「自分の好きな音で演奏できるようになりたい」
趣味として演奏を楽しむ方にも、仕事として演奏する私たちにも、共通の願いですね。
自分の好きな音が出せないという気持ちを、少し斜めから考えてみます。
そもそも「好きな音」は記憶に残っている外部から聞こえてきた音です。
自分の楽器を他の人が弾けば、全く違う音に聞こえます。
「先生が弾くと私の楽器もいい音がするんだけどなー」と幾度どなく生徒さんがおっしゃいます。
自分が楽器を構えて演奏しているときの音を冷静に聴くことが何よりも大切です。
どんな音が出ているのかを常に楽器に問いかけます。
少しだけ弾き方を変えて、また楽器の音に耳を澄まします。
楽器が「こんな音になるよ~」とあなたに答えてくれるはずです。
楽器を自分の技術でねじ伏せようとする人がたくさんいます。ちょっと楽器が可愛そうです。
力や技術で楽器より演奏する自分が「上」に立ってしまうと楽器はただの道具になってしまいます。
私たち演奏者自身の「筋肉」「関節」を自分自身がコントロールすることが一番難しいのです。
楽器を自分の身体の一部に感じるために、楽器と接する身体のどの部分もが、繊細な感覚を持っていなければ、楽器の響き、動きを感じ取ることができず、感じられなければコントロールすることもできないという、連鎖に陥ります。
楽器を構える前に、そして、音を出す前に、自分の身体の足先から頭のてっぺんまでのすべての部位を自分がコントロールできているか確かめてみましょう。
私の恩師、久保田良作先生の教えは「腰を安定させる」ことに大変厳しく、太ももに力を入れ、お尻の筋肉を内側に向かって力を入れ、つま先が少し浮くくらいのくるぶしに重心が来るように立ち、肩を下げ、あごを引き、頭を上に引っ張り上げる¨という「立ち方」にこだわったものでした。これはメニューインの指導書にも書かれていることです。
こうして立ちながら、楽器を構え、音を出すのはとても難しいことです。
音を出すことに神経が集中してしまいます。音に反応して体が硬くなります。
そうならないように、常に太ももと腹筋に力を集中することで、上半身の不要な力が抜けることが、やがて実感できるようになります。
姿勢は単にカッコよく見せるためにあるのではありません。自分の身体をコントロールするために大きな筋肉である太もも、足、おなかに力を集中し、首、上腕、手首、指の力を「必要最低限」に使うことが大切なのだと、この年になって感じるようになりました
話を戻し、自分の好きな音を感じられるようなるまでの道は、とても長いものです。言い換えれば、どんなに練習してもたどり着けない「見えない頂上」です。でも、だからと言って、諦めたらそこで終わりです。
かといってストレスだけを感じながら練習するのは意味がありません。
少しでも自分の好きな音を出すために、時間をかけて楽器と対話し続けること。
それこそが、楽器と仲良くなることの意味だと思います。
生徒の皆さんと同じように、私も日々自分の音を探し続けています。
頑張りましょう!
メリーミュージック
野村謙介