映像は長野県木曽町で演奏したバッハ作曲「アリオーソ」。ヴァイオリンは木曽町が所有する陳昌鉉氏が製作した楽器。ピアノはかなり古い時代のスタインウェイです。
今回のテーマはヴァイオリンを弾きながら聞こえる自分の楽器の音と一緒に演奏している「他の楽器の音」について聴こえ方・聴き方・演奏方法を考えるものです。
楽器によって自分の演奏する音の聴こえ方に大きな違いがあります。
極端な例で言えばパイプオルガンの演奏者は設置された数多くのパイプに送り込まれる空気によって建物=演奏会場に響く音を鍵盤の前で聴きます。
ヴァイオリンの場合は音源が耳元から10センチ程の場所にあり、顎の骨や鎖骨を通しての「骨伝導=楽器の振動を直接感じるもの」もあります。
同じ弦楽器でもチェロの場合には筐体=ボディがヴァイオリンよりはるかに大きく弦も太く長く張力も強いので音量=物理的な音圧も大きくなります。耳元と言うより座っている自分の前方に音源がある事になります。
声楽の場合は音源が声帯で口の中、頭蓋骨、胸部を振動させたものすべてを耳と身体で感じることになります。
こうした楽器ごとの聴こえ方の違いがある中で、さらにピアノやオルガンのような他声部楽器=一度に多くの音を演奏できる楽器と、管楽器や基本的な弦楽器の演奏方法で出される「短声部=旋律だけを演奏する」楽器に分類できます。
ピアノやオルガンも他の楽器や声楽と一緒に演奏することもありますが作品の多くは1台のピアノ・オルガンで旋律も和声も演奏できる楽器です。
管楽器や弦楽器、声楽の場合は逆に一人だけで演奏する曲は非常に少なく多くの曲は他の楽器、他の演奏者と一緒に演奏して音楽が完成されます。
一緒に演奏する人がある曲でも「一人での練習」が必要になります。いわゆる「譜読み」の段階から始まり、指使いやボウイングを考えながら(ヴァイオリンの場合ですが)音量や音色を考えながら練習する時間です。この時に一緒に演奏する「音・音楽」を想像しながら練習することは経験と楽譜を見る技術があれば可能です。アマチュアの演奏者の場合に「自分の事で精一杯」になるためにこの練習が不足しがちです。
実際に一緒に練習することを「あわせ」などと言いますが、二人の場合でもオーケストラの場合でも最終的な楽器の編成で練習することを指します。オーケストラの場合には指揮者がすべての楽器の音を聴くことが出来る唯一の場所=指揮台から聴きバランスなどを演奏者に指示します。演奏する位置によっては自分の楽器の音より他の楽器の音の方が大きく聴こえる場合もあります。逆にオーケストラの一番「後ろ=奥」で演奏する金管楽器がフォルテで演奏すればヴァイオリンの音はまったく聞こえないのでは?とも感じます。
こうした「あわせ」の時に自分の楽器の音と他の楽器の音を「聴き分ける」技術が必要になります。ただ分離するなら音量も音色も違うので誰にでも出来ますが「統合=一つの音として聴く」技術が必要になります。時に二人で演奏する場合にはお互いが相手の音と自分の音を「自分の音」として考える思考が必要です。
一人で練習して居る時には自分に聞こえる小さな音…例えば弦に指を載せた瞬間の音がピアノと一緒だと聞こえなくなることもあります。弓の速度や圧力を「ほんの少し」変えて自分に聴こえる音色の変化がピアノの音にマスクされて聞こえなくなることもあります。
音量の変化も一人で練習している時には感じていたクレッシェンドが感じられなくなることもあります。考えれば当然のことです。ピアノは同時にいくつもの鍵盤=音を演奏しています。さらに音量の変化幅もヴァイオリンよりはるかに大きな楽器です。
ピアノの音を聴きながら自分の音を聴く。
一種の「マルチタスク」です。頭の中で同時に聞こえる2種類の楽器の音を冷静に考えながら自分の音に集中して演奏する…これ、かなり難しいことだと思います。あれ・もしかして私だけ?(笑)
録音された自分たちの演奏を聴くとき、マイクの位置によって二人の音量のバランスがまったく違って聴こえます。それぞれの楽器に近付けたマイクで別々のトラック=チャンネルに録音しバランスを整えるのが「スタジオレコーディング」です。ライブでの録音は通常「記録」として録音することが主目的なので、お客様からの見た目で邪魔にならないことも大切な条件になります。
と言うよりも(笑)ライブ=コンサートの場合には客席での聴こえ方が一番大切なので録音は本来の目的ではありません。演奏しながら客席で二人の音のバランスは自分では確認できません。私たちの場合には調律師の名取さんに少しでも聴いてもらいアドヴァイスをもらっています。名取さんが居ない時、さらに誰も知り合いがいない地方の会場ではお互いの音を客席で順番に聴いて「想像」するしか方法がありません。あとは経験と勘が頼りです。
曲によってお互いの音が聞こえにくい曲もあります。ヴァイオリンの音域も関係しピアノの音の数・音域も関わります。ヴァイオリンの立ち位置でも聴こえ方が変わります。ピアノの「蓋=屋根」の開け方でも変わります。ピアニストからの「視界の中」にヴァイオリンがあるか?も関わります。
私たちは最終的に「ホール全体に二つの楽器の音が届く」事を考えている「つもり」です。
練習の時にホールの響きを想像することは不可能です。色々な位置でヴァイオリンを弾くこともあります。ピアノの近くだったり少し離れた距離で演奏してみたり。聴こえ方がお互いに変わります。ピアノは動けませんから(笑)ヴァイオリンが動きます。
曲によって調性=キーを変えることも多くあります。バランスよく聞こえる調、オクターブを考えて「リアレンジ」します。以前のブログでもヴァイオリンとヴィオラで同じ曲を演奏した比較、違う調性で演奏した比較もしていますのでご興味あればお読み頂ければと思います。
一人一人の演奏者は自分の音に最大限の集中をします。当然です。
客席で演奏を楽しむ方の殆どは「ひとつの音=音楽」として聴いています。
例えるな「2種類の素材の料理」です。どちらかの主張が強すぎればどちらの素材とも美味しくなくなります。別々に食べても口内調味…口の中で一つになっても「惜しい」と感じる料理は単品よりも難しいと思います。
別々の音色・楽器の音が違う種類の新しい音になります。曲の中で一つの音のように溶ける場面もあればどちらかの音が鮮明に浮かびあがる場面もあります。
それを確かめるのが「あわせ」だと思います。学生時代は本番の前に数回合わせればとりあえず?納得していた気がします。それで「完成」させることが出来るプロもいらっしゃいます。
私たちの場合は常に試行錯誤の繰り返しです。「これ!」と言う正解がない道を迷いながら歩くのも音楽なら楽しいものです。間違ったからと言って誰も傷つきませんから(笑)
最後までお読みいただきありがとうございました。
ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介
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