映像はシェリングのロンド。私の世代だと「バッハ無伴奏と言えばシェリング」だったので(私だけ?)試験でバッハの無伴奏ソナタかパルティータを弾く前にシェリングのバッハ全曲集のレコードをカセットに録音してテープが伸びまで(笑)聴いていました。
今回のテーマはヴァイオリンを演奏する際に一音ごとの「発音」を考えるものです。
日本語は会話の殆どが「母音」か「子音&母音」で出来ています。小さい「っ」や小さい「や行」さらに「長音」の組み合わせで成り立っています。アクセントよりも「音」で意味が伝わる言葉が多いのも特徴です。例外として「あめ」などの場合「雨」と「飴」はアクセントの位置が違います。文字の場合はひらがなで「あめ」と書いてあった場合には、前後の文字から意味を探ります。
さてヴァイオリンで演奏する場合「スラーの二つ目以降の発音」と「スラーの最初の音や弓を返した時の発音」で子音の作り方が違います。
スラー=レガートで二つの音を演奏する場合、2音目は前の音の「続き」として切れ目なく音の高さを変えることになります。通常であればレガートは「弓を止めないで演奏する」ことを指します。2音目で「移弦」した場合でも2音目の「発音=子音」は弓を返したときの発音と違い「アタックを付けない」事が一般的なレガートになります。
分かりにくいので「スラーではない場合」つまり一音ずつのアタック=子音を付ける倍を考えてみます。言葉で言うと「ぱぴぷぺぽ」と言う言葉を発音する時に「P」の部分、声を出す前に唇を閉じた状態から開く瞬間の音と母音を使って「ぱ」と発音します。「P」を「B」や「V」にすると「ば」「ヴァ」に変わります。
子音として「K」「G」「S」「Z」「T」「D」「N」「H」「P」「V」「M」「Y」「R」[W」が日本語の発音に使われます。
それぞれに発音の仕方があることを私たちは余り意識せずに会話しています。例ええば「はは」「ぱぱ」「ばば」と言う時に、唇をどうすると…なんて考えずに発音していますよね。
ヴァイオリンでは?「ドレミ」と言う音名で歌う時には、それぞれの子音と母音を使って歌えます。歌詞が「ア」だけの歌「ヴォカリーズ」を演奏する時に音の変わり目にアタックが付けば「ア」ではなく「タ」とか「パ」になり、強いアタックが付けば「ダ」や「バ」、もっと深く重たいアタックなら「ガ」になります。意図時にアタックを消し「無整音」を含めた発音を意識すれば「ハ」に聞こえる…
もちろん実際に「ハ」と聞こえるわけはありません。自分の言いたい「子音」の出し方を弓と左手の指を使ってコントロールします。
話が前後しますがスラーの2音目以降の場合には弓のアタックを付けられません。しかし左手の指の上げ下げ=離す・押さえる時の変化でクリアに音の変わり目を表すことも、わざと曖昧にすることもできます。
動画のシェリングの音をよく聞いてみると細かい音も少し長い音もフォルテ、ピアノに関わらず全体が「引っ掻けない=アタックの弱い」発音で演奏している事に気が付きます。
弓への圧力をかけたままで発音すれば「タタタタ」と言う音に聴こえますがシェリングの音は差し詰め「ララララ」か「ヤヤヤヤ」と言った音が多く聴こえます。
この曲のように短い音が連続する曲をヴァイオリンで演奏する時、一つ一つの音を明瞭に発音させて「角を付けた音」にする場合、弓の毛を弦に乗せた状態で圧力を加え動かす➡圧力を緩めずに次の音も同様に圧力をかけたままで発音することの繰り返しで「タタタタ」と言う言葉に聴こえる演奏することが一般的です。
分かりやすい例の動画です。
バッハ無伴奏ヴァイオリンパルティータ第3番プレリュード パールマンの演奏
同じ曲をもう一つ
二つ目の動画、アルトゥール・グリュミオーはピアノの部分になると圧力を弱めてアタックを付けない発音に変えています。
言うまでもないことですが二人とも「こだわり」があってこうしている事は間違いありません。偶然…とかなんとなく…と言う発音が一つも見つかりません。物凄い集中力です。感服します。
人間の言葉で音楽を表現できるのは「歌」だけです。ピアノもヴァイオリンも管楽器も打楽器も「言葉」を発することはできません。
私たちが日常生活で耳にする音=聴こえる音は様々ですが、人との会話だけは「意味」を聞き取ろうとしています。それほど「言葉」と言う音は特別なのです。楽器の音が聴こえた時に楽器の種類を考えるのは演奏家なら「当たり前」かも知れませんが、普通の人は「音楽」で終わるのだと思います。
聴く前から「ヴァイオリンとピアノ」と分かっている場合、例えばコンサート会場で聴く場合であれば、聴こえてくる音の中でピアノとヴァイオリンの「聴き分け」は恐らく多くの人が出来ると思います。しかし弦楽四重奏の場合なら、二人のヴァイオリン奏者の「聴き分け」をすることは非常に困難…むしろ不可能かもしれません。見ていれば分かりますし明らかに二人の音色や音量が違えば聴き分けられますがそれは特殊な場合です。
ヴァイオリンで発音を変えることで「意味」が生まれるわけではありません。どんな発音が正しいと言う正解もありません。
演奏する人の「個性」が一音ずつのアタックやアタックの後の「母音」に当たる音の音色を変えることで生まれます。
アタックのない「はひふへほ」も柔らかい発音の「まみむめも」、少し固いアタックの「た」「か」、破裂音に近い鋭い発音の「ば」「ぱ」など、ヴァイオリンの発音をコントロールすることで音楽に「色付け」をする楽しさがあります。ぜひ、自分のヴァイオリンの音を聴いて「子音」を考えてみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介
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