クラシック音楽で生活できる人とは?

 映像は街の中で突然、プロのオーケストラメンバーが第九を演奏したら?と言う楽しい映像です。「プロ音楽家」と言う言葉を「職業音楽家」と言う概念に置き換えて書いていきます。
 様々職業がある日本で、音楽を演奏して=職業として、生活している人も数多くいます。ただ、その数を正確に把握している統計がありません。なぜなら、クラシック音楽という定義があいまいであり、どんな業種までを音楽家として考えるかによって統計が変わるからです。日本○○協会所属の人数だけではないことも事実です。演奏のほかにレッスンで収入を得て生活している人も多くいます。クラシック音楽以外の音楽「も」演奏する演奏家もいます。自宅でひっそりとレッスンをしてお小遣いを稼いでいる人もいます。
 生徒さんにクラシック音楽を教える中で「音楽家を目指す」人に出会った時に、戸惑うのは私だけでしょうか?音楽大学で教鞭をとる先生の中にも、似たような気持ちになる人もいるのではないでしょうか?
 現代の日本で、クラシック音楽を学び「プロ」になって生活していくことを夢見る人たちに、指導する私たちはどのように?対応するべきなのでしょうか。
あるいは、どうしていくことが必要なのでしょうか。

 時代と共 に、クラシック音楽の需要は変わります。演奏を楽しむ方法も変わります。これからも変わるでしょう。私たち60代の人間が学んだ期間の中で、どんな変化があって今は、どうでしょうか。これからを予測できるでしょうか?
 音楽大学を卒業すれば、プロの演奏家になれる時代もあったかもしれません。
音楽大学を卒業していなくても、プロになれるのは今も昔も変わらないかも知れません。プロのクラシック演奏家として、生活できる「音大卒業生」の割合は、年々下がっているように感じます。これからも下がるとしか思えません。
それでも日本中に「音楽大学」や「音楽高校」「音楽専門学校」があふれています。こんなに必要なんだろうか?と思う数です。むしろ、どうやって学校経営を維持しているのか?不思議に感じます。少子化の中、追い打ちをかけるような長い不況とコロナ。高い学費を払えない家庭環境も増えているはずです。

私亜h クラシック以外の音楽に少しだけ目を向けてみます。
いわゆる「大衆音楽」と言われる世界も、常に変化しています。
アイドル全盛だった時代の「歌謡曲」と、現代の「J-POP」を考えると、「売り方」が大きく変わりました。テレビに出演することで知名度を上げていた時代から、ネット配信で知名度を上げる時代になりました。そんな変化の中でも、プロダクションは今もあります。路上ライブはコロナの影響をまともに受けた業界です。そんな変化がありますが、クラシック音楽を学ぼうとする人との違いは、今も昔も変わらないように思います。
 ポピュラー音楽を愛好する人数と、クラシック音楽を愛好する人数の「比較」を考えても、私たちが若かった時代と今と、大きな違いはないように感じます。ピアノを習う人口が激減し、音楽教室が次々に閉鎖されている現代でも、趣味でクラシック演奏を楽しむ人は少なからずいます。
一時的な「バンドブーム」は終わりましたが、アコースティックギターを楽しむ人、ストリートピアノでポップスを演奏する人も多くいます。
 一般にポピュラー音楽を「学ぶ」人は少ないのが実状です。
一方クラシック音楽は?なぜか「学ぶ」イメージが付きまといますよね。
特にプロの場合に顕著に違いがあります。つまり、世間的な感覚で言えば、
「クラシック音楽は習ってプロになれる」で「ポピュラー音楽は独学でもプロになれる」なのかも知れません。本当にそうでしょうか?私は違うように思います。

 ショパンコンクールで入賞した反田恭平さんが「株式会社」としてプロのオーケストラを立ち上げました。2030年を目標に新たな「学び舎」も計画しているようです。エネルギッシュな活動に敬意を表します。プロの演奏家が「働く」環境として、演奏者を「社員」とする発想はとても斬新なものです。が…
クラシック音楽を「学んできた」若者に、企業の一員として労働する「社員」という感覚が持てるのか?という疑問があります。要するに「演奏するだけ」で「給料」がもらえると言う意味で言えば、プロのオーケストラと何ら変わらないことになります。本来、企業なり学校なりの「組織」で働く場合には、勤務の内容と能力、年齢によって「俸給」が変わります。それをオーケストラに当てはめると、演奏以外の業務と演奏の「対価」に差をつけるのか?つかないのかという技術的な問題があります。また、演奏技術によって俸給を変えるのか?年齢せいなのか?という問題もあります。株式会社の場合、株価によって企業の業績が変わります。オーケストラのメンバーが「株価」の対象になることにあります。それってどう思われるのでしょうか?演奏会の収入と広告収入だけで運営する財団と違う点を音楽家が理解できるとも思えません。

 いずれにしても、ひとつのプロオーケストラで雇用できる人数は、たかだか数十人です。はじめは良くても、毎年雇用される人数は数人になります。いくらプロのオーケストラを作っても、供給が多すぎるのです。音大卒業生が多すぎるのです。それをわかっていて「音大を目指せ」って指導する側で考えれば、本人に責任をすべて負わせて「あとは知らん」ですよね。もちろん、本人の意思が第一です。ただ、現実問題として「需要=雇用」を増やす方策を考えることが、まず必要だと思います。オーケストラを作るのではなく、プロの演奏家と指導者を「求められる」社会を作る努力をすることを、いったい誰がするのでしょうか?
音大同士がお互いを「潰しあう」のではなく、一緒に社会を変えていく「知恵を出し合う」関係にならなければ、クラシック音楽を教育する環境は、ますます狭くなると危惧しています。 
 偉そうに書いてすみません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ヴァイオリニスト・ヴィオリスト 野村謙介