皆さんは、録音された自分の声を聴いて、どのように感じますか?
私は生きていて、「きらいなものトップ3」に入るほど、自分の声を聴くのが嫌いです。ちなみに、その他2つは「虫さん」と「視野検査」
拡声された自分の声も耐えられませんが、自分に聞こえる自分の声のほうが大きい場合には我慢できます。したがって「カラオケ」は生まれてから61年間で、一度だけ…教員時代の忘年会で歌わされた…しか経験がありません。
カラオケ大好きな方々は、自分の声がスピーカーから大音量で流れてくるのが、気持ちいいのでしょうか…。尊敬します。本気で。
自分が聞いている自分の声は、鼓膜から脳に伝わる空気の振動よりも、頭蓋骨を直接振動させた神童「骨伝導」を音として聞いている割合のほうが多いので、録音された自分の声、つまり空気の振動である「音」と違うのです。
自分の聞いている自分の声は、自分だけにしか聞こえない「声」です。
録音された自分の声を、みんなが聞いている…そう思うと、ぞっとするのは私だけでしょうか?(笑)みなさん、ご迷惑をおかけしております。ごめんなさい。話をしないとレッスンできないし、何より自分の声が嫌いなくせに、よくしゃべる変な人なんです、私(涙)
カラオケはしなければ良いのですが、ヴァイオリンやヴィオラを弾いている時に、自分に聞こえている自分の楽器の音は?
耳元で空気を振動させているのは、弦と表板と裏板。これは普通の音です。しかも、距離にして数センチしか離れていない場所に音源があるのは、多種ある楽器の中でもヴァイオリン・ヴィオラはかなり特殊。しかも、左耳だけ(笑)
その他の「自分の楽器の音」は、骨伝導で顎の骨と鎖骨から伝わる「振動」であり、ほかの人には聞こえていません。この骨伝導と耳元数センチの空気振動。
どう考えても、離れた場所で聞いている人が聞いている、自分の楽器の音とは違います。自分の弾いていると音を、リアルタイムに離れた場所で聴くことは不可能です。録音された音を聞くとどうなるでしょう。録音された音を、自分以外の人が聞いて「うん。こんな音だと思う」という、あいまいな音を聞くことしかできません。その音が、自分にとって好きな音なのか、いやな音なのか。どんな名ヴァイオリニストにも、幽体離脱でもしない限り判断できないことです。
声楽家ってすごいと、今更ながら思います。
自分が演奏する、自分のヴァイオリンの音を、自分で評価するためには、他人の評価がとても大切なことになります。
先ほど書いたように、録音した音は再生する機械によって、音色や音量が変わります。演奏している瞬間に、他人が聞いている自分の「音」とは違うのです。
聴く人によって主観的に「大きい音」だとか「きれいな音」「汚い音」という評価は変わります。数値として測っても、それが人間にとって聞き分けられるものであるかと言うと違います。カタログにある「数値」が自分の耳で聞き分けられる人はいないことでも証明されます。
他人の評価を素直に聞くのはつらいことでもあります。
それでも、一人でも多くの人に自分の音について、評価してもらい、一人の意見だけに左右されず、常に謙虚な気持ちと挑戦する気持ちを失わないこと。これができないと、自分の出しているヴァイオリンの音を、自分で評価することができません。
練習する時に、常に自分の音に妥協せず、否定せず、人に聞いてもらっている気持ちで練習することって、大切ですね。
さぁ。自分のヴァイオリンの音を探すために練習しよう!
カラオケできないヴァイオリニスト 野村謙介