映像は、デュオリサイタル13(2021年1月)の後半部分をまとめたものです。長い&多い(笑)こんなプログラムのコンサートって、邪道?かもしれませんね。多くの「ヴァイオリンとピアノによる」クラシックコンサートの場合、
「ヴァイオリンソナタ」が必ずと言っていいほどプログラムに組み込まれています。「それでこそ!」と言われればその通りです。過去14回のデュオリサイタルで、ソナタを全楽章演奏したプログラムは一回しか!(笑)ありません。私たちには、それなりに理由があるのですが、それが「音楽の切り取りだ」とのご意見も甘んじて受け入れます。むしろ、そちらがスタンダードだと思いますが、ソナタの単一楽章を演奏することに、不満を感じる人ばかりではないと言うのも事実です。以前にも書きましたが、多くの人が知っている「クラシック音楽」は1曲の中の一部分であることがほとんどではないでしょうか?それは、単にクラシック音楽を知らないからだという理由だけではないと思います。楽しみ方の違いでもあります。
映画は2時間程度の長さの物が多く、テレビの番組は長くて1時間位ではないでしょうか?演劇や歌舞伎、オペラやミュージカル、落語、ロックやジャズ、ポップスのライブなどで、演目の時間や休憩時間は様々です。ライブの場合、飲み物を飲みながら演奏を楽しむこともあります。クラシック音楽を昔から楽しむ文化のあるヨーロッパでは、子供を寝かせた後に、正装してコンサートに出かける「伝統」がありました。日本では考えられないことです。歌舞伎では「幕」の合間に食事をする「幕の内弁当」が今でも伝統として残っています。
イベントの楽しみ方も時代と共に変化して当たり前だと思います。
コンサートの内容を紙に書きだした「プログラム」に曲目解説などの「ノート」を書き込めば、お客様に情報は伝えられます。演奏者は演奏だけで終始してもお客様は満足するでしょう。「音楽を聴くだけ」ならの話です。音楽を演奏している「人」や演奏者が曲を選んだ「理由」と「思い」について、お客様に隠す理由もないと思います。私たちのリサイタルでは、曲管にお客様にお話をすることで、私たちがそれぞれの曲に対して思うことや、エピソードを私たちの言葉で語ります。トークの専門家ではないので、うまく話せなくてもお客様に伝わるものがあると思っています。
演奏会全体のプログラムを組み立てる時に、調性を重視します。そのほかにもテンポ、曲全体の強さと高さも考慮します。聴いている人が飽きずに楽しめる「構成・進行」を考えているつもりです。思った通りに伝わらなくても、私たちの「思い」だけは伝わると思います。ここでまた、ヴァイオリンとピアノによるコンサートで、多く目にする傾向を考えます。
・特にテーマやコンセプトのないコンサート
・作曲家や時代・地域などに「スポット」を当てたコンサート
・知名度の高さ・希少性を意識したコンサート
・難易度の高い曲を選んだコンサート
などが多く見受けられます。他方、私たちのリサイタルのような「お子様ランチ」もしくは「昔ながらの定食屋ランチ」にも似たプログラム構成はあまり見かけません。もしかすると「簡単すぎて集客力がない」と思われているのかもしれません。集客力だけで考えれば、クラシックマニアの喜びそうなプログラムは考えられます。そのコンサートで、普段クラシックを聴かない人が楽しめるかどうかは別の問題です。私はメリーオーケストラのプログラムでも、リサイタルのプログラムでも一貫して、できるだけ多くの人に一曲でも楽しんでもらえるコンサートを目指しています。料理で言えば、プログラムは献立だと思います。一つの料理でおなか一杯になる献立=プログラムもあります。色々な料理が少しずつ出てくる献立もあります。コース料理はまさにそれですよね。
私の考えるプログラムはクラシックファンには物足りないプログラムだと思います。でも私を含め、クラシック音楽が好きな人間が、それ以外の音楽を聴かない理由はありませんし、少なくとも演奏を聴いてから好き嫌いを感じてもらいたいと思っています。「ポピュラーだから」「映画音楽なんて」「歌曲をヴァイオリンでひくなんて」という固定観念を持たずに、演奏を楽しんでもらえるコンサートを開き続けたいと思っています。
いろいろなコンサートがあって良いと思います。他の人と同じようにしなければいけない理由もありません。自分や自分たちが考える曲構成=プログラムに自信を持ってコンサートを開いてほしいと思っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介