ヴァイオリンを初めて演奏する生徒さんの中で、それまでにピアノを練習した経験がある人と、そうでない人の違いについて考えます。
一般的に、ピアノを習ったことのある人の割合は、ヴァイオリンに比べ恐らく10倍以上多いと感じます。もちろん、地域や時代によって変動しますが、ピアノは「習い事」の中でもポピュラーです。
ヴァイオリンを演奏したいと思う人の中で、ピアノやその他の楽器を習ったことのある人と、初めての楽器がヴァイオリン…と言う人の割合は、意外かもしれませんが、6:4か、7:3程度です。つまり、半数近い生徒さんが「初めての楽器がヴァイオリン」です。年齢別に考えても大差ありません。
ヴァイオリンは、どういうわけか?憧れの楽器=弾いてみたい楽器のトップ5?には入るようです。むしろ、ギターやフルートは個人で買って楽しんだり、中学校や高校の吹奏楽部で楽しめたりすることが大きな要因だと思います。
そのヴァイオリンを練習する時、ピアノを弾ける人が優位なことがあるとすれば、楽譜を音にする経験があり、楽譜だけを見るとヴァイオリンの楽譜がとても「簡単」だという事です。ただ、楽譜を音楽に出来るか?という技術は、身に着けていなくてもピアノは弾けますので、弾けることと、楽譜を音に出来ることはイコールではありません。厳密に言えば、楽譜を読んでピアノを弾くことを習った人の場合の話になります。
一方で、初めての楽器がヴァイオリンという方の場合、楽譜を音にするための技術も、持っていない場合がほとんどです。学校の授業でリコーダーを吹いたり、合唱をした時でも楽譜を音にしていた人は、ほぼ「ゼロ」です。
ピアノを楽譜を見て上手に弾ける人なら、ヴァイオリンがすぐに弾けるようになるか?というと、答えは残念ながら「NO!」です。なぜなら、楽譜が読めたり、音の名前がわかって音の高さがわかっても、自分の出したい音の高さを、どうやったら弾けるのか?言い換えると、ヴァイオリンはどうすれば?どんな音が出せるのか?が、ピアノと比較してはるかに「わかりにくい」からです。
さらに、ピアノは調律さえできていれば、「変な高さの音は出ない」構造です。ヴァイオリンは、開放弦を正確にチューニングしてあっても、その他の高さの音は、すべて自分の「耳=音感」で探して演奏する楽器です。むしろ、ピアノを習った経験のある人の方が、自分の出すヴァイオリンの音の高さが「気持ち悪い」と苦笑されます。
もう一つの大きな違いが、両手の役割の違い=運動の分離が難しいことです。
多くのそうした生徒さんが落ちる落とし穴があります。
左手で押さえる場所が違う=音の高さが違うと感じて、直そうとすると無意識に、右手の動きが止まることです。止まるまでいかなくても、非常に動きにくくなります。無理もないことです。私たちは両手を同時に使って、違う作業をすることが少ないのです。あったとしても、どちらかの手が「主役」で、もう一方の手は「補助的な役割」をする程度です。
包丁を使っている時の、もう一方の手は「補助」ですよね?
両手でナイフとフォークを使って料理を食べている時でも、おそらくどちらかの手しか動いていないのではないでしょうか?
音楽家同士の遊びの中に、こんなものがあります。試してみてください。
右手で4拍子の指揮をしながら、左手で3拍子の指揮をする。
もちろん、同じ拍の長さ=テンポは同じで、同時に1拍目から指揮をスタートします。やりやすい、4拍子の図形で構いません。3拍子は単純に三角形の図形で構いません。
せーの!
初めての人は恐らく2泊目で止まりますよね?笑
右手で4拍子の指揮を「1・2・3・4・1・2・3・4…」と繰り返すだけならできますよね?
左手で3拍子の指揮を「1・2・3・1・2・3…」と繰り返すのも、単独なら簡単ですよね?
はい。それを同時にスタートします!
仮に4拍子を口で言い続けて「1・2・3・4・1・2・3・4…」と言いながら、両手で4拍子と3拍子を同時に振ると、4拍子を3回繰り返して4巡目に入る瞬間の「1」の時に、左手の3拍子も「1」になるのです。
……………………??????
3と4の「最小公倍数」は12です。つまり、4拍子を3回繰り返すと12泊、振ることになります。その時に3拍子は「4巡目の1拍目」になります=3拍子を4回繰り返すと12泊振ることになるからです。
これ、電車やバスの中で、やらないでください。ついムキになってしまうので、周りの人が離れていくか、通報される危険性があります。自宅で鏡に向かって楽しんでください。
さて、ヴァイオリンはこの「左手と右手の分離」に近いことをしながら、演奏することになります。ただ、私からすると、ピアニストが両手で同時に違う音を弾けることのほうが難しく感じています。
右手と左手の分離と同期は、一朝一夕にできません。少なくとも、頭でどちらかの手に集中すると、もう一方の手は無意識になることが、上記の指揮の遊びで実感できると思います。
あ。じゃんけんを両手でやるのも、むずかしいですよ。常に右手が勝つことと、常に違う形=グーかチョキかパーを変え続けて、何回?続けられますか?
それはさておき、左手の押さえる場所=音の高さを修正する時に、意識的に(無理やりにでも)右手で全弓を使って大きくて良い音で弾き「ながら」音の高さを修正する「習慣」をつけることをお勧めします。
もしくは、左手の練習をするときには、ピチカートで練習するのもひとつの方法です。
右手の練習をしてから、左手の練習をする「順序」を決めることもお勧めします。なぜなら「音が出なければ、正しい音の高さにならない」からです。
常に、右手に意識を集中し、音の高さは「耳で確かめる」ことも大切です。
ピアノとヴァイオリンの構造の違いを理解した上で、練習法帆を考えると上達の近道になるだけでなく、ストレスの軽減につながります。
あきらめずに!あせらずに!練習してください。
ピアノのように、どんどん弾けるようになる「上達した実感」はヴァイオリンではなかなか感じられません。ただ、練習しているうちに、無意識に出来るようになっていることに、「ふと」気付くものです。その日は必ずやってきます!
ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介