世界はインターネットの普及と共に生活そのもののスタイルが大きく変わっています。
買い物も自宅に居ながら出来る時代です。お金のやり取りも現金ではなくネットからの振り込みや確認が簡単にできます。世界中のほとんどの国の話し言葉や文字をスマホ1台で翻訳できます。世界のどこからでもネットのテレビ通話ができます。
私が生まれた1960年当時にはカラーテレビすら「高級品」でしたし、電話がやっと家庭に一台という生活が当たり前でした。子供の頃「鉄腕アトム」や「エイトマン」を白黒テレビにかじりついて見て「ロボット」は空想の世界にしか存在しませんでした。
音楽を聴く方法は「生演奏を聴きに行く」しかなかった時代から「録音」と言う技術が生まれレコードが誕生。さらに「放送」と言う技術が始まった当初は通信手段の発展したものでした。ラジオ放送で音楽を聴くことが出来るようになり、テレビでも音楽の演奏を見ながら聴くことが出来るようになりました。
やがてレコードはCDに変わり、CDは配信に変わっていきました。テレビはパソコンになり、パソコンはスマホやタブレットに変化しました。
それらの「進化」の影で仕事を失っている人もたくさんいることに目を向けることも大切な事だと思います。音楽に限らず昔で言う「機械化」によって人間の仕事は大きく変化しました。
「便利になった」「楽になった」「手軽になった」と言う陰にあるのは「人間の仕事が減った」ことです。
録音された音楽を製作する現場でも生身の人間が楽器を演奏するケースは激減しました。コンピューターの発達で実際に演奏した楽器の音に近い音で録音物を作れます。人件費を大幅に削減できる上に時間も短縮できます。修正も簡単です。「スタジオミュージシャン」は仕事を失いました。
生身の人間を演奏のために集め拘束した時間に対する対価を支払う必要がなくなったのです。
クラシック音楽の聴き方・楽しみ方は変わったでしょうか?
先述の通りレコード・CDなどの録音とラジオとテレビの普及で音楽を気軽に聴けるようになったことはクラシック音楽業界にとって朗報だったかも知れません。さらにコンサートに行かなくても「良い音」で「好きな時」に「好きな演奏だけ」を極めて安価に楽しめるようになりました。レコードやCDの売り上げは演奏家の収入にもつながりました。配信の中でも「有料」で聴くことが出来るケースもありますが、無料でも聴くことが出来る配信、例えばYouTubeで楽しむことで満足する人が増え有料配信も減少しました。
演奏する「機会」が減れば演奏者の数は自然に減少します。もちろん経済は「需要と供給」のバランスで成り立っています。供給が多すぎると片づけることは簡単です。しかし生の演奏の需要をネットの使い方を間違ったことによって減らしているとしたらどうでしょうか?
インターネットは使い方を誤れば人々の命さえ危険にさらす凶器になります。しかも「匿名」が当たり前の世界です。開示請求してもすべてのケースでIPアドレスを調べてもらえるとは限りません。
コンサートの広報や告知にネットが役立ちます。でも聴いてくれる人・会場まで時間と交通費をかけて出向き入場料を払ってくれる人がいなければ演奏会にかかる費用はすべて演奏者や主催者が負担することになります。「生で音楽を聴く価値・意義」をすべての人が認識してくれればと願っています。
最後に演奏家と言う「職業」が今後どのように変わり行くのかを考えます。
・演奏以外の収入がなくても生活できる演奏家
・演奏以外の業務=仕事もしながら生活出来る演奏家
どちらも主たる職業が「演奏家・音楽家」であることに違いはありません。
日本国内で考えると上記の「演奏だけで」と言う人は両手で数えられる人数です。
プロのオーケストラでも「契約団員」と呼ばれる人以外の演奏者は給与だけで生活するのは非常に厳しいのが現実です。一昔前ならレコーディングやテレビ、結婚式などでの演奏が副収入源=アルバイト先でした。しかし現在はそのいずれもが壊滅的な状況です。音楽高校や音楽大学で教える場合でも「教授」「准教授」「講師」「非常勤講師」「合奏指導員」など多くのランクがあり当然報酬も大きな差があります。ましてや雇用される人数はごくわずかです。
自宅や音楽教室で生徒を取ってレッスンをする演奏家。これが最も現実的と思われがちですが…。お小遣い稼ぎの為なのか?社会奉仕活動と考えているのか?不明ですが町中に「〇〇音楽教室」があふれています。一か月5,000円の月謝と言うのも見かけます。お金の価値は変わりませんが「生活する」ための収入とは言い難い金額で教えている人たちです。プロのオーケストラで演奏した報酬で足りない生活費…にもならないのが現実です。
オンラインレッスン。インターネットを活用した音楽ビジネスですが、コロナの頃に体験した印象を言えば「これがレッスンと言えるのか?」でした。生徒さんの演奏はスマホやノートパソコンに内蔵されたマイクで収音されます。いくらこちら=教える側が良い環境にしても生徒さんに「もっと良いマイクで」とか「画角を色々変えて」とは言えないのが実情です。
会議や会話だけのやり取りならオンラインは有効ですが音楽のレッスンには限界があります。
ただこの分野は今後さらに技術が進むことが予想できますので環境が良くなる可能性はあります。インターネットで演奏を収益化することは上記のどの方法より難しいと言えます。
事実YouTube上には世界中の演奏家たちが「チュートリアル=演奏方法解説」と「演奏動画」を自分で、知人に助けてもらって公開しています。どれも「無料」で視聴できます。世に言う「ユーチューバー」として収入を得られるか?いいえ!(笑)そんなに甘い世界ではありません。チャンネル登録者が1,000を超えて著作権に関わらない音楽で…しかもほぼ毎日のように新しい動画を編集する技術と時間が求められます。演奏よりはるかに難しい!(笑)
現在の状況で演奏家が昔のように演奏で収入を得ることは無理なのかも知れません。演奏家を夢見ても収入のない職業は職業とは言えません。プライドだけで「演奏家です」と自称するのは個人の自由ですが。「夢を壊すな」「音楽大学への進学希望者を減らすな!」と言われるのを覚悟して言えば、演奏をストレスなく楽しみたいのなら生活できる職業につくべきです。その上で仕事のスキルをあげ「自由な時間を増やす」努力をすれば、演奏を心から楽しめます。
「どうしても演奏だけで生活したい!」と言う人へ。今や国際コンクールで「入賞」しても演奏の仕事はほとんどないと言われています。数年に一度の著名なコンクールで1位になった人だけでも世界中に何十人もいます。毎年行われるコンクールなら毎年1位の人が演奏の機会を待っているのです。プロのオーケストラに入団するのも考えているより厳しい世界です。音楽大学に入れるのは「お金を払う側」だからです。プロオケは欠員がなければ募集しません。国内どこかのプロオケに「団員=社員」として就職できる人数は、テレビ局のアナウンサーになるよりも、パイロットになるよりも「狭き門」だと言う事です。それを承知で覚悟を決めて挑戦する「気持ち」に心からエールを送りたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介
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