映像はヴィオラとピアノで演奏したアザラシヴィリ作曲のノクターン。4年前の代々木上原ムジカーザでの演奏動画です。
これまでにも演奏の練尾について色々な考察をしてきました。
ヴァイオリン、ヴィオラで演奏される「音色」は演奏者によっても楽器個体によっても異なります。演奏者の技術によって音色が決まると言っても過言ではありません。同じ個体の楽器を違う演奏者が演奏すれば違う音色になります。一方で演奏者が違う個体のヴァイオリン、ヴィオラを演奏したときの「違い」は演奏者の違い程に大きなものではないと思います。ストラディバリウスを新作のヴァイオリンに持ち替えて演奏しても聴いている人が気付かなかったという実話を知っています。思い込みで新作のヴァイオリンの音がストラディバリウスだと信じ込み「やっぱりストラディバリウスはいいですねぇ!」と感動しながら話しかけてきた人に思わず笑ったと言うお話です。
楽器を操るのが演奏者です。演奏技術た高いほど「自分の好きな音色」を出せます。初心者の場合、楽器をコントロールする技術が足りないために「楽器固有の音」を自分好みの音に変えることができません。その意味で初心者ほど楽器に依存する面が大きくなります。
音色を「作る」技術には何が必要でしょうか?
まず「微妙は違いを感じる耳」です。
音の高さ・強さと比べて音色の違いは数値化出来ない話は以前にもブログで書きました。誰かの演奏を聴いて同じ音色を再現することは極めて難しいことです。一つの原因は「楽器の場所」が全く違うからです。演奏している時の耳元で鳴っている音と、何メートルも離れ空間に広がり反響音も聴くのとで「同じ音」でもまったく違って聴こえます。もう一つの理由は「力=身体の使い方」は他人が感じられないからです。自分自身の身体でさえ今、身体のどこに?どの向きで?どのくらいの時間?どのくらいの力をかけているか?を瞬間的に判断できません。同じ音色が出るまで繰り返す間に、指・関節・筋肉をどう?使っているのか観察し続けて初めて同じ音色を再現できるようになります。
似たように聴こえる音色でも集中して聴くと倍音の含まれ方が違うことに気付き身体の使い方を変えることで修正が可能です。
自分の音色が他人にどう?聴こえているのかをリアルタイムに自分自身の耳で確かめることは不可能です。出来れば何人かの人の「印象=感想」を参考にするのが一番現実的です。聴く人によって聴こえ方が違い表す言葉も違います。同時に何人かの印象を聴くことでお客様にが感じる印象に近いものが得られます。リハーサルがそのチャンスです。自宅で練習する時であれば同じ種類のマイクとヘッドホンで録音したものを聴き比べるのも音色を確認するのには良い方法だと思います。思っているほど=演奏しながら自分の耳で聴いている時ほど、高音が少なくこもった印象に聴こえたり逆だったり。
音色を作る弓の使い方と弦の押さえ方・ビブラートの技術。
・弓への圧力と時間
弦に弓の毛をどの方向で銅の位の力で押さえるか?その力=圧力をどれだけ保持するか?
・弓を置く弦の場所
駒からの距離が短いほど高音が多い音色になります。
・弓の毛の量
弦に当たる毛の量は傾きと圧力で変えられます。毛の面と弦が平行になる傾きの時、最も強い圧力がかけられます。少ない毛の量で圧力を弱くすれば弦だけが振動し楽器本体の木を振動させない「細い音」が出せます。
・弓の速度
弦との摩擦=圧力と違い「運動の速さ」を速くすれば弦の振動を妨げず、遅くすれば弦の振動を押さえる働きがあります。音の高さによって弦の振動する速さが変わります。1本の弦で高い音=ハイポジションの場合、弦は速く振動します。弓の速度は毛の表面の凸凹と弦を「引っかく速さ」です。毛の凸凹が小さく・少なくなってしまった毛の場合、松脂で出来た凸凹だけが音を出すことになります。
・弦を押さえる指の場所
指の腹=肉球部分で押さえれば弦の振動を止め切らないので高音Gあ少なくこもた柔らかい音色になります。余韻はほとんどなくなります。指先の固い部分で弦を押さえれば逆に高音の多い明るい音になり余韻が長くなります。
・押さえる力の強さ
意図的に弱く押さえることで余韻を押さえた音色を作れます
・弦と指の角度=爪の向き
後述するビブラートとの関係で、真上から見た状態で弦に対して45度の角度で押さえるのが原則ですが、ビブラートの深さや速度によっては弦と平行に近い角度で指を置くと音色の変化量を増やせます。
・ビブラートの深さ
音の高さの変化量で大きく動かせば多くの種類の倍音を得られます。
浅くすれば=幅を狭くすれば一定の音色を保つことが出来ます。
・ビブラートの速さ
好みによりますが速すぎると異なった高さの倍音を消してしまい響きが窮屈な音色になります。遅すぎると倍音の余韻が消えてしま詩「波」にしか聴こえなくなります。
・ビブラートをかけ始めるタイミング
音の最初から深さ・速さを変えずにビブラートすれば短い音でもビブラートの効果が得られますが、一方で聴く人の耳に音の高さの印象が残りにくくなります。ノンビブラートの音を意図的に混在いさせることで音色の変化がフレーズの中に生まれます。
最後に「聴き方=楽器と耳の位置・首の力」の違いについて考えます。
音色の変化は聴き方によって感じやすくも逆に感じにくくもなります。まず楽器と耳の位置と距離が変われば音量も音色も変わって聴こえることです。表板に耳を近付ければ大きく聴こえます。耳を遠ざければ小さく聴こえます。実際に出ている音と関係なく「聴こえる」だけであり会場に聴こえる音の変化ではありません。常に一定の位置関係と距離で演奏すること=姿勢を保持することも音色の決定に不可欠な事だと思います。
また、構え方によって楽器の微妙な音色の変化に気付きにくい構え方もあると思います。首に無意識に強い力がかかっていると、高い音の聴力が下がります。突然大きな音がした時に反射的に肩が上がり、首をすくめる姿勢になるのは人間の防御反応です。首に力を入れ続けた姿勢は音色を聴き分けにくい姿勢だと言えます。
同様に息を止めた状態を続けると、徐々に筋肉が硬直し音への反応が鈍くなります。
大きい音のパッセージを連続して練習した直後には、一時的な難聴状態になっています。特に高音を強く弾き続けた後に高い音が鳴っているように感じるのは、やはり耳が防御反応している証です。
できればしばらく耳を休めてから集中して音が聴こえる状態になってから練習することをお勧めします。
音色に正解はありません。人の声が皆違うように演奏者によって好みの音色が違います。聴く人にも同じことが言えます。好きな歌手の声は理屈抜きに心地よいものです。
音楽によって、旋律や和声によって音色をコントロールするのは、会話や演劇の「台詞」に抑揚や声色を変えて読むことに似ています。
棒読みすれば、どんな素敵な文章や詩も感情のない「声」になります。音楽も同じです。楽譜には書かれていない「音にした時に感じる感情」を演奏者の考える音色で演奏することが、演奏者の個性につながると信じています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介