映像は小学4年生と中学1年生の姉妹が独奏をひいた、メリーオーケストラ第41回定期演奏会の映像です。バッハ作曲「二つのヴァイオリンの為の協奏曲」第1楽章。この曲は多くのアマチュアヴァイオリン奏者が演奏を楽しむ定番曲です。
独奏を誰にするか?と言う難題を抱えます。じょうずな人が良いと言う安直な答えではありません。「子供の健全な育成・音楽の普及」を目的として活動するメリーオーケストラです。子供たちが精いっぱい練習し、多くのお客様の前・多くの大人演奏者の前で演奏する緊張感に耐え、弾き終えた達成感を感じてもらうことが一つの目的です。さらに、聴いてくださる方が満足できるクオリティも、音楽の普及という目的達成のためには不可欠です。この一見、相反する二つの目的を達成する補法とは?
一つは演奏する子供たちに「演奏する責任と演奏する楽しさ」を体感させることです。この二つのバランスが取れていないと成長にはつながりません。
責任感だけでは子供が長く演奏を楽しむことになりません。
楽しいだけでは聴いてくださる方々に対して失礼です。
この両面を子供に体感させるためには、年単位の時間が必要です。
一度覚えれば一生忘れることのない感覚になります。
「できない」「ひけない」で諦めさせない練習。
「これでいい」「もうだいじょうぶ」という妥協をさせない。
「本番で失敗しても大丈夫」という具体的な解決策を示す。
「舞台では主役になる」準備と演出を行なう。
これらをすべて考えて子供の成長を見守ります。
もう一つは演奏の完成度=クオリティの意地です。
聴いてくださる方々に「身内の発表会」と思われたら終わりです。
あくまでも「オーケストラの演奏会」を楽しんで頂くことを忘れません。
アマチュアだから…
「下手でもいい」と言う甘えの上に立って演奏するのは間違いです。
「うまくひきたい」「満足してもらいたい」気持ちが第一に必要です。
無料のコンサートなんだから、下手でも仕方ない…なんて絶対あり得ません。
コンサート会場に足を運ぶことだけでも大変な労力と時間が必要です。そのことを演奏者は忘れてはなりません。
今回のように子供がソロを演奏する場合、当然ですが本番で失敗するリスクを伴います。たとえ練習よりうまく弾けたとしても、さらに高い満足感を感じてもらう気持ちが必要です。
昔から私が用いる手法の一つに「独奏の二重化」と言う方法があります。
ヴァイオリンのソロに限らず、打楽器の目立つソロ部分、フルートやオーボエのソロ部分を「主役」となる演奏者と「アシスト」を担当する先輩演奏者のペアで演奏します。「それでは若手が育たない」と思いがちですが、先輩や上級者・指導者の「サポート」を感じることは問題ありません。むしろ、演奏の責任を強く感じさせるためにも有意義です。そのアシストがない場合、「失敗すればお客様が疑問に感じたり不満に感じる」ことを理解させることも必要なのです。
今回の演奏会では、独奏の二人に加えてプロのヴァイオリニストお二人に、ファースト・セカンドヴァイオリンの2番(トップの隣)で演奏してもらいました。これも練習時に試し、独奏の子供たちにも確かめさせました。映像を見ると、子供ソリストの向こう側で同じ動きをしている演奏者が見えると思います。
子供が演奏するピッチとプロのピッチが合わないのは仕方ありません。
それでも子供たちにとって「必要」なアシストです。
「初めてのおつかい」と言う番組があります。幼児が自宅から初めての買い物をする様子をたくさんのカメラスタッフが追いかけながら撮影する番組です。「やらせ」の部分も見えますが、それでも子供にしてみれば不安な気持ち、怖い思いをしていることは本当です。さらに子供の安全を見守るテレビ局の責任もあります。これとメリーオーケストラの「仕掛け」が重なって見えます。
アマチュアにプロのような演奏技術を求めるのは間違いです。
一方で、アマチュアをプロがアシストすることで演奏のクオリティが高まり、聴く人の満足感が格段に高くなることも事実です。さらに演奏するアマチュアも、プロの演奏者と一緒に演奏する感動を体感できます。
演奏するアマチュアとプロの演奏を、聴く人も楽しめるなら、こんなに素敵な演奏会はないと思うのです。特にプロの演奏者は「交通費」だけで参加していることも特筆すべきです。利益のための演奏ではなく演奏することは、プロにとって「特別」なことです。いつもいつもこの演奏では生活できません。
しっかり演奏への対価を得る演奏会も絶対に必要なのです。
そのための「土台=地盤」である音楽のすそ野を広げることに従事してくれるプロの仲間に敬意を表したいと思います。。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介