映像は、ドボルザーク作曲、クライスラー編曲の「スラブ舞曲第2番」です。
和音の定義は「二つ以上の異なった高さの音が同時に鳴った時の響き」です。
「ドミソ」や「ドファラ」のようにきれいに響く和音に限らず、半音違う高さの音が二つの音が鳴っていれば「和音」です。同時に発音しなくても=途中から重なって二つになっても、和音です。
言い方を変えれば、同じ高さの音がいくつなっていても、和音ではありません。
ヴァイオリンの演奏技法のひとつに、この和音を演奏する技法があります。
「重音」と言う言い方をすることがあるのですが、先述の通り「同じ高さの2音」を同時に演奏しても和音ではないので、ヴァイオリンの開放弦と同じ高さの音を「左側の弦」で、開放弦と一緒に演奏する場合「和音」ではなく「重音」と言うのがふさわしいのかな?と私は思っています。2本の弦で同じ高さの音を演奏すると、明らかに1本の時とは違った音色になります。
さらに厳密な事を言えば、1本の弦を演奏している時にでも、他の3本の弦が共振していますから、音量の差が大きいものの、常に「和音」を演奏している事にもなります。
さて、私も含め多くのヴァイオリンを練習する生徒さんがこの「重音」の演奏に苦労します。
ピアニストが同時に4つ、時には5つ以上の和音を連続して演奏する「超能力」は凡人のヴァイオリニスト・ヴィオリストにはありません。
たかが!二つの音を続けて演奏するだけなのに、どうして?難しいのでしょうか?ピアニスト、管楽器奏者、指揮者にも知って頂ければ、救われる気がします笑。
・弓の毛が常に2本の弦に、同じ圧力で「触れる」傾斜と圧力を維持すること。
・左手の指が「隣の弦」に触れないように押さえること。
・2つの音の高さを聴き分ける技術と、和音の響き=音程を判断する技術。
・連続した和音の「横=旋律」と「縦=和音の音程」を同時に判断する技術。
・ピアノの「和音」とヴァイオリンのピッチを合わせること。
・指使い=同時に弾く2本の弦の選択を考えること。
・重音でのビブラートを美しく響かせる技術。
その他にも、片方の弦を鳴らし続け、もう一方の弦を「断続的に弾く」場合など、さらに難しい技術が必要になる場合もあります。
特に私が難しいと感じるのは、2本の弦を同時に演奏したときの「和音の音色」が単音の時と、まったく違う音色になる「不安」です。
特に、一人で練習して「あっている」と思う音程=響きが、ピアノと一緒に演奏したときに「全然あっていない」と感じる落ち込み(涙)
生徒さんの「和音のピッチ」を修正する時にも、「上の音が高い」とか「下の音を下げて」とか笑。生徒さんにしても頭がこんがらがります。
初めて重音を演奏する生徒さんの多くが、弓を強く弦に押し付けて=圧力を必要以上にかけて、2本の弦を演奏しようとします。理由は簡単です。そうすれば、多少弓の傾斜が「ずれても」かろうじて2本の弦に弓の毛が触る=音が出るからです。弓の毛は柔らかいので、曲がります。特に、弓の中央部分に近い場所は、弓の毛の張り=テンションが弱いので、すぐに曲がります。ただ、この部分は弓の毛と、弓の棒=スティックの「隙間」が最も少ないのが正しく、無理に圧力をかけられません。初心者の多くが「弓の毛を張り過ぎる」原因が、ここにもあります。張れば張るほど、弓の持つ「機能=良さ」が失われることを忘れてはいけません。弓を押し付けなくても=小さな音量でも、重音をひき続けられる技術を練習することが必須です。
・弓を張り過ぎず、2本の弦を全弓で同じ音量で演奏する練習。
・調弦を正確にする技術。
・右隣の開放弦と左側の「1」の指で完全4度を演奏する。
・右側の開放弦と同じ高さ=完全一度の音を左側の弦で探す。
・左側の開放弦と右隣「3」の指でオクターブを見つける。
・左側の弦を2、右側の弦を1で完全4度を見つける。
・左側の弦を3、右側の弦を2で完全4度を見つける。
・右開放弦と左0→1→2→3→4の重音を演奏する。
・左開放弦と右0→1→2→3→4の重音を演奏する。
上記の練習方法は、音階で重音を練習する前の段階で、「重音に慣れる」ためにお勧めする練習方法です。
ご存知のように、1度・8度、4度・5度の音程は「完全系」と呼ばれる音程=音と音の距離です。
・空気の振動数が「1:1」なら同じ高さの音=完全1度です。
・空気の振動数が「1:2」なら1オクターブ=完全8度です。
・空気の振動数が「2:3」なら完全5度=調弦の音程です。
・空気の振動数が「3:4」なら完全4度です。
それ以外の2度、3度、6度、7度の音程に関しては、何よりも「ピアノと溶ける和音」を目指して練習することをお勧めします。
厳密に言えば、ピアノと完全に同じ高さの音で演奏し続けようとするのなら、調弦の段階で、A戦以外の開放弦は「ピアノに合わせる」ことをすすめます。
特にAから一番近い開放弦「G」の開放弦を、ヴァイオリンが「完全5度」で調弦すればピアノより「低くなる」のは当たり前なのです。
メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲第1楽章などで、全音符以上の長さで「G線の開放弦」を演奏する曲を、ピアノと一緒に演奏するのであれば、予め調弦の段階で、ピアノの「G」に合わせておくべきです。オーケストラと一緒に演奏するなら完全5度で調弦すべきです。
偉そうに(笑)書き連ねましたが、実際に重音を演奏するのがへたくそな私です。もとより、絶対音感のない私が、2つの音のどちらか一方の高さを「見失う」状態になれば、両方の音が両方とも!ずれてしまうことになります。
単音で演奏している時には、その他の弦の開放弦の「共振」を聴きながら音色でピッチを判断できますが、2本の弦を演奏すると音色が変わり、その共振も変わる=少なくなるために、より正確なピッチを見つけにくくなります。
ピアノと一緒に練習することで、少しずつ正確な「和音」に近付けるように、頑張って練習しましょう!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介