昨日、サントリーホールで行われたヴァイオリニスト「マキシムヴェンゲロフ」のコンサートに行ってきました。モーツァルトの協奏曲第4番と第5番、後半はチャイコフスキーの憂鬱なセレナーデ、懐かしい土地の思い出、ハバネラ、序奏とロンド・カプリチオーソ、アンコールとしてハンガリー舞曲の第1番。ポーランド室内合奏団の伴奏で指揮もヴェンゲーロフでした。
1974年当時のソビエト生まれのヴェンゲロフ。初めて生で演奏を聞きました。
どんなソリストもみんなすごい技術を持っていると本心で思います。
誰が一番上手か?なんて全く無意味な議論です。
演奏する本人にとって「何が一番大切か?ということが重要なのです。
あるソリストは、レパートリーの豊富さを目指し、
また違うソリストは速く、正確に機械のように間違わない演奏を目指し、
ある人は、他のソリストがしない演奏を目指し。
聴く私達にとって、どれが一番?という順位をつける必要はないのです。
自分の好きな演奏を、ただ「好き」と思う純粋な気持ちで音楽を聞けばよいのです。
評論家はさも演奏家のことを知り尽くしているかのように言葉を並べます。
そして、聞く人の代表のように勘違いしている評論家も多いのが現状です。
人それぞれ、にんな好みが違うのが当たり前なのです。
音楽を楽しむときに、知識はいらないのです。
昨日、ボクは自分の好きな音楽に出会いました。
一人のヴァイオリニストとして憧れもしました。なによりも、ヴェンゲロフの「音」が好きなのです。どこが?と聞かれれば言葉を選ぶでしょうが、意味は無いのです。
自分の演奏も含め、たくさんのヴァイオリンの音色を聞いている中で、今一番好きなヴァイオリンの音色を聞いた一日でした。CDやテレビで彼の演奏を聴いたり見たりするのも楽しいですが、サントリーホールの柔らかく滑らかで長い余韻を持った空間に、立体的に響いたヴェンゲロフの音色は別物です。みなさんもぜひ、時には先入観を捨ててコンサート会場で音楽を楽しんでみてください。つまらない、好きじゃないと思う演奏なら、素直にそう思えば良いのです。みんなが拍手しているから素晴らしいと思う必要はありません。基準は「自分」で良いのです。
雨の日の移動
相模原は昨晩から雨です。今朝、いつものように楽器を持って駅前教室にバスで来ました。
自家用車で移動する人には、雨が降っても楽器がぬれる心配は殆ど無いのですが、
どうしても傘でかばいきれないケースの「雨対策」について。
一般にヴァイオリンケースはケース表面が布地です。どんなに撥水加工してあったとしても、
ファスナー部分から雨水がケース内部に浸透してしまいます。
ケースの持ち手側から、すっぽりとビニールのカッパのようなカバーを掛ける方法があります。
ただ、このカバーの難点は背負って持てなくなることです。
傘を片手に持っているので、できればもう一方の手は開けたいですよね。
そこが辛いところです。
ヴァイオリンケースでもカーボンや樹脂製のケースも増えてきました。
ただし、これらのケースにしてもいわゆる「防水」ではないので気をつけてください。
私が自分でヴァイオリンケースを設計した時に、製作メーカーが多くのケースの耐水検査をしました。もちろん、中には楽器をいれず、ホースで直接水をかけるという過酷なテストでした。
その結果、ほぼすべてのケースが内部に水漏れしました。それらの中で当時最も水の侵入が少なかったのはフランスのバムのケースでした。現在はまた違うかもしれません。
究極のヴァイオリンケースを作る夢は未だに持っていますが、たくさん売れるものでもなく、
価格も市販のケースよりずっと高くなるため、なかなかメーカーが見つからないのが現状です。
この夢のケースができるまで、雨対策、工夫しましょう。
無料点検のお知らせ
季節も移り変わり、梅雨が始まりそうです。
楽器にとって湿気と温度の変化は、私達が感じる以上に辛く、厳しいのです。
特に日本の梅雨時は高温多湿の日が続くため、大きなストレスになります。
弦楽器のほとんどの部分は、良い楽器であればあるほど長い年月、自然乾燥させた
松の木や楓の木を使って作られています。その白木の木材の表面に、楽器を保護し、美しく輝かせ、音色を柔らかくするために「何重にもニスを重ねて塗ってあります。
それらの木やニスは高温で多湿になると、柔らかくなり水分を吸収します。
楽器の木材に水分が増えれば、振動しにくくなり、こもった音になります。
日本で生活する以上、梅雨は避けられません。いかに、この既設を乗り越えるかが、弦楽器奏者の経験と技術を問われる部分でもあります。
多くのアマチュアヴァイオリニストの生徒さんが、楽器を毎日練習することは不可能に近いことを考えると、楽器のメンテナンスに皆さんの貴重なお休みの日をあてていただけることを、みなさんの楽器に代わってお願いします。言葉を話せない楽器だからこそ、みなさんのちょっとした心遣いで元気にもなり、病気にもなるのが「楽器」なのです。大きな手術をしなくてはいけない状態になる前に、ぜひ、私達専門家に健康診断をさせてください。点検は無料。交換や修理の必要なものも、できるだけ安価に済むように相談しながら大切な楽器を健康に保ってあげたいと思います。
お問い合せやお申し込みはお電話042-771-5649または、メールoffice@merry649.comまでお気軽にご連絡ください。
どんなヴァイオリンが名器?
先日、放送されたテレビ番組でストラディヴァリの楽器についていろいろな研究者や演奏者の考えが述べられていました。
僕は一人の演奏者としての立場と、アマチュアに多くの楽器を斡旋し販売する立場の両面から、楽器についての考えがあります。
楽器は演奏者の技術によって音色が決まる。
過去も現代も「一流」と言われている演奏者の音色は、どれも素晴らしいものです。人間一人ずつ、好きな音色の好みは違います。生まれついての一流演奏者は存在しません。師匠であったり憧れであったりする演奏者の音色を目標にし、その音と自分の出す音を比較しながら理想の音色を模索し日々努力を重ね、努力が実を結んで「運」に恵まれた人が一流と呼ばれる演奏者になるものです。
つまり「一流の演奏者の音色」を常に目標にしてみんなが練習していると言えるのです。その人たちの音色が「基準」となっているとも言えます。
その人たちの多くが使ってきた楽器が「ストラディヴァリ」であり、その音色が「一流の音色」と定義されてきた歴史があるのです。
では、ストラディヴァリの音色だけがヴァイオリンの音色かと言われれば、答えは「No」です。それぞれ、全ての楽器に固有の音色があります。人間、一人ずつの声が違うのと同じ理由です。どんなに優れた製作者の楽器でも、全く同じ音色の楽器はありません。それを演奏する人間が変われば、音色も変わります。ですから、演奏する私だちが常に楽器の音色を受け入れ、その上で自分の理想とする音色を探し求めていくことが不可欠だと思うのです。
良い楽器とは、誰かが演奏した音色を真似できる楽器ではなく、
演奏者が出会った楽器に命を吹き込んだ楽器だと思います。
楽器を作った職人の思いを感じることが大切だと思います。
私の使っているヴァイオリンを作った人にはあったことがありません。
ヴィオラを作った人、陳昌鉉さんとはこのヴィオラについてたくさん会話をし、一緒に音色を楽しみました。
楽器の音色を自分が決めていることを演奏者がもっと自覚することが必要だと思います。技術は速く弾くだけでもなく、大きな音を出すだけでもなく、間違えないだけでもない「演奏者の思い」を表現することです。
高い楽器が良い楽器ではありません。
いつかストラディヴァリというヴァイオリンそのものが、世の中からなくなることは間違いないことなのです。その時に、良いヴァイオリンがなくなるのではないのです。