どこまでが「技術」どこからが「素質」

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 映像は韓国のソプラノ箇所「イ・ヘウォン」さんが歌う「あなたは(日本語訳)」です。私は彼女の歌う声と歌に大きな魅力を感じています。「ファン」の一人ですね。
 韓国では「アートポップ」という音楽のカテゴリーが確立されてクラシックの演奏家が歌う「ポピュラー=大衆的な音楽」が国民から支持されています。彼らの歌う曲を作詞・作曲する人も多く、作曲家本人もピアニストであったりします。
 まだ日本にはない音楽文化でもあります。恐らく日本ではクラシック声楽歌手がポピュラーを歌うのは「邪道」もしくは「現実逃避」と呼ばれても仕方のない状況です。元より日本での音楽産業は年々衰退しているように感じています。テレビ離れが最大の要因ではありますが「配信音楽」も一時期のような活気はありません。
 音楽を聴く方法が変化する中で「無料」で「手軽」に「大量の音楽」から好きな音楽を選べると言う、一見恵まれた環境なのに産業としての音楽は消滅の危機に直面しています。産業=ビジネスとして成立しない分野で働くことは無理です。日本に「アートポップ」が生まれる確率はほぼ「ゼロ」だと思います。空しいようないたたまれないような…仕方ないのかもしれません

 さて本題です。声楽に限った事ではありませんが「演奏の技術」と「演奏者の素質」について考えてみます。
 先に結論を言えば「素質と技術は比例する」と考えています。
ここで言う素質は「天才」と「凡人」を区別するものではありません。すべての人が生まれ持っている「DNA」と「後天的な影響」によって個人に備わった「個別の能力」を意味しています。
本人の努力で得られるものが「技術」だとすれば、努力しようと考える意志が「素質」です。
 自分の素質を言語化するのはとても難しいことです。多くの評価は「他人との比較」を基準にしがちです。他人より我慢強い・他人よりポジティブ・他人より…つまり絶対評価での素質や個性を表現することはあまりありません。
 しかし個性は「個人そのもの」ですから誰かと比較するまでもないことで「変えることのできない」存在です。経験や努力で変えられるもの素質ではありません。さらに付け加えるなら個人の素質は数値化できるものではありません。双子の場合を考えれば理解できます。一卵性双生児で同じ環境で育った人でも「性格」も「考え方」「好み」が異なります。得意な事も苦手な事も違います。

 冒頭の演奏を聴いた人でも「好きではない」と感じる人もいて当然です。聴く人にも個性があるのです。好みが「変わる」ことがあります。その意味では好みは後天的なことだと言えます。
 歌の場合には歌う人の声帯や骨格などで「地声」が決まります。その声を息の使い方や身体のコントロールで思った声に創ったものが「声楽家の歌声」になります。
 ヴァイオリニストの場合には、楽器と弓、弦で「地声」が決まります。それを演奏者の指や腕、筋肉の使い方で変化させて創った音が「ヴァイオリニストの音」になります。
 声楽家は自分の声帯や骨格を変えることはできません。ヴァイオリニストは楽器や弓を変えられます。ここには根本的な違いがあります。
 楽譜に書かれた音符を「音・声・音楽」にする際の技術と「細部へのこだわり」の違いも素質のひとつだと思います。こだわり=理想にどれだけ近付けるか?どこで妥協するか?の違いも素質です。安直に妥協する人もいれば「完璧」を目指す演奏家もいます。
演奏者のこだわりと「完成度」を他人が判断することは不可能です。多くの人が「完璧な演奏だ」と感じても演奏者本人にとっては不満だらけの演奏かも知れません。本人だけが感じることです。
映像の「あなたは」を違う歌手が歌っている演奏動画と比較した時に、細部=一音ごとの響き・歌い方のバリエーションがまったく違います。恐らく歌詞の意味と発音、旋律のライン、ピアノとの和声など複合的に最後は「感性」で変化させているのがイ・ヘウォンさんの演奏だと思います。
「結局はポピュラーだから」と思う方もいるかも知れませんが、ヘウォンさんはクラシックの歌手としての活動がベースにあります。韓国国内だけでなく、ヨーロッパでも高い評価を受けて多くのクラシックファンがいるクラシック声楽家でもあります。むしろ演奏=歌う曲によって歌い方を自由に変える技術があるからできることです。
 ダイヤモンドも原石のままでは「光る石」に過ぎません。石の個性を見極め高い技術を持った職人がカットし研磨することで初めて「ダイヤモンドの宝石」になります。
 すべての人の素質が違うのですから、技術もすべて違って当然です。目指す音楽も全員が違うのが自然です。人とは違う自分の素質を活かす技術を誰かに教わることは不可能です。自分で自分を削り・磨いて自分だけの輝きを創るのが技術だと考えています。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

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