梅雨を乗り切る楽器管理方法

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 映像は、2020年に相模原北公園で撮影した紫陽花(アジサイ)の写真にヴィオラとピアノで演奏したビリーブを合わせたものです。

 日本の梅雨は草花にとっては恵みの雨が続くシーズンですが、ほとんどが木で出来ている弦楽器にとっては「地獄のシーズン」です。楽器に使われている木は、水分をほとんど含まない乾燥した木で出来ています。だからこそ、空気中の湿度をまるで除湿機のように吸い寄せてしまいます。
 楽器を組み合わせている「膠=にかわ」は、表板や裏板の木が、水分を含んで膨張したことによって割れてしまうことを防ぐために、意図的に弱い接着力で木材同士を張り合わせています。高温になると膠は柔らかくなります。ますます接着力が弱くなります。治癒時にこの膠で張り合わされた、表板い・横板・裏板の接合部が「剥がれる」場合があります。職人さんに膠を付けてもらい、圧着と感想をする数日間は、楽器を演奏できなくなります。
 剥がれなくても、板が水分を含むことで、楽器本来の響きを失います。湿気た木を叩いても「カンカン」という音ではなく「コツコツ」という鈍い音になります。こもった音色になり、余韻が少なくなるのが梅雨時の弦楽器の「異変」です。

 特に古い楽器ほど、楽器が水分を吸い寄せます。新しい楽器は、楽器表面のニスに水分が残っており、さらにニス自体も厚みがあるので簡単には水分をしみこませません。その点、100年以上たっている楽器は、ニスが乾ききり薄くなっています。そこに湿度が加われば、当然木材が湿気るのは自然現象です。
 この梅雨時を乗り切る方法を私なりに経験からまとめます。

1.自宅で管理する方法
練習していない時間は、ケースにしまわないことです。
出来る限り風通しの良い場所に、「立てた状態」で管理するのが理想です。
エアコンの風が直接当たる場所は避け、エアコンを切っている状態であればできれば弱い風で良いので、扇風機やサーキュレーターで楽器の周囲の空気を動かすことで楽器が結露したり、余分な湿気を含まずに管理できます。
 ケースに入れない理由は簡単です。ケースの中で、ケースの内張や楽器を包んでいる布に、楽器の表面が密着します。楽器表面に湿気が常に当たる状態になります。ましてやケースの内部は、高音になればますます湿度が高くなります。
湿気た布団にくるまって、暑い夜を過ごせますか?その状態がケースに入れられたヴァイオリンです。極力、板に何も接しない状態が理想です。

2.外に持ち歩く場合
当然、ケースに入れるのですがケースの内部を可能な限り「乾燥」させることが大切です。自宅でケースの中に入っているものをすべて出してから、ドライヤーの温風で内張の布を手でさわれる熱さまで加熱します。その熱さならケースを痛めることなく、水分を飛ばすことができます。その後、完全に冷めるまで待ってから楽器をしまいますが、その時に「からからにアイロンをかけたタオル」を一枚、楽器の上に「掛け布団」のようにでかけてあげます。当然ですが、タオルも冷めた状態でないと大変です。このタオルがケース内部で、楽器の表面に一番近い空気の湿度を吸い寄せてくれます。このタオルを頻繁に変えてあげることで、ケースの内部、特に楽器の周辺の湿度が下げられます。
 やってはいけないこと。「水をためる除湿剤を入れる」ことです。万一、この水が楽器ケース内で楽器に係ることがあれば、どんな事態になるか想像してください。押し入れに入れて湿度を「水」に替えるタイプの除湿剤です。水分が実際に「水」になるので効果が実感できますが、ケースの中ではまさに「自爆行為」です。
シリカゲルを使った除湿剤は、周囲の空気から湿度を吸い寄せます。が!
そもそもヴァイオリンケースの「密封度」は大した数値ではありません。雨の水がしみこむ程度の密封度で、シリカゲルを入れてもケースの外の湿度を一生懸命吸ってくれているだけです。ケースの中の湿度はほとんど下がりません。
 ケースに付いている「湿度計」は信じてはいけません。ご存知の方なら、正確な湿度計の仕組みはあの「丸い時計」では作れないことがわかるはずです。あれはあくまでも「飾り」です。嘘だと思うなら、楽器の入っていないケースをお風呂場に持って行ってみてください。針が動かないものがほとんどです。振動で動いていることはありますが(笑)

 楽器にとって、過剰な湿度は良くありませんが、だからと言って乾燥のし過ぎも危険です。「楽器が割れる」まで乾燥することは日本では考えにくいのですが、クラリネットやオーボエなどでは、乾燥しすぎて管体が割れることがあるようです。ヴァイオリン政策の「メッカ」でもあるイタリアのクレモナ地方は、意外なことに湿度の高い気候だそうです。適度な湿度は必要です。
 湿度計に頼るのは賢明ではありません。むしろ、楽器の手入れを擦れば、楽器表面が「重たい」感じなのか「軽く拭ける」のかで湿度がわかるはずです。
温度と湿度の関係も絡みますが、あまり神経質になるよりも、演奏者本人が「不快に感じる」場所は楽器にとっても不快なのです。楽器を自宅に置いて出かける時にこそ、赤ちゃんを部屋に置いて出かけるくらいの「慎重さ」が必要です。
 楽器が鳴らない梅雨の時にこそ、楽器の手入れを丁寧にしましょう!
最期までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

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