一般に長い音符が多かったり、テンポがゆっくりの音楽は演奏が簡単だと思いがちです。確かに前回のブログで書いたように、テンポの速い音楽を演奏することは初心者にとってとても大変なことです。上の動画はリサイタルでの演奏動画です。アルヴォ・ペルト作曲した「鏡の中の鏡」は聴いての通り、ヴァイオリンは常に長い音を演奏し続け、ピアノは同じリズムで淡々と演奏し続けます。
一方でクライスラーの作曲した「コレルリの主題による変奏曲」は、16分音符の連続やトリル、重音の連続があるため、初心者にとって難易度が高く感じます。聴いていてもどちらが難しそうに感じるか?という事で言えば、クライスラーの曲の方が派手で、難しそうに聞こえるのが自然です。
アマチュアの人が楽譜を音にする「だけ」なら、ゆっくりした曲・同じリズムが繰り返される曲のほうが演奏しやすく感じます。
おそらくプロの演奏家にとって、どちらが難しいですか?と聞けば多くの人はアルヴォ・ペルトが難しいと答えるのではないでしょうか。
一言で言ってしまえば「粗が出やすい」という事です。もっと言えば、演奏者の技術があらわになるとも言えます。
音楽的な表現もさることながら、弦楽器、管楽器、声楽の場合に長い音を演奏することは基本的な演奏技術である「ロングトーン=長い音」の技術があげられます。弦楽器の場合、弓の長さいっぱいに、出来るだけゆっくり動かしながら、音の大きさと音色を均一に弾くことは、本当に難しい技術です。
特に弓の速さと圧力の関係を、腕が伸びた状態=弓先でも、腕を曲げた状態=弓元でも同じようにコントロールすることは、至難の業です。簡単そうに思えますが、ただ音が出ればよい…のではなく、必要な音量を維持しながら、震えたり、かすれたり、つぶれたりしないように音を出し続ける集中力も必要です。
例えていえば、刷毛を使って、看板に文字や絵を描く職人さんがいます。
下絵もなく、ガイドラインもなく、一回で書き上げていきます。あの集中力は見ていてうっとりします。
身近な例えで言えば、筆で同じ太さのまっすぐな直線を書こうとしたら…
難しいことは想像できますよね?それに似ています。
速い音楽、言い換えれば短い音の連続した音楽を演奏する場合、弦楽器では右手と左手の運動の連携が最も難しい技術かも知れません。もちろん、アマチュアの人にとって…の話です。右手左手を、ある時は分離して動かし、ある時は同期させて動かすことは、慣れが必要です。以前にも書きましたが、一つの運動に集中すると他の運動は、無意識で運動することになります。両手をコントロールするためには、片方の手に集中しないことです。頭を空っぽにするのではなく、音をイメージして両手ともに「無意識」で動かせれば、分離も同期もできます。
ぜひ、ゆっくりした音楽を丁寧に演奏する練習を繰り返してください。
もちろん、速い曲の練習も必要ですが、基本は長い音を綺麗に弾けることです。
右手一生。そう思って頑張りましょう!
ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介