うまくなる気がしないヴァイオリンの演奏

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なんとなく自虐的なテーマですが笑
上の動画は見ていて・聴いていて、あまり難しそうに感じない曲かも知れません。チャイコフスキーの作曲した「無言歌」をクライスラーが編曲したものです。
 私も含めてヴァイオリンを演奏する人にとって、いつまでたっても上達しない=うまくならない気がする「壁」が立ちはだかります。
 ピアノを演奏する人も同じだとは思います。どんな楽器や歌でもきっと感じるのだろうと思います。
 ヴァイオリンを演奏し、教える仕事をする立場で考えると、「気」だけではなくもっと客観的に「どうして、そう感じるのか」を言語化する必要を感じました

 ヴァイオリンを始める以前に、楽器の演奏をしたことのない生徒さんもいます。ピアノの演奏経験があるヴァイオリン初心者の生徒さんもいます。ヴァイオリンを初歩から始めて、趣味で演奏の上達を目指す人たちににとって、出来るようになったと感じる「達成感」はどんな時に感じるでしょうか?
 初めてヴァイオリンを構え、弓を自分で持って「音」が出た時の感動は、誰でも感じる「おー!ヴァイオリンだ!」という感動と音を出せたという達成感があります。
 次に何を練習してもらうべきか?生徒さんと先生によって違います。
生徒さんが小さい子供の場合には、「音を出す楽しさ」を忘れさせないように=飽きさせないようにすることを優先します。
大人の生徒さんに「正しい弓の動き・弓の場所・角度」を説明し、弓をたくさん使った練習をしてもらうことも良くあります。この練習で「出来るようになった」達成感がどれだけ得られるでしょうか?練習の必要性をどれだけ理解してもらえるでしょうか?いつまでこの練習をしてもらえば良いのでしょうか?
 言うまでもなく、弓を大きく使えるようになることは、上達のための必須条件です。だからと言って、この練習だけでモチベーションを維持するのは、かなり無理があります。頑張れても2~3日だと思います。レッスンが週に1回だとしても2回目のレッスンまで、これだけ練習するのはかなり「酷」な話です。
 では、この練習はそこそこにして、1本の弦だけを弾く練習、2本の弦を同時に弾く練習を宿題にしたらどうでしょうか?「むずかしい!」ことは感じてもらえるでしょうが、できるようになるまで続けたら、何週間、何カ月も開放弦の練習をすることになります。これまた非現実的です。
 では、左手で弦を押さえてたとえば「1」の指で出せる音を、開放弦と交互に弾く練習を課題にしたら、出来るようになった達成感はあるでしょうか?多くの生徒さんの場合、ピッチがあっていない=開放弦との音程があっていない場合でも、なんとなく押さえたり放したりする「繰り返し」になり大切を実感できません。ましてや右手の「ダウン・アップ」と「0→1→0→1」がずれないようにする技術がすぐに身に付くわけではありません。はぁ~涙

 ピアノを始めて習いレッスンを受ける生徒さんんと比べて、圧倒的に「曲」を演奏できるようになるまでの時間が長く必要なのが、ヴァイオリンです。
 曲が演奏できるようなる…と言っても、ヴァイオリンで演奏できるのは単旋律のメロディーです。それさえ、初めは曲にならない音程の不安定さで、生徒さん自身でさえ「気持ち悪い」と思う事もあります。
 少しずつピッチが正確になっても、雑音が多くきれいな音が出せない「壁」にぶり当たります。また、ダウン・アップが混乱したり、スラーがどこかに飛んだり…短い曲を止まらずに、間違えずに演奏できるようになるまでの時間が、同じ曲をピアノで止まらずに、間違えずに演奏できるようになるまでの時間の「数十倍」かかるのがヴァイオリンです。間違えないだけでも大変ですが、そこに「きれいな音=雑音を出さない」で演奏できるまで、その曲だけ練習していたら生徒さんは一人もいなくなるでしょう涙。
 その壁を越えたら、常に達成感が得られるのか?というと、それがまた難しいように思います。「音の高さ=ピッチ」の「正確さ=精度」と「判断の速さ=反応の速さ」を高めるには、耳のトレーニングが必要です。ヴァイオリンを演奏しながら「耳」のトレーニング、つまり自分の音を聴き続ける練習が不可欠で、その上達を自分で感じる「達成感」はほとんど感じられません。何カ月、何年と言う時間で少しずつ身に付く技術だからです。

 ピアノに比べ感じられる達成感が「薄い」ヴァイオリンです。
だからこそ継続できる生徒さんが少ないことも事実です。
ピアノだけで音楽が完成する曲の数は星の数ほどありますが、ヴァイオリン初心者のために作曲された曲数が少ないだけではなく、ピアノの伴奏か他の楽器と一緒に演奏しないと音楽が完成しない=音楽の一部分だけの楽譜が圧倒的に多いのも初心者の壁です。
 一緒に演奏することが前提の楽器です。少しでもヴァイオリンを演奏できるようになったら、ピアノと一緒に演奏することで大きな達成感と新しい感動を感じることができるのはヴァイオリンならではの楽しみ方です。

 プロのヴァイオリン演奏を見たり聞いたりすると、手品師か曲芸師のように指や手が速く動くことに目が行ってしまいがちです。ピアノのように和音を連続して演奏できる楽器と違い、ヴァイオリンは「見た目の難しさ」と「本当の難しさ」がまったく違う楽器です。指や弓を速く動かすことが一番難しそうに見えるから、簡単な曲なら弾けるような「錯覚」をしてしまうのも初心者に多い話です。言い換えれば、ピアノは一般の人が聴いて感じる難しさと、実際の演奏の難しさが比較的近い楽器であるのに対し、ヴァイオリンは「簡単そう」に見える・聞こえることを演奏することがとても難しい楽器です。そのことに気が付くことが第一歩です。音階を正確にきれいな音で演奏することの難しさを知ることでもあります。初心者のヴァイオリニストが演奏した曲を、プロが演奏するとまったく違って聞こえるのがヴァイオリンです。それでも、少しずつ技術を身に着けていく根気があれば、かならず上達します。
 私も自分に、そう言い聞かせて日々練習しています。プロもアマチュアもヴァイオリンの「難しさ」は変わらないのです。プロだから簡単にできる演奏技術は、存在しません。生徒さんが難しいと思うことは、先生たちでも難しいのです。
一緒に頑張りましょう!
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

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