今回は算数のお話?
いえいえ。これは弦楽器奏者にとっては必須科目です。
ちなみに、音楽の速さや演奏時間の話とは、ちょっと違います。
違うのですが!
アマチュアのヴァイオリニストにありがちな落とし穴があります。
「音楽のテンポが速かったり、細かい音符になると、弓の速度まで速くなる」
という勘違。思い当たりませんか?
音楽のテンポをメトロノーム記号で表すことがありますよね?
四分音符=120=一分間に四分音符を120回均等な間隔で叩く速さ
一つの音符の演奏時間が「短く」なると音楽全体が「速く」なります。
ただし、ゆっくりした音楽の中でも、部分的に細かい音符が使われることも多いので、必ずしもすべての音符が短い、長い、で音楽全体の速さは表されません
つまり、一つ一つの音符の演奏時間の長さは、音楽の速さとは別の問題なのです。
さて、弦楽器を演奏する時に使う「弓」をダウン・アップと動かす運動があります。この運動の速さと、弓の量(長さ)と、音の長さについてが今回のテーマです。
小学校で習った「速度×時間=距離」という公式(ってほどのものでもない?)
時速5キロメートルの速度で1時間歩けば、5キロメートル移動する。←あってますよね?(笑)
これを、楽器の世界に置き換えると…
・弓を動かす運動の速さ
・音が出る時間
・弓の長さ(使う長さ)
になります。ここまで、大丈夫ですか?
実際にわかりやすいのは、「音を出す時間」「弓の長さ」の二つです。
弓を動かす速さを測ることを忘れがちです。速度計があるわけでもなく、動きの速さを表す単位が「秒速〇〇センチメートル」と考えて演奏する人もいないでしょうね。ましてや時速〇〇キロメートルなんてありえない。
でも、実際に演奏している時には弓を動かす速さ(ダウンとアップ)は考えることはとても重要なことです。
具体的にひとつの例をあげます。
メトロノームを「60」で鳴らします。1秒ごとに1回の音がします。
弓の毛の「すべて=全弓(ぜんきゅう)」をつかって、切れ目なく(音と音の間に無音の時間をいれないで)音を出したとします。
以前にも書きましたが、この全弓は人によって違って構いません。
鵜Dの長さによって、弓の一番先の部分まで届かなければ、腕を伸ばしきった場所と、弓の元の金属部分ギリギリまでの間を「全弓」と考えてください。
この長さの弓の毛を使って、1秒間音を出し続ける時、金一の速度で弓を動かすことが出来ているでしょうか?
動き始めが「遅すぎ」ると、全弓使えずに途中で反対方向に動かすか?
または「まずい!余る!」と思ってから速度を速くして無理やりつじつまをあわせていませんか?
「均一の速度で、1秒間に、全弓を使う」
これ、簡単そうでとっても難しい技術です。
2秒間だと簡単?はい。1秒間で弓の真ん中を通過する速度ですね。
簡単に感じるのは「ごまかせる」からなのです。
1秒間で全弓を使おうとするとかなり速い速度で腕を動かすことになります。
最少は2秒間()メトロノーム2回分)で反対方向に弓を「返す」練習から始めるのも良いでしょうね。
この弓の「速度」を感覚的につかむことが、とても重要です。
1秒に1回の速さで、弓を返す時の「弓の量=弓の長さ」が、弓の速度です。
・弓の速度を変えずに、弓の量を変えれば、音の長さが変わります。
・弓の速度を変えずに、音の長さを変えれば、弓の量が変わります。
↑これっは同じことを言い換えただけです。ですが、弓の速度を考えるのが難しいので、
・音の長さを変えずに、弓の量を変えると、弓の速度が変わる。
・弓の量を変えずに、音の長さを変えると、弓の速度が変わる。
↑これは、どちらも「弓の速度を変える」ことで「音の長さ」と「弓の量」のどちらkを「変えない」方法です。
ごちゃごちゃになった?(笑)
そうなのです。
音の長さと弓の量
この二つのことを考えると、必然的に弓の速度を考えなければ「できない」ことなのです。
先生に「もっと弓を使って弾きなさい」と指摘されたとします。
方法は二つあります。
1.音を長くして=テンポをおそくして、弓をたくさん使う方法「弓の速度は変えない方法」
2.弓の速度を速くして、音の長さは変えず=テンポは変えない方法「弓の速度を変える方法」
多くの場合、2の方法を用います。
弓の速さは、えてして無意識になりがちです。
弓の圧力と、弓の速度、弓の場所で音色が大きく変わります。
弓の速さを一度、良く観察してみることを、生徒さんにお勧めしたいと思います。
ヴァイオリニスト 野村謙介