映像はユーディ=メニューインの語るヴァイオリンボウイング。
昔、日本語に訳された本を一生懸命読みました。
メニューインもカール=フレッシュの本も、とにかく理論を言語化した本に共通するのは「一回呼んでも理解できない」という共通点(笑)私だけ?
演奏家はとかく「理屈じゃない。感覚が大事だ」と言いたがります。
感覚を言語化するのは難しいことです。とは言え、自分の技術を高めるためにも、お弟子さんに継承するためにも客観的に理解できる言葉にすることも必要です。
力学や物理が苦手な音楽家が多いのは、多くの人が「音楽学校」で学び一般教養への関心が低かったことも原因の一つです。私もそのひとりです。(笑)
今回は特に右手に絞って考えます。
弓に触れる「五本の指」それぞれに、力をかける方向と速さ:時間、さらに力の強さが違います。
右手首、右肘、右肩の関節につながる筋肉があります。関節を動かさなくても筋肉に力を入れること、逆に力を抜くことが可能です。腕を曲げる運動の速さ、強さを鍛える場合と、反対にゆっくりと腕を伸ばす運動=ブレーキをかけながら伸ばす運動をトレーニングする方法がスポーツ医学の世界では当たり前にあります。
弦楽器の弓を動かす運動「ボウイング」は腕の曲げ伸ばしだけではなく、右肩を始点にした回転の運動や、筋肉の緊張と弛緩(ゆるめる)を使って、力の速度と強さをコントロールする必要があります。
これらの「方向」「速さ=時間」「強さ」の中で、もっとも難しいのはどれでしょうか?
初心者に限らず、人間は「無意識」に力を入れたり抜いたりしています。
緊張すると筋肉に力が入ります。リラックスすると力は抜けています。
それを意識的に行うのはとても難しいことです。特に「弛緩=筋肉を緩める」意識は日常生活で感じることがありません。逆に力が必要な時には、すぐに筋肉に力を入れられます。
力を入れるためにかかる時間、緩めるのにかかる時間を速くすることが一番難しいことです。つまり「一瞬」で力を入れてすぐに「脱力」する運動です。
その「速さ」で筋肉にかける力の「強さ」を変えることはさらに難しいことです。
腕の重さと弓の重さは、その人の腕と使う弓で決まり、演奏中に変わることはあり得ません。
力の速さが早くなれば生まれる力の量は増えます。大きい力で速く動かせば、大きな動きになります。小さな力で速く動かせば小さな動きになります。
みぎての親指と人差し指で、瞬間的に力を入れられ、すぐに脱力できれば、自由にアタックを付けることが可能です。ダウンの途中でこの運動を擦れば、弓はバウンドします。バウンドを利用してスピッカートを連続させられます。
次に、力を「長く」かければ大きな力量になります。例えれば「全弓を使って、出来るだけ長く大きな音でひく」場合です。これは比較的わかりやすく、初心者でも身に着けられます。
力の方向が一番重要なのは、右手の場合「指」になります。
親指の力の方向が、右手人差し指の力の方向の「真逆」になっているでしょうか?多くの生徒さんが、親指の力の向きが人差し指の力の方向に対して「90度」自分から見て「前方」に押す力になっています。その向きの反対の力は?中指を自分に向かって「引き寄せる」力になってしまっています。この「反作用」は演奏に不必要な力です。指が付かれるだけではなく、弓の毛を現に押し付ける圧力をコントロールできません。弓を親指と中指で挟んで持つ仕事をしているだけです。
親指と人差し指の「力の向き」と「速さ」と「強さ」を意識することは、もっとも重要な技術の一つです。
最後に右手の各関節に「弾力」を持たせるための、筋肉の使い方です。
指の関節を固めてしまえば、弓のコントロールは無可能です。小指をまっすぐにのばしたままで演奏する人は、右手小指の「弾力」を捨てていることになります。関節を曲げたり伸ばしたりする「弾力」は、力の強さで買えられます。
自動車で言う「ショックアブソ-バー」と「ダンパー」です(車好きな人に聴いてね(笑))
言うまでもなく、右手の筋肉で一番小さい=可動範囲の狭いのが「指」です。
次が「手首」です。手首は手のひらに対して上下には大きく動かせますが、左右の可動範囲は狭いものです。少しでもこの可動範囲を広げるストレッチも必要です。さらに大きな運動は「肘」の関節です。ゆっくり伸ばす=ダウンの運動を練習することが必要です。一番大きな運動をするのが「肩」の関節です。
首とつながった筋肉、背中、脇とつながった大きな筋肉によって動かされます。
この一番大きな運動で、重心が揺れないようにする「腰」と「股関節」「膝」の関節の弾力も必要です。
弓の運動は、右半身すべての筋肉と関節を使っておこなわれます。
意識するのは「向き「速さ」「強さ」です。デフォルト=ニュートラルの状態で、いかに無駄な力を入れず、必要な力を最小限に使って、効率よく弓を安定して動かせるか?常に、力を意識することが大切です。
最後まで読みいただき、ありがとうございました。
ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介