メリーミュージックブログ

演奏家夫婦が優しく丁寧に指導

TEL.042-782-1922

※原宿南教室〒252-0103
神奈川県相模原市緑区原宿南2-26-1

楽器の音「心理」と「科学的分析結果」

楽器の音「心理」と「科学的分析結果」

このエントリーをはてなブックマークに追加

動画のリンクをクリックして映像をご覧ください。
https://youtu.be/zrt3lx05dlw?si=oWwAAiUrRPDj5UDc

 まず最初に書いておきたいこと。音の好みに絶対値は存在しないことです。100人のうち99人が「おいしい」と感じた時でも「おいしくない」と感じた一人の人の感覚が間違っているとは誰にも言えません。
一方で比較する対象を同じ基準で分析した結果=数値については明らかに客観的な事実です。「良い音」「弾きやすい」と言う表現はまさに「主観=感覚」を表すものです。その判断には聴く人の心理が大きく影響します。「心理的バイアス」と言う言葉があります。AIによると「心理学における「バイアス(認知バイアス)」とは、過去の経験や先入観、固定観念により、情報の解釈や意思決定が非合理的に偏る心理現象です。脳が速く処理しようとする「思考のクセ」で、無意識のうちに思い込みや偏見が生じ、判断ミスを誘発します。」とあります。
山での遭難事故の多くもこの「認知バイアス」が原因で起きています。楽器の音や歌声を聴いて先入観や固定観念で「判断の間違い」をしてもケガもしないし命にも関わりません(笑)気楽に考えても大丈夫ですね。
「世界的に高い評価の古いイタリア製の楽器」と言う言葉や、過去にその楽器を使って演奏していた著名なヴァイオリニストの名前からさらに「固定観念」が増強されることもあります。それらの情報が「認知バイアス」になります。実際に「何が?どう?他の楽器と違うのか?」と問われた使用者が「全く違う」とか「まるで生き物のように」とかすでに使用者自身も認知バイアスで正当な判断が出来なくなっているように感じます。
例えばアマティ・ストラディバリ・グヮルネリと言った職人が作ったヴァイオリンと他の職人の楽器の「違い」を事実をもとに比較すると
「それまでの製作者が作ったヴァイオリンと形や木の厚み、木材の科学的な加工に独自の方法を取り入れた」という事が言えます。
当時詳細な「レシピ」に当たる制作方法は残されていないことも共通しています。「秘伝のスープ・レシピ」と同じです。
その「新しい制作方法」によってそれまでに作られていたヴァイオリンとは音色・音量・弾き心地、さらに耐久性も大きく変わったと思われます。それも推測です。そしてその後に彼らの作ったヴァイオリンの「形・厚み」を正確に計測して作られた多くの「コピーヴァイオリン」が誕生したのは事実です。しかし肝心の「レシピ」が残っていないため木材の加工、ニスなどの「処理方法」が不明だったために「秘密」「謎」と言う枕詞が付くようになり、ますますバイアスが高まTる結果になりました。
 現代の分析技術、特に分子レベルの解析と放射線を使った解析によって「謎」だった部分が明らかになってきました。今後もさらに解析が進むことになるでしょう。
 現在、既に木材の薬品や熱、紫外線による加工・処理の跡が解析されています。得られた木材の「構造」に近くなる処理を施して現代のヴァイオリン製作者が作成したヴァイオリンの「音」がストラディバリの製作したヴァイオリンと比較した結果が動画の内容です。
「どの音が良いと思うか」と言うブラインドテストで半数以上の人が「コピー」を選びました。その結果にも大きな意味はないと思います。「良い」は「好き」と同意語であって主観=感覚だからです。
つまり「認知バイアス」の入り込めない状況で比較した結果、ストラディバリの楽器の音が「良い」と多くの人が感じられなかったと言うのは事実です。す。

一言で「謎」を説明すると今まではヴァイオリンを製作する「木材」への薬品を使った処理は想定されておらず、ましてや分析技術に限界がありました。そのため現代のヴァイオリン製作には「自然乾燥させた木材」を使用するのが一般的でした。「まさか」と思われる結果とも言えます。ストラディバリとグヮルネリでは使用した薬剤が違う事も明らかになり、ストラディバリでも製作した年代のよって異なっている事まで解析されています。「ミョウバン」「石灰」「塩」などは300年前から身近にあったものでした。「弱アルカリ性」に木材を処理することは中国の楽器に関する書物にさらに昔からの残されていたことですが、ストラディバリ、グヮルネリも同じように木材を加工し耐久性を高めていました。さらに高熱と恐らく日光に当たる=紫外線を当てる事もしていたことが分析結果から推測されています。
今回の動画では「木材腐朽菌」による処理を木材に施した楽器を使っていますがこれも「科学的根拠」に基づいた製作方法です。
「ストラディバリの楽器は神聖なものだ!」とお怒りになる方もいるでしょう。しかし既にストラディバリウスは目に見えない修復、虫食い後などによって製作当時とは「違う楽器」になっています。もちろん良い意味での経年変化と一流演奏家に演奏され続けた事による「鳴りやすい楽器」に変化し維持されている事も承知しています。
しかしいずれストラディバリウスもグヮルネリウスも使用できない状況に劣化することは避けられない事実です。その時になって「ヴァイオリンがない」と騒ぐのはあまりにもお粗末です。むしろストラディバリウスが良い変化をしたように現代のヴァイオリンを育てる努力と、少しでもストラディバリウスに近いヴァイオリンを製作しさらに変化を観察する事の方が遥かに重要だと考えます。
「新しい楽器は良い音がしない」と言う先入観・固定観念が間違った判断を引き起こしています。現代の製作者を否定してしまえば近い将来に健康なヴァイオリンが消滅することになります。
「一流の演奏家」が認知バイアスで誤った判断をすれば、その音楽を聴く人も同様に先入観を持ってしまいます。テレビ番組でストラディバリウスの音を当てるコーナーを毎年見ていますが、あれで正解するのは単なる2分の1の確率=偶然です。もしもA・Bではなく5つ選択肢があれば結果ははっきりします。五分の一に分かれるはずです。つまり5人に4人は「はずれ」になるのが正常です。なぜならテレビを見ている人はスピーカーかイヤホンで音を聴いているので「電気的に加工された音」でしか判断できないこと・さらにストラディバリウスの楽器の音を解析できる耳を持っている人は誰もいないことです。
予め演奏前に2種類の音を聴いて「正解」を知らされていて、今度はカーテンの向こうで見えないように演奏したら?恐らく7~9割の人が正解するでしょう。

 最後に「心理学的に」ヴァイオリンの音についてまとめます。
人間の耳は限られた振動数の「音」を聴いています。さらに人によって聴こえ方には違いがあります。同じ音を聴いた人でもそれぞれに「聴こえ方」が違います。それが人間の「感覚」です。
「良い」「好き」や「嫌い」と感じるのは耳の問題ではなく「脳」による判断です。主な判断基準は「記憶」によるものです。
生まれて初めて、目の前で演奏するヴァイオリンの生の音を聴いた人が「好き」とか「嫌い」とか判断するとしたら「直感」です。自分にとって心地よいか?耳障りな音か?の違いです。演奏者の技術で変わります。初めて食べたラーメンや納豆が「美味しくない」と感じれば、次に食べる前に「美味しくない」と先入観が働くのと同じことが楽器の音でも起こります。
 良いヴァイオリンとは!と言う間違った先入観を持ってしまった人が、他の人にまでその「間違い」を広めることに危機感を感じています。少なくとも高いヴァイオリンが良いヴァイオリンと言う固定観念から抜けることが必要だと思っています。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

« »

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です