ガット弦で演奏する意味

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 映像は前回のデュオリサイタル14、代々木上原ムジカーザでの「ラベンダーの咲く庭で」です。この演奏でも、今回のリサイタル15でも私のヴァイオリンに使用する「弦」はいわゆる「ガット弦」です。現在世界で唯一ガット弦を作っている、ピラストロ社の「オリーブ」その「ストレート弦」を使用しています。現在、多くのヴァイオリニストがナイロン弦を使用して演奏しています。「好み」の問題ですから、どちらが正しいと言う答えはありません。私がガットの弦を使用する「意味」について、ナイロン弦との違いを書いてみます。

 私の感じる最も大きな違いは「音色の豊富さ」です。ヴァイオリンの音色は、楽器そのものの個性と、演奏者の技術と好みによって大きく違います。弦の種類によっても音色が大きく変わります。同じメーカーの弦でも、ブランド=商品によって音色が違います。実際に、多くのナイロン弦を自分のヴァイオリンに張って試してきました。実際にリサイタルで使用してみたことも過去にあります。
 メーカーのホームページを見ると、弦の種類ごとに特徴が掛かれています。当たり前のこととして「良いこと」しか書かれていませんが(笑)その特徴が「間違っている」とか「信用するな」とは申しません。ただ現実には音色の「判断」や「評価」は聴く人の個人差があります。さらに演奏する楽器の個体差、演奏するヴァイオリニストの技術・好みによって、同じ弦でも音色が変わるのは当然のことです。すべての楽器の音色が違い、演奏者によって違う音色なのに、弦による「特徴」「評価」がひとつになることは、物理的にあり得ません。あくまでも、メーカーの評価やブログ、楽器店が書いているのは「ある楽器を誰かが演奏したとき」のものです。同じ楽器に違う弦を張って、同じ演奏者が演奏したとしても、その特徴が他の楽器、他の演奏者でも現れるかと言えば?答えは「みんな違う」のです。自分の楽器に張って、自分で演奏比較したときの「感じ方」で好みを判断するのが一番です。むしろ、それが唯一の選択方法・比較方法です。自分の耳で判断することができなければ、どんな弦を使用しても結果は「??」で終わります。

 ガット弦の音色は、弓の圧力、弓の速度、演奏する駒からの距離、左手の押さえ方、弦の長さ=ポジションの位置によって、本当に大きく変わります。ナイロン弦と比較した場合に、その「差の大きさ」が全く違います。
 つまり、演奏中に出せる音色の種類が多いのがガット弦の特徴だと言えます。
言い換えると、演奏の仕方が微妙に変わるだけで、大きく音色が「変わってしまう」とも言えます。指使い、弓の速さによって音色が変わることを「迷惑」と考えるのであれば、ガット弦は使わないことです。微妙なコントロールが必要になります。そのコントロールを「技術」と捉えるか、「無駄な労力」と捉えるかによって、ガット弦の価値観が変わります。
 ガット弦の音色の変化量が少なくなった時が、弦の寿命です。使い方と管理の方法、季節によって差がありますが私の場合、約3~4カ月はガット弦で演奏し続けても不満はありません。「ん?音色が変わらなくなったぞ?」と思うのが3~4カ月経ったころなのです。

 ガット弦を「嫌う」人が良く仰ることをいくつか挙げてみます。
・弦の伸びが安定するまでに時間がかかる=調弦が面倒くさい
・切れやすい←これは明らかに間違いです。
・音量がナイロン弦より小さい
・価格が高い
・種類=選択しが少ない
比較するナイロン弦やスチール弦にもよりますが、結局「コストパフォーマンス」と「価値観」の問題です。
ナイロン弦にしかない「良い特徴」は?私には見当たりません。
スチール弦には「安い」「音が大きい」という特徴が明確にあります。
ガット弦のデメリットと言われている上記のようなことは「間違っている」ものがほとんどです。なぜ?事実と違う情報が実しやかに言われているのでしょうか?おそらく「ガット弦を使ったことのないアマチュアの思い込み」が最大の原因です。さらに考えられ原因は、ガット弦を製作販売しているメーカーが一社しかないのに比べ、多くのメーカーがナイロン弦を作っているという「絶対数」の違いです。
 私は学生時代からガット弦を使用してきました。「ごく当たり前に」ガット弦で演奏して、ナイロン弦を試した感想としてガット弦の良さを再認識した一人です。これからも、ガット弦を愛用していきたいと思っています。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介

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