘るべからず」ですね。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介


身体の柔らかさ

 今日もレッスンで生徒さんたちが直面している「壁」を一緒に考えました。
必要以上の力が無意識に右手や左手に入ってしまう現象。
力を入れることは日常生活でも良くありますが、力を抜くことを意識することはあまりません。
 重たいものを持ち上げる時、固い瓶の蓋を開ける時など、力を入れる場面は思い浮かびます。また、驚いた時や危険を感じた瞬間に、無意識に体に力が入る経験をしたことのある人も多いと思います。身を守る「本能」があことを感じます。
 子供の頃、握力測定や背筋力の「体力測定」をした記憶がります。
筋力を増やすトレーニングは、多くのスポーツで必要になります

 ヴァイオリンを演奏する時にも、必要な力がありますが、必要以上の力は演奏の邪魔になるばかりではなく、練習疲労が強くなってしまいます。
・必要な最低限の力を見極めること。
・脱力した状態から瞬間的に力をいれ、すぐに脱力できること。
この二つを練習する方法を考えます。

 一番脱力できる姿勢は?
横になって寝ることです。簡単です(笑)
仰向けに寝転がったままで、両腕を持ち上げていると疲れますよね?
それが「腕の重さ」です。ヴァイオリンを弾いている時に、腕の重さを感じますか?ヴァイオリンが重く感じるのとは別です。本来、腕の重みを感じるはずです。
 腕を前方に持ち上げる筋肉は、腕の筋肉よりも背中と首周りの筋肉です。
つまり、背中と首に力を入れすぎると、腕の重さを感じなくなってしまいます。
楽器を持たずに、演奏する構えだけをしていると、腕が疲れてくることを感じるはずです。
 瞬間的に力を入れる練習は、脱力した状態で筋肉を観察し、一瞬だけその筋肉に力を入れ、すぐに脱力する練習を繰り返してみます。

いわゆる「ぴくっ」と筋肉が動く感覚です。じんわり、力が入っていくのとは違います。

 握力とは「握る力」です。弓を持つ、弦を押さえる時に必要な握力は、実はほんの少しの力です。実際、幼稚園児の力でも演奏できるのですから。
 必要以上の力を入れて弦を押さえても、音の大きさはもちろん、音色も変わりません。必要最小限の力を見極める方法は…
・右手=弓は出来るだけ「全弓」を使って大きな音で弾き続ける。
・左手親指を、ネック=棹の下側に入れ、指の腹で楽器を軽く持ち上げて開放弦=0で弾きます。
・左手の指を、弦に皮が触れるか?触れないか?の弱さで触りながら弾く・
・当然、音がかすれます。かすれた高い音が出る「弱さ」で触ります。
・弓をしっかり動かしながら、左手の指を少しずつ!指板に押し付けていきます。(一気に押さえては無意味です)
・左指の触っている場所の「音」が出始める「押さえ方」が最小限の力です。
・その力と「同じ力」で左親指を「上方向」に加えます。
 左手親指の役割は、弦を押さえる力を刺さることです。
左手人差し指の付け根と、親指で強くはさみすぎる人が多いので、
わざと指をネックの舌に入れ、人差し指の付け根で「はさまない」で練習してみることをお勧めします。
上記が「左手の最小限の力」です。

左手の指先を、弦に「落とす」または「軽く叩きつける」練習も重要です。
これも、じんわり握るのではなく、指の重さを利用して弦に落としたら、すぐに力を抜く練習を繰り返します。慣れてくると、弦に指が当たる音が聞こえるようになります。

 右手の力は、左手に比べとても多種多様です。
一番、気を付けるのは「背中と首の力を抜く」ことです。
肩を「ぎりぎりまで下げたままで弾く」ために、背中と首の力を抜くことが最もわかりやすい方法です。

 右腕を「前へ倣え」のように前に伸ばしても、右肩は上がっていないことを確認してみるのも一つの方法です。
 弓を動かしながら、常に「背中」「首」「肩」と言葉に出してみるのも練習方法のひとつです。力は瞬間的に入ってしまうので、この3つを言い終わらないうちに、最初の部位に力が入っていることがわかるはずです。
 右手の親指。弾いていいると隠れて見えません。
親指が「爪側に反る」のは間違いです。「手のひら側に曲げる」のが正解です。
弓を強く「握る癖」がある人は、まず弓を右手の「手のひらで包み込んで」やさしく持ってみてください。弓の先は弾けませんが、中央部分でならば音をだせます。優しく、力を入れずに持っても「いい音が出る」ことを体で覚えるまで繰り返します。
 右手の手首に、力が入りすぎる癖のある人もたくさんいます。っ上記のように「包み込んだ持ち方」で、「手の甲」が「弓の毛と平行」な傾きになっていることを確かめてみてください。
 G戦を弾くときは、右手の甲は天井に向いているはずです。
D線、A線・E戦と弓が「垂直に近づく」と手の甲が、だんだん右外側方向を向くことになるはずです。
 悪い例は、右手の甲が「自分の方を向いている=手のひらが前を向いている」状態で弾くことです。逆に、鎌首のように手首が「上がりすぎ」も良くありません。これらは「弓の中央部分」の話です。

 弓の重さだけでも、弓を動かせば音は出ます。右腕の重さを、
肘→手首→人差し指に伝え、親指でその反対方向の力を弓に加えます。
この力は「圧力」です。弓を「握りしめる力」は圧力になりません。無駄な力になって、手首や肘の自由を奪ってしまいます。握らず、親指と人差し指の「必要な力」を見つけることが大切です。

 最後に、私たちにかかっている「重力」を考えてください。
常に上から下にかかっています。楽器にも弓にも、腕にもその「重さ」があり、それをうまく利用して演奏することが大切です。
 自然にまっすぐ立った時、両腕を体の側面に沿わせて下げ、肩を極限まで下げるだけでも、自分の立ち方の「基本」が理解できます。
 楽器を構えて、弓を弦に乗せても腕の重さは変わりません。
「重さ」を感じながら、弓の毛と弦の「摩擦」を「指」で感じること。
左手で弦を押さえる力が「50グラム」なら、親指の上方向への力も「50グラム」で良いのです。楽器の重さと、弓の圧力は、鎖骨と耳の下の顎関節の骨で支えられます。

 長くなりましたが、弾いていてどこかの筋肉「だけ」が疲れたら、その場所に無意識に力がはいっていることが原因かもしれません。
疲れないように、良い音が出るように、寝ながら弾いている「つもり」で楽器を弾いてみて下さい。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介
 

右手と左手の分離

今回のテーマは、ヴァイオリンを演奏する時に必要になる、目に見えない壁「体を別々に動かす難しさ」です。
ピアノの場合に、左右の指、合計10本を「独立して」運動させる技術が必要「だと思います」←推測にしたのは、自分ではできないので(笑)
ヴァイオリンやビオラ、チェロ、コントラバスの場合には、右手が弓で音を出し、左手が音の高さを変える役割がほとんどです。「ほとんど」と書いたのは、右手の運動で、弦を変えれば音の高さを変えることが出来たり、左手の指で弦をはじく(ピチカート楽譜上では+の記号が付いています)奏法があるので、すべてでは無いという意味です。
その全く違う役割の右手と左手の運動を、同時に、別の運動としてコントロールすることが「左右の独立=分離」です。

人間は同時にいくつもの運動を行うときに、実は同時には運動の指示を出していません。というよりも、指示を出している(考えている)意識がありません。
自動車の運転をするときに、ハンドル・アクセル・ブレーキの操作や、ウインカーの操作などの「運動」を同時に行いながら、目では道路の状況や標識を「見て」います。つまり、意識としては「視覚」からの情報に、手と足を「意識せずに」動かすことが出来るのです。教習所で、ハンドル操作とアクセル、クラッチの操作がうまくかみ合わなかった経験はありませんか?
ひとつの運動に集中すると、その他の運動を意識することはできません。
右手の動きに意識を集中している時に、左手への意識は「無意識」になります。
その逆もあります。無意識の状態で、意識して動かしたときの運動を再現できるのは「学習=反復」しかありません。回数が少なければ、自分の思った動きとは無関係に「暴走」するのが人間が運動する「宿命」です。
繰り返し、ひとつの運動に集中し、考えなくてもその運動が再現できるまで繰り返すことを積み重ねれば、右手と左手は分離できるのです。

コンピューターの世界で考えると、「マルチタスク」という言葉が使われます。
同時に複数の違った「計算」を行うことを指します。この性能が悪いと、たとえば動画を見ながら、同時に何か違うソフトで仕事をすると、動画が突然止まったりすることになります。機械の場合には「処理速度」と「処理する機械の多さ」さらに「記憶する容量」が性能を決定します。
人間の脳は、現代のスーパーコンピューター以上の能力を持っています。
ただ、使い方がマニュアルになっていません(笑)マニュアルになったとしても、恐らく広辞苑の何百冊分の量になると思います。
私たちは「無意識」に行動できます。機械は命令する信号がなければ、自分で何かをすることはありません。機械の暴走は、故障によって勝手に誤った「信号」が出てしまうことを指します。人間は考えなくても運動できる能力を持っています。この能力を最大限に活かすトレーニングを繰り返すことで、「何かに集中していても、ほかの運動ができる」能力を身に着けられます。
① 運動のひとつひとつを意識する時には、ほかの運動は行わない。
② さらにほかの運動を意識する練習の初めは、その運動にだけ集中する。
③ 次にこの二つの運動を同時に行い、どちらか一方に集中しても、もう一つの運動がきちんと行われているかを「時々意識して」確認する。
この繰り返しで、複数の運動を同時に「無意識に正確に」行えるようになりますが、それでも常に違う運動をこまめに「意識」することが最大のチェックポイントになります。
間違っても、最初から複数の運動を同時に行わないことです。
楽譜に集中しながら、右手の運動に集中することは不可能です。
順番に。焦らずに。ひとつずつ積み重ねる。できたと思っても、何度もこの作業を繰り返す。
さぁ!頑張って、欲張らずに練習しましょう!←これ、自分に言い聞かせています。

CPU性能が悪すぎるヴァイオリニスト 野村謙介